海南国入り 2
「部屋は、二つとってあるぞ。さすがに、一つの大部屋じゃ、月の着替えが大変だからな。俺は見慣れているけど。」
なんか、変に自慢げに話す藍。
「なんで、大変なんだ。」
仁軌がすっかり忘れて聞いてしまう。こういうところは、少し天然だ・・・。
「仁軌さん、月は、女性です!!」
藍がちょっと怒る。
「お、お~そうだった。そうだった。しかし、私は、涼麗としての姿を見たことがないから、ピンとこないんだよ。すまん月涼。」
「良いですよ・・・別に。私は、月涼として過ごす時間の方が遥に長いですし。この格好の方が好きですから。女人の物は、捌いて歩くのとか大変じゃないですか~・・・。それより、藍、お前はどっちで寝るんだ。?」
「えっ、俺は、月のそば仕えだから、月から離れません。」
満面の笑みで答える藍に、仲達と仁軌は、やっぱり、忠犬だ!と思うのだった。
案内された部屋で荷を解いて、それぞれ、明日の準備にかかった。
月涼は、明日から涼麗として過ごすため、衣類、化粧道具を準備したりと、他の者より忙しい。
「月~このビラビラ何?」
さっき、月涼が買ってきた着物を見て言う藍。
「あー、それは、ベールと言ってこっちの国は日差しがきついから、顔覆うんだよ。こうやって。」
「おっ見たことあるぞ。」
「そうだろ。」
などと会話しながら、藍が明日の準備を手伝うのだが、邪魔しているに等しい。
「俺はさ、月は月涼の時の方が好き。」
「だろうな。そんなことはどうでもいいから寝台整えといて、藍。一緒に寝るんだろ。」
「うんうん。腕枕してやるからな~。月。」
藍がそば仕えになって、傍らで寝るようになってからといもの月涼は、寒い時に藍の布団に潜り込んで良く寝ている。最近では、寒くなくても一緒に寝るのが当り前になっていた。
だが、何も起こらないのだ・・・・・・・。というか二人ともそんな事を考えたこともなかった。
一方、仲達、仁軌の部屋では、
「おい、あの二人いつも一緒の部屋で寝てるような会話だったよな?」
「うむ。そういう感じだな・・・。」
「仁軌は、二人を見てどう思う?」
「そうだな、ご主人と犬。」
「だよな。まさかな・・・。」
「ないな。いや、絶対ない。しかも多分もう寝てる。」
そんな会話が交わされつつ夜は更けていった。
翌朝、月涼は、涼麗姿で仲達、仁軌の前に出てきた。
「目の保養にはなるが、なんだな、月涼の方が・・・。」
「仁軌もそう思うか。私もそう思う。慣れなくてな~。話しづらい。」
「どうでもいいですけど。私は私です!!ここから、馬で2刻ほどでアナンの街です。そこで一度休憩をとった後、いっきに首都まで行きましょう。」
4人は馬に乗りまず、アナンの街へと向かった。
「昨日の寝台ふかふかだったな。月。」
「あーそうだったかな。覚えてない。すぐ寝たし。間にいた猫の方が温かった。」
その時だった。
「にゃあ。にゃあ。」
「・・・・・・・・・紛れてるよな。昨日の猫。」
ひょっこり月涼の積み荷から顔出す子猫が落ちそうになったので、それをかばおうとした月涼が落馬しかかった。仲達が馬を寄せて、月涼をひょいと抱きかかえた。
「すみません。仲達さん。いつもの格好じゃないのでバランスを崩しました。(にゃあ~)」
とっさに取った行動とはいえ、涼麗姿の月涼に思わず仲達が赤くなる・・・。
「いや、気をつけろよ。」
「あー!!仲達さん顔が赤い。だめですよ!月は!」
「お前!!ふざけるな!!」
仁軌がふんと鼻で笑う。月涼は、子猫を胸元に入れて馬に乗りなおした。
アナンの街へ着き食事を軽くとり、馬を休ませる。ここからは、かなり整備された道が続く為、馬車を手に入れることにした。この手配は、交渉事が得意な藍に任せた。
藍は、早速、馬車を探してきた。
「都合のいいのがあったよ。馬付きでなくていいならって売ってくれた。」
少々、傷んでいるが乗れないわけでもない。さっきまで乗ってきた馬を繋ぎ、荷物を積んだ。
積み荷に紛れた子猫を預ける先を探したが見つからず、結局、首都まで連れて行くことにした。
「こいつ、月のこと気に入ったんだろうな。昨日、俺たちの間で寝てからずっと月にくっついてたからな。」
俺たちの あ・い・だ???
この言葉に仁軌と仲達が顔を見合わせる。
『ないって!絶対ありえん。』
『しかし、あ・い・だっていったぞ!てことは、同じ寝台だろ?』
頭の中で会話する二人。
「お、お前たち・・・?同じ寝台で寝たのか?」
仲達が恐る恐る聞く。
仁軌は唾を呑み込んで、二人を見ていた。
ん???なんだこの空気???と月涼と藍は思う。
「いつも二人で寝てますけど・・・。昨日は、この子が間にいたから2人と1匹ですね。」
「お、おい、そういう仲に・・・。」
「えっっ仲って???何が?」
きょとんとして、全く分かってない月涼と藍。
真っ赤な顔の仲達とどっちなんだと興味津々の仁軌・・・。
馬車の中でこの妙な空気と時間が流れた後、藍が爆弾を落とした。
「月の腕枕をするのは、俺の役目だ!!ふん!」
「うん。良い枕だ。この腕は。この子猫も気に入っていたぞ。藍。」
月涼の言葉で馬車の中は、妙な雰囲気がさらに増したのは言うまでもない。
そして、子猫の持ち主である宿屋の老婆は絶叫していた。『血統書付きの猫が逃げたと・・・。』




