仲達と仁軌
藍を見送った後、それぞれの帰国の途に就く前、酒店で飲みながら語り合っていた。
月涼との別れ方が気になっていたからだ。
これまで、共に過ごしたのもありこのような別れ方は、納得いかなかったのである。
「仲達、西蘭の陛下は、月涼の件をご存じなんだろうか?」
「月涼の件がどのように伝わっているのか見当もつかないな。個人的な事だから何も連絡はない。帰国次第聞いては見るつもりだが・・・月涼は、もともと存在しない人物だからな。公にも聞けない。」
「そうか・・・。だが気になる。あいつがそんなにあっさりと連れて行かれるような事態かおこるなんて。」
「そこだな。本人がそう易々とついていくわけでもない。それで、私なりにこちらの伝手を使い、月涼の行方をいろいろと探りを入れて分かった事がある。月涼の見合い相手なんだが・・・青華国の第4皇子のようだ。だからな、今回ばかりは本人の気持ちだけで、簡単には断れない相手ってことだ。それと、これは皇后陛下のご意向だが、東宮妃候補から外すために青華国への留学の話が出ていたらしい。」
「なるほど・・・だが、あいつだぞ・・・。」
「そうだ・・・。留学するならするでこんな形で、しかも藍を置き去りにするはずがないからな。」
仲達が答えながら仁軌に酒を注いだ。仁軌は注いでもらっら酒を口にしながら言った。
「久しぶりの二人での酒がこんな形になるとはな・・・仲達。なんだか、目まぐるしく動くせいでとても長い時を過ごしている気がして仕方がないな。」
「あぁ。」
北光国との正式な和睦調停が範安で行われてから、二人は度々顔を合わせていた。
お互い使者として遣わされたからだった。その度に、二人で酒を酌み交わし交流を深めていた。性格もだが武芸のこと書物の事いろいろと趣味があったのだ。
あの日は、和睦調整も斉明公女の入宮で終わりのはずで、二人はしばらく会うことが無くなるから『飲もう』と約束をしていた日でもあった。それが、今回の様な事件となり今に至る。
しばらく、酒を注ぎあってからぽつりと仲達が言った。
「藍だけに任せるのは酷だ・・・。」
「だな・・・。」
「陛下に許しをもらって青華国へ行こうと思う。」
「うむ。私も行こう。あいつのお陰で結んだ縁だ・・・。」
「いや、仁軌さん北光国から許可がでますか?それに、珠礼と良い感じだと言っていたではないですか?久しぶりに・・・と。」
「珠礼のことは、この先長いからゆっくりで良い。それより、私が共に行くために一つ西蘭の陛下に頼んでくれないか?『この度の件の残処理で私が必要だ』と北光に書簡を出してもらいたい。そうすれば、北光国の失態もあるから嫌とは言いずらいから私も行けるだろう。それに、俺がいるほうが心強いんじゃないか?仲達?」
「いいのか?かなり長くなると思うが・・・。」
「あー乗り掛かった舟だ。このままでは、俺ももどかしいしな。」
そんな話をしながら夜は更けていく。
そして、どのルートを使うかの検討に入った。
西蘭国、北光国、海南国、青華国のある大陸を中央大陸といい各国の位置は、西蘭国を中心として北に北光国、南に海南国、東に青華国である。
西蘭国と海南国は、位置的なこと以外にもかなり密接である。100年前の有事から西蘭国皇室の後宮には、皇室の代が変わるごとに海南国から入宮している。これは、和睦時に結んだ条約の一つだ。そして、民間でも交流は盛んで貿易も良好であり、多種多様な文化も幅広く受け入れられている。
受け入れられた理由の一つとして、宗教の同一と言うのもあるだろう。
その結果、民間でも婚姻を結ぶ者が多く実際、仲達も仁軌も母親は、海南国出身だ。
対して、青華国は華山とその裾に阿寒湖を挟んでおりその付近は北光国と海南国の国境となり隣接していない。その為、国交が薄い。貿易面でも薬が主流なくらいだ。だが、青華国の独特の文化に魅せられて多くの者が留学を志願する。
北光国と言えば、大陸の北に位置し西蘭と隣接している大半は、山脈となっているが一部の平野が豊かな大地で争いのもととなっていた。北光国は、冬は雪深く土地がやせているところが大半の為、この平野が欲しかったのである。
この度の和睦にあたり、この平野の端にある範安の街を整備し、川の氾濫治水工事に北光国からも人を出すことや平野での農耕を共同で行い経営するという形で和睦を結んだのである。斯くして20年近く渡る小競り合いの様な戦争は終結したのであったが・・・今回の件で北光国は、せっかく鉱山から出始めた金を独占的に扱えなくなった。一人の公女の犯したことによる損失はかなりのものである。
仲達と仁軌は、一旦帰国後、範安で落ち合い北光国から青華国へ入るルートを選択した。
海南国に回ると海から首都へすぐ入れるが、船旅の為、日数をかなり要するからである。
「藍は、多分・・・あの後、ジアン公の船で出国しているだろうな。積み荷の多さからしても陸路で、あの量の荷物だと天候以外にも賊の出没など危険も多い。」
仲達が予測して話し始めた。
「多分な。それとあの赤い積み荷からして婚礼祝いの品もあったと思う。下手すると、婚儀の中に飛び込む形になるかもしれん。本人が納得しているならいいが・・・していないならな。いろいろあるかもしれんが納得した形にしてやりたい。」
仁軌は、自分の過去と重ねて思わず口をついてそんな言葉が出てしまった。




