内乱の行く末 3
離宮前での激突
現帝側には右丞相軍、東宮近衛軍、左丞相側は、宮廷軍部3分の2と私兵軍部である。
右丞相の軍部全体が来ている以上、現帝有利だ。
本城決戦は、その残りである。内乱が諸外国に知れる前に鎮圧せねば、国自体を傾ける為、現帝は、産室が作られたあたりで、右丞相に前線からの撤退と外様軍部を前線させてから北光国に和睦会議の密書を同時に送っていた。
激突が始まる頃には、追手を逃れた月涼と藍は、妓楼についていた。
「藍、ここならもう安心だ。仲達殿もこちらに回してもらった。お前を守ってくれる。」
万が一のことを考えた月涼は、書簡の場所を描いた地図を藍に渡した。
「仲達殿と入れ替わりで、ここから出る。藍は、絶対にここから出るなよ!!」
強い口調でいう月涼。
「そんな、月、月も一緒に居たらいいだろう・・・。」
不安そうに言う藍に月涼は、頬を両手で挟み額を当てて言った。
「大丈夫だ・・・藍がここにいてくれるほうが安心なんだ。」
どっちが男だよ・・・と心の中でぼやく月涼とは、裏腹に藍の瞳はうるうるしている。
「わ、わかったよ~・・・。」
そんなやり取りの中すでに、後ろに立っていた仲達が咳ばらいをする。
仲達も思っていた・・・どっちが男なんだかと。
「仲達殿、戦況はどうなっていますか?」
月涼は、事態の行方とこれからの行動を頭の中で描いていた。
「今し方、離宮で開戦したと報告がきた。私は、こちらで重要人物保護との命だ。藍がそうなのだな?」
仲達が月涼から顛末を確認した後、月涼は妓楼を出た。
月涼は、離宮でも本城乾清宮でもなく別の場所に向かっていた。
「仲達どの~・・・月はどこ行ったんですか~?」
ぐすぐすと鼻をすすり半泣きで聞く藍にあきれながら仲達が答えた。
「私にもあずかり知らぬことだ。あ奴は、あれでいて秘密も仕事も多いのだ・・・。藍、その格好で泣くのは止めてくれぬか・・・。まるで、女子を泣かせているようだ。」
ちょっと情けなくなる仲達だった。
離宮前では、左丞相と右丞相がにらみ合っていた。現帝は後方に控えて戦況を確認している。
中にいる輪は、何とかして、奏に連絡を取ろうと探しあぐねるている状態だった。
「誰か?誰かある?」
産室で世継ぎを抱いた皇太后が周りの状況を聞くために呼ぶ。
「はい。皇太后さま。何かご不便でも…?外の様子が落ち着くまで丞相様は、ここからお出にならないようにしてお守りしろと承っております。」
外を守る宦官が答えた。
「さきほど、乳母が入る際に、何かなかったか?」
皇太后は、すり替えを気づかれていないのか確認していた。
「別段・・・よろめいた下働きと接触したぐらいです。」
もしや・・・すり替えが漏れてはいないだろうか?皇太后は、計画が漏れたのではと思った。
「接触した下女を呼んでおくれ。」
「申し訳ございません。混乱しておりますので、すぐには見つからないかと・・・。ただ、離宮からは出ていないかと思います。」
今、門の外は、大変な状態だ。変に騒ぎ立ててとばっちりも困ると宦官は、適当に答えた。
「そうか、ならば、わかり次第でよい。なにも責めるつもりはないゆえ・・・ちと確認したいことがあるだけじゃ。」
皇太后も身動きの取れなさに歯がゆさを感じながら、情勢が動くのを待つしかなかった。
この混乱を極める中、月涼は一人ある人と待ち合わせていた。
「内乱に巻き込まれなんだか?」
待ち合わせていた人物が言った。
「いえ、巻き込まれましたがかろうじて。抜け出れました。貴方様こそご無事で何よりでございます。」
月涼が答える。
月涼がこの人物と連絡が取れたのは、3日ほど前だった。
前線からの撤退時に右丞相から得た情報でこの人物と連絡を取ったのだ。
こちらに来てくれるかどうか半信半疑の賭けだった。
一度は祖国を捨てたものである。しかもかなりの恨みを持って・・・。
だが、忘れ形見を助けるため動いてくれたのだった。
それぞれの思惑の中、事態は思わぬ方向へ動こうとしていた。
「まずは、陛下に謁見していただきます。ご案内致しますのでこのまま、付いてきていただけますか?」
月涼は、馬を翻し、行先に向かう。
「だが、戦禍におられるのでは?」
馬上で会話する二人。
「いえ、陛下は最後方に陣取り戦況を確認し指示していますのでそちらに案内致します。」
そんな会話をしながら、幕屋に着いた。
「内舎人 月涼!陛下に謁見奉る・・・。道を開けよ。」
側にいた太監がすぐさま動き案内した。
幕屋から人払いがされ、陛下、月涼、待ち合わせの人物が顔合わせをした。
「陛下、お連れ致しました。」
月涼が答えると陛下がゆっくりと近づく…。
「頼んだものは、持ってこられたか?」
「はっ。こちらが北光国側の和睦条件でございます。ご確認を…。」
そういって、書簡を差し出した。
「一人で来た理由は、月涼から聞いている。内乱を治めるのに一役買ってもらえるようだな。そなたは、和睦使者として扱い丁寧に対応しよう。だが、名は伏せておけ。よいな。」
「ありがたく存じます。では、後ほど。」
と頭を下げその人物は、幕屋を出て行った。




