脱線 海南国へ 2
見当たらない・・・。焦る月涼と藍。
もう一度元の場所に戻り、聞き込みを始めた。
手掛かりは、青い瞳の男だった。
店主は、斉明とその青い瞳の男が話をしていて、斉明に簪を買ってやったと言った。
「藍・・・。もしかしてもしかするとさらわれたんじゃなく付いて行ったんじゃないかな。」
月涼が考え直して言った。さっきまで、さらわれたと思い込んでいたけど、こんなところに公女がいるのを知っている人が、一体どれくらいいるだろうか・・・?
北光国に他国の間者が紛れていて、何か企てたとしてもあまりメリットがない。
西蘭国と海南国はもともと同盟国で、青華国との有事の時のみ海南国を助けに行く状態なので西蘭を敵に回すとも思えない。
青華国と西蘭は、国境に活火山がそびえっていて国交自体がなく、商人たち同士のみの交流だ。
ただ、北光と東華は、同盟までは言っておらず膠着状態が続いているが、青華国の間者がここまで来て、斉明をさらうのか?といったところだろう。
可哀そうだが、斉明一人のために軍事が動くとも思えない。
という感じで月涼の頭の中は、纏まろうとしていた。
月涼が足を止めて考えにふけっていた時、藍が他の店主からの証言を聞いてきた。
「月、明明は、緑瞳で赤髪の男に誘われて近くに流れる春恩川に咲く、斗琉度の花を見に行ったって!」
「あーこのあたりの河川で咲く、有名な水面に浮かぶ花ですね。根は、薬剤になる。行ってみよう!藍。」
春恩川につくと川岸には、斗琉度の花が一面に咲いていた。そして、船での交流も多いらしく大小沢山の船が行きかっていた。
「嘘だろ~。月・・・。あれ・・・明明じゃない?」
川の中央に見える周りより少し豪華な船で、黄色い声で喜ぶ明明が見える・・・。
月涼と藍は、明明が見つかりホッとしたのもつかの間、どうやってこっちに呼び戻すか考えた。
「あいつ・・・拳骨くらわしてやりたい・・・!!。」
藍が、珍しく怒っている。
「藍、分かるけど、とりあえずあの船に追いつかなきゃいけない。あれだけ、中央に出ているってことは川岸まで戻ってこないかもしれないだろうから。」
「お、おう。そうだな。船を調達するか、川沿いを馬で追いかけるかだけど確かこの川は、だんだん大きくなって海南国の首都へ行くよな。」
あーなんていうことしてくれるんだよ。頭の中でぼやきまくる月涼であった。
「とにかく、仁軌さんと仲達さんと合流しないと。藍は、船の調達ができないか聞き込みしてきてくれ。私は、一旦、宿に戻って仁軌さんと仲達さんがついていないか確認してくる。」
「会えなかったらどうするんだ?宿屋に言伝を頼んでここに戻ってくる。とにかく、あの船の動きを確認しながら、調達作業もしてくれ。」
「分かった。なるだけ、早く戻れよ・・・月。あーそれと、通符も必要だな海南行きの船だとしたら・・・。通符の件は月の方が早そうだから任す。」
藍は、こういう事は、回転が速い。
その頃、自分が何をしでかしているかなど考えもしない明明は、船出を嬉々としていた。
何せさっきまでのおんぼろ馬車の旅が、豪華客船の旅に変わったからである。尤も旅の行先は、すり替わっているのだが、本人にとっては希望通りであるのだから。
月涼は、宿に戻り、仁軌と仲達に手紙を用意して宿主に駄賃を渡して頼んでいた。
「連れ合いが後からつく予定だ。この手紙を渡してほしい。私たちは、ここに滞在できなくなったからこれは、宿代として取ってくれ。」
そんな会話をしていると仁軌が、先に追いついてきた。
「月涼、仲達も着いてるのか?」
「あ~丁度良かった。仁軌さん。そんな悠長な状況じゃ無くなりました。」
事の顛末を語り急いでる旨を報告した。
「早速、やらかしてくれるな~。仲達には、鳥を飛ばす。そのほうが早い。とにかく、その船に追いつかないとな。俺は、仲達と合流して陸路で海南国との国境付近の河川関所を目指す。お前は、藍と船で行先を探れ。とにかく、その船が通符免除の船かどうかの確認だ。もし免除船なら船で追いかけても追いつかん。」
仁軌が言う通りで川にも関所があり、免除船でなければ、密偵船としてその時点で攻撃されるからだ。
免除船でない場合は、一旦河川関所により、通符を確認後に、航行を再開させることになっている。
確認から出航まで半日は最低限かかる為、そこで合流しようとなった。
一行は、離宮どころか海南国入りとなる事を予測していた。
仁軌と別れた月涼は、藍のもとへ急いだ。早く船で追いかけなくてはいけない。
通府の件もあるが斉明の乗った船の形状からして海南国のものだろうと思えたからだ。
それに、月涼自体は、通府以外の方法もあるからだった。
藍と合流し船に乗り込み後を追う。
「藍、ちょっと遠めで見づらいけど、あの船の腹にある紋様は、海南国で間違いなさそうだな。ってことは、やっぱり、このまま、免除船で海南国直行だな。」
「そうだな、あの紋様は海南国の獅子だ。間違いない。あれ、王族の船だと思う・・・。通常の免除船にあの紋様はない。海南国の免除旗ぐらいだ。」




