海南国入り 3
月涼は、首都に着くとすぐ宿を確保し3人を置いて、道中の馬車ではなく貴族の使う貸馬車を用意して曽祖父の邸宅へ赴いた。
3人を連れて行っても良かったが、曽祖父は、月涼を海南国に住まわせることを諦めていないことも有り話がこじれてしまう可能性を考えたからだ。
「西蘭の涼麗が来たとジアン公に伝えてもらえる?」
門番にそう声をかけると門番が取次の者を呼んだ。
「この方が侯爵様にお会いしたいと・・・。」
その様子を屋敷の中から遠目で見ていた長身の初老が近づいてきた。
「どちら様でしょう?」
「私よ。スルヤ。」
そう言って、月涼はベールを外した。
スルヤはこの屋敷の長でありジアン公の補佐もしている。
「お嬢様・・・。お久しゅうございます。すぐに、公にお取次ぎをします。そこのもの、この方を庭園にお通しして、すぐにお茶を出しなさい。」
スルヤは、近くにいた下人に声をかけて月涼を案内させた。
庭園に用意されたテーブルで曽祖父ジアン公を待つ。
用意された南方特有のお茶の甘い香りが漂う。
「リァンリー(涼麗)!!。お前から訪ねてくれるとは。やっと、私の元に来る気になったのかい?」
杖を突きながらだが、しっかりと歩いてくるジアン公。その傍らには、曾祖母のアティア夫人もいた。
二人とも涙を流しながら月涼の前に座った。
「大おじい様、大おばあ様お久しぶりです。」
「息災の様じゃな。なんと美しくなって。ユエファ(月華)によう似てきた。風の便りに、お前が東宮妃に上がるとか来たから絶対に許さないと書面は出しておいた!!出して良かった。こうして来てくれたのだから・・・。」
ん???そんな話聞いてないんだがと思う月涼。
とりあえず、お願い事もあるし、この場は、丸く収めねば・・・・。
「大おじい様、後宮になど入りませんよ。私は、堅苦しい決まりごとの多い場は苦手ですしね。」
にっこり笑って答える月涼に、ジアン公もアティア夫人も満面の笑みをこぼす。
月涼は、王城への書面発行をどのように切り出そうかと考えていたが先ほどの話を利用しようと考えた。
「大おじい様を尋ねたのは、少々お願い事がございまして・・・。」
「うむ。お前の頼み事なら何でも聞くぞ!!但し、これから先、お前の顔が見たい時に見れるようにしてほしい。それだけじゃ。それとのう・・・お前も良い年頃になった。例の件もあるがそれを承知でお前に会いたいと言ってくれる者がおる。その者と一度でも、会ってくれれば良い。私も老い先短い身じゃからの。あまり、待てぬ。」
んー・・・。なんかぶち込まれてきたぞ!!二つも!!
さらに厄介ごとがと思う月涼だが、これを真っ向から断るわけにもいかない雰囲気になっていた。
なんだか、知ってたかのようなこの状況が腑に落ちない。
情報通のスルヤのことだから、先にどこかで仕入れていたかもし知れない。
あー、藍を置いてきて良かった~。
何を言い出すか分かんないからな。と、頭の中でぼやく月涼。
「分かりました。大おじい様の気持ちも良く存じております。すぐに、こちらで住むことは難しいかと思いますが・・・今の困りごとをまず解決せねばなりません。その後、じっくり話を伺いに来ます。それまで、お待ち頂けませんか?」
「お~よし、分かったぞ。して、どのような願いじゃ?王城への入城書面か?」
やっぱり、なんか知っているな・・・。
スルヤが直ぐに出てきた事といい・・・。
見合いだけは、しなくちゃ収まらないな・・・月涼は、逃げ道を失ったも同じだった。
「お嬢様、馬車の中から子猫が飛び出してまいりましたが・・・。どういたしましょう。この子猫見たところ血統書付きの青華国で有名な柄の良い猫の様ですね。どちらでお求めになられたのですか?」
「えっっそうなの?ここに来る途中に宿泊した宿からついてきたのよ。なついちゃって。でも、連れて回れないし、帰国するまで預かってもらおうかと思ってたんだけど。スルヤお願いできない?必ず迎えに来るから。」
月涼を見つけた子猫は、すぐに飛びついてきた。
おちびちゃん、そんな高貴な猫だったのね・・・あの宿の飼い主は怒ってんだろうな・・・そんなことを考えつつ抱っこして撫でながら、いい子だからここで待っててねと子猫に話しかける月涼。
「お嬢様、それでは、お迎えに来られるまで大切に子猫を預かりましょう。それと、その宿屋にこの猫の対価もお支払いしておきます。それでよろしいですか?」
「悪いわね。スルヤお願いするわ。」
その後、曽祖父母と食事をとりながら、書面の準備と王城への根回しをしてもらい再び、3人の待つ宿に戻った。
「月~遅いじゃん。帰ってこないから心配したよ。」
「月涼、書面は頂けたのか?随分時間がかかっていたが?」
仲達も仁軌もそれなりに心配していた。
「もらってきました。これです。入城の根回しもしてもらって来ています。明日、向かいましょう。」
書面を広げて見せて、明日の手筈を話し合い。ジアン公での出来事をかいつまんで話した。
「あーあの子猫預けてきたんだけど・・・青華国の高貴な猫らしい。」
「えっっ宿屋のおばあさん怒ってんだろうな。」
3人は、声を揃えて驚いていた・・・。




