海南国入り
国境河川関所から海南国への手続きを経て航路を行く一行。
「月涼、アビス港まで、あとどれくらいだ。この船だと半日以上はかかります。着くのは夜半ですね。」
「そうか。しかし、斉明公女はなぜ海南国の王族の船に乗れたんだ?仁軌はどう思う?」
「分からん。お前たちの話だと市で買い物をしていただけで、公女も気に入ったものを見ていたとかってことだったな。目を離した隙に青い瞳の赤髪の男について行ってしまった・・・この男が王族ってことか?」
「そうですね。海南国の王族の特徴は、緑瞳に赤茶から栗色の明るい髪色です。特に瞳の色は独特です。直系だとかなり深い緑の瞳で青に近いです。私の聞いた店の者も藍が聞いた店の者もそのような特徴を言っていたらしく。そうだな?藍。」
「あぁそう言ってたよ。俺が聞いたときは、緑瞳だった。光彩で変化する瞳なんだろうな~。簪を買ってもらって髪にさしてもらったりして、川に花を見に行くとかはしゃいで、かなり親しそうだったとも言ってた。多分・・・知り合いじゃないかって。あっ!もしかして、もしかすると馬車で言ってた一目惚れの相手の王太子なんじゃないのか?」
「藍、ちょっと待て、いったい何の話をしてるんだ?」
仲達と仁軌が聞く。
藍は、その時の様子を再現して身振り手振りで話し始めた。
「『その時、ビビっと来たのですわ。此方の夫になる方だと!!ですから一人で生きていくと決めましたの。』だとかなんだとか・・・とにかく馬車の中で公女様は、海南国の王太子に一目惚れして、一人で海南国へ行こうと決めたって、ご自分でそうおっしゃいましたよ。」
輿入れ前の(元)東宮妃候補が恋をして逃避行・・・だと聞いて絶句する二人。
「おい、月涼、本当なんだな?」
「はい。そうですね。今、藍がやってみた通りのことを言いましたね。」
「頭痛がしてきた・・・。」
仁軌がそういうと仲達も頷く。
「しかしなんて、タイミングで来てたんだろうな・・・。どちらにしてもだ。」
そんな話し合いが続く中、船はゆっくりとアビス港へ向かう。
途中、藍は眠たくなったのか月涼の肩に頭を置いてウトウト眠り始めていた。
お、重いけど、まぁ仕方ない。私もいつも膝を貸してもらって昼寝するしな。
ふっと笑いながら藍の寝息を聞いていた。
その様子を見ながら仲達と仁軌は、お前たち、いつも逆転してるよな・・・と思うのだった。
船は、予定通り夜の入港になった。
港は、遅い時間の割には、とても賑わっていて外灯により輝いている。
船が数隻入港する為、いつもより多めに灯されており、更に、ガラス細工が特産品である国だけあって外灯には、全て、細工の施された色ガラスが使用されておりとても美しく明るい港だった。
「相変わらず美しい港だな。」
仁軌が懐かしそうに言う。
「そういえばこの国は、ともしび草が多く自生しますよね。あの外灯にも使われているんでしょうね。」
月涼は、藍を起こし、下船の準備をしながら答えた。
横で、仲達がそれを聞きながら、藍を起こした。
「藍、寝ぼけてないで行くぞ。腹ごしらえもしたいしな。」
「おっ丁度、腹減ってたんだ~。」
元気よく走って下船しようとするもんだから船が揺れて、藍は仲達に拳骨されていた。
アビスは、海南国の中でも首都に次いで発展した大きな街だ。大貴族もかなりいて郊外には首都に駐留する貴族の別荘も並びを連ねる。
浴場もかなりの数が有り温泉で有名である。諸外国の貴族がこの温泉目当てにやってくる街でもある為、酒店も宿屋も多い。
「食事は、そこの飯館が良さそうだな。汗も流したい。遅くまで開いている浴場もこの近くにありそうだな。」
仁軌が指さす方向に割と大きめの飯館があった。
「そうですね・・・荷物もありますし。小さな店より大きめのところでゆっくりしましょう。この街は眠らないとも言われているので、店は、明け方まで開いています。食事の後、浴場に行きましょう。」
月涼がさっさと荷物をまとめ、仲達と仁軌が手分けして持ってくれた。藍は・・・、もう走って、飯館の前で手を振っている。
「おおい、席とったぞ!!」
「あいつ、いつもああなのか?さっきの拳骨は聞いていないようだな。」
「そうですね。あれが藍のいいとこでもありますので。まぁまぁ・・・ははは。」
4人は、席に着き海南国名物の鶏料理を注文した。
暖かい気候の為、辛い物が多い。食べてるだけで、少し汗が出る感じだ。
「旨いが、辛いな。酒が進む。」
仁軌も仲達も同じことを言いながら食べ続ける。
「あまり、飲みすぎないで下さいよ。宿もまだとってませんから。」
月涼がそう言いながら横を見ると藍はもう食べ終わっているようだ。
「藍、ちょっと、良い宿屋がないか?この店の子にでも聞いてきてくれ。」
「おう。任せとけ。店だけじゃなく店の周辺もちらっと見て来るよ。」
「あ、あと着物屋もついでに頼む」
手をあげて、駆け出す藍の背を見て元気な奴だと思う3人だった。
しばらくすると、藍が戻ってきた。
「宿は、この飯館の上階が開いてるって言ったから頼んできたよ。浴場は、この通りの広場辺りと小さめで良いのなら向かい側にあった。着物屋は、広場の浴場のそばに何件か並んでたぞ。」
「ありがとう。藍、助かったよ。」
藍は、月涼の隣に座ってちょっと照れながら、また、一緒に酒を飲んだ。




