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内乱の行く末 4

幕屋を出た二人は、離宮内部につながる枯れ井戸に来ていた。


「来ない・・・いえ、来ていただけないと思っていました・・・。」

月涼がつぶやく。


「そうだな。二度とこの地に踏み入れないと誓っていたからな。」

天を仰いで言うその人物は、とても・・・悲しげに答えた。


「あの日、戦地で死んでいたはずだった・・・。あの人を思い出にそのままな。何の因果か助かってしまった。生死をさまよった後、世話になった先で働き始めた。記憶をなくしたことにして名も変えて、平民として暮らしていた。」

ぽつりぽつりとこれまでのことを話してくれるその人物。


「離将軍・・・あっ今は違いますね。劉将軍でしたね。仁軌殿の方が良いでしょうか?私の話を信じて下さりありがとうございます。」


「これは、どちらも、亡くなる前に崔皇后がご仁軌殿にお渡ししたかったはずのものかと思います。」

そういって、月涼は、二つの小箱を渡した。


「崔皇后の心はいつまでもあなたのもとにあったのでしょうね。」

もう一つの小箱には、翡翠ではない赤いめのうの指輪が入っていた。夫婦の絆を意味する玉であった。


「貴方に一度返されていた赤い小箱がなぜか、舞い戻り令妃に渡って・・・いましたね。」

その問いだけが解けていなかった月涼。


「その箱が戦地に届いてすぐ、手紙を添えて令妃に送ったからだ。私と令妃は知己だ。海南国から令妃が嫁ぐと決まってから海南に渡り1年以上の護衛をしていたからな。私の母も海南国出身だったから海南の言葉も話せたのだ。侍女とたった二人で嫁ぐと決まっていた令妃は、私を頼りにしてくれ知己となった…。だから、左丞相の策略から崔を助けてほしいと頼んだのだ。」



当時のことを思い出し仁軌の顔に怒りが滲んでいた。


「私は、戦禍に居ながらも崔を取り戻すために動いた。廃妃として、出宮できるように。だが左丞相は、わが身の為なら何でも犠牲にする・・・。妹である崔もその一人にすぎない・・・。簡単に死に追いやった。今は、娘も投じたのだったな。」


月涼の推理と少し離れている部分もあったので詳しく聞きたいところだったが、あまり猶予もなかった。

「もっと詳しくお伺いして向かいたいところですが、急を要しますので行きましょう。こちらでございます。」


枯れ井戸をするすると下り。底に着くと仕掛け石があった。


「仁軌殿、その石を踏んでください。私は、仕掛けが起動したら扉を開けて貴方が戻ってくるのをここで待ちます。」


「うむ。分かったこの先にいるのだな?」

そういうと仁軌は、奥へと進んでいった。仁軌が壁伝いに進むと扉にぶち当たった。そっと開けると震える赤ん坊を抱いた女官がいた。」


「誰だ!そなた!月涼殿ではないのか?」

女官が震えながら言う。

「大丈夫だ。月涼は、出口の確保をしてくれている。手紙は預かっているな。」


震えながら何度もうなづく女官。


「さぁ、こちらへ・・・。脱出するぞ。命は惜しいだろう。」

仁軌が言うと女官は立ち上がり後を着いてきた。


無事、脱出した仁軌、女官は、月涼が指示した妓楼に向かった。匿ったのが確認できたことを報告の鳥を飛ばし現帝へ連絡する。


報告が入った陛下の行動は早かった。一気に畳みかける。


「左丞相を捕縛せよ!!」


拮抗させているように見せかけていた右丞相が動く・・・。


離宮内側にいた輪にも指令がやっと届いた。


「皇太后を捕縛せよ…。」


これには、輪も面食らったが、仕方ない。命令である。


産室へ向かい皇太后が逃げていないか確認にいく輪。


外にいた宦官には、先ほど、皇太后がお尋ねしていた件で来たと言うと宦官はすんなり入れた。


輪は、内心びくびくしていた。先ほど、皇太后が宦官に声をかけているのを聞いていたからだ。藍を逃がしたのは自分だ。調べればすぐにばれると・・・。だが宦官は、保身のため何もしなかったので功を奏したのだった。


産室に入り皇太后に声をかける。


「皇太后様お呼びですか?」


そういって扉を開けてびっくりした。


「やあ、輪・・・。」

にんまり笑いながら、皇太后のそばにいたのは・・・月涼だった。


「吾子は、無事なのか?月涼?」

皇太后と月涼が話している。


「無事ですよ・・・お約束は守っています。それより、そのお世継ぎの身代わりどこから来たんですか?すり替えなんて最初聞いていませんでしたからね。」


皇太后が身代わりの子を抱きながら月涼に言った。

「分からぬ・・・父が用意したのでな。可哀そうに、母のもとへ帰りたいだろうに・・・。月涼、この子の命も必ず助けてほしい。父のことはどうでもよい・・・先帝との約束さえ守れたら其れだけで…。」



先帝は、自分が長くないことを知っていた。

妻である皇太后のこともいきさつはどうあれ大切にしていたのである。


皇太后との子供も我が子だと信じていたし皇太后もそうであった。父である左丞相になんとか利用されないようにと二人とも抗っていたのだ。


「先帝が亡くなり、今度は我が子を利用することは分かっていた・・・だが、止められなかった。わざと父の計画に乗る振りをしてきた・・・心が苦しくてたまらなかった…。」

泣きながら、子供の心配をする皇太后。


輪は、訳が分からず呆然と立ち尽くしていた。


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