【漫才】寿司屋
ボケ「ところで、好きな食べ物ってありますか?」
ツッコミ「好きな食べ物ですか? そうですね、僕は和食が好きでしてね、特にお寿司なんか好きなんですよ」
ボケ「私はどちらかって言うとお寿司苦手なんですよね」
ツッコミ「えっ、お寿司苦手なんですか?」
ボケ「お寿司自体は好きなんですよ。でも、昔ながらのお寿司屋さんって言うんですか? あれが苦手なんです」
ツッコミ「カウンター席があって、目の前に大将が立って握ってくれるお店ですね。確かに値段が気になります」
ボケ「値段もそうなんですけど、その他にも色々苦手な部分があるわけですよ。ちょっとやってみましょうか。あなたがお寿司屋さん、私はお客さんをしますから」
ボケ、店の前で立ち止まる。
ボケ「お、こんなところに純和風の昔ながらのお寿司屋さんがある!」
ツッコミ「ずいぶん説明的なセリフですね」
ボケ「店に入る前に一応財布の中身を確認。ああ、ドラッグストアのポイントカードしかないや」
ツッコミ「いや、そんな状態たまにあるけども。今その設定いりますか?」
ボケ「ポイントだけなら10万ポイントあるのになぁ、お寿司屋じゃ使えないしなぁ」
ツッコミ「どんだけドラッグストアで買い物しているの!? 10万ポイントってよく貯めたね! ……あー、お客さん、うちのお店は電子マネーやカードも使えますよ? もしよかったら寄っていってください」
ボケ「え、本当ですか? じゃあ食べて行こうかな」
ボケ、お寿司屋さんに入店
ツッコミ「へいらっしゃい!」
ボケ「おお、外観は古典的な純日本風の風情あるお寿司屋さんと言った感じだったけど、なかはさらに凄い。清潔感漂う内装は白地の美しいヒノキ、特にカウンターは天然一枚板の一級品。ふと目をやれば季節の花が活けられ、主張しすぎない程度に季節を意識させる粋な演出。カウンターの前に余裕を持って並べられた椅子の座り心地も実にいい。座っただけで、自分が特別なお客になったかのような気分になってしまう……」
ツッコミ「ちょっと、ちょっと! 自分でどんどん設定作っていかないでくれる? 寿司屋のハードルがうなぎ昇りなんだけど」
ボケ「お、このアガリ、厚みのある口の大きめの如何にも寿司屋と言った感じの湯呑に、魚の脂に負けない熱々の濃いお茶が淹れられているじゃないか。一口飲めば深みのある香りと味わいのある渋みが口の広がるね」
ツッコミ「まだお茶飲んだだけですよね? お茶だけでそんなに語ります?」
ボケ「このガリもいいね。これはこのお店の自家製だな。甘酢がきつすぎず、清涼感を感じさせるちょうどいい塩梅でいくら食べても飽きが来ない。思わず箸を運びたくなる一品だね」
ツッコミ「ガリについてめっちゃ語る! そんなに語るところあるかね、ガリは!」
ボケ「うん、いい味だった! それじゃお会計を」
ツッコミ「いやいや待て待て! 寿司食べてないよ!」
ボケ「いやだって、すごい雰囲気のお店で、すごいお茶が出てきて、すごいガリ出てきたわけじゃん?」
ツッコミ「全部あなたが作った設定ですけどね」
ボケ「もうこうなると、すでに圧倒されているわけですよ」
ツッコミ「圧倒されている?」
ボケ「そう、この高級寿司屋という巨鯨にね! ふふ、寿司屋だけでに巨鯨で圧倒って上手くないですか?」
ツッコミ「別にうまくも何ともないわ。それに鯨は魚じゃないからな」
ボケ「まあ、そうなると寿司どころじゃないわけですよ。早くお店を出て、別のお店でオニオンサーモン食べたくなっちゃう」
ツッコミ「それ回転寿司のメニューだろ!? 寿司屋出て寿司食べに行くなよ!」
ボケ「そのついでにマグロやイカなんかも食べるんですけど」
ツッコミ「この店で食べればいいでしょ!」
ボケ「えっ? でも、お高いんでしょう?」
ツッコミ「いや、いきなり値段を聞かれても……」
ボケ「ええ!? 大間産本マグロの大トロが一貫4千円!? ああ、そうですよね、もちろんこの脂の乗り、色ツヤ、ネタの厚みに下ごしらえ、どれも一流の仕事ですものね」
ツッコミ「いやいや、そもそも自分でハードル上げて来ているんだけど」
ボケ「でも? ねぇ? 今なら?」
ツッコミ「えっ? なになに?」
ボケ「一貫4千円のところ、もう一貫つけて、なんと……!」
ツッコミ「はい、品質最上級の大間産本マグロの大トロのなかでも特に上質で希少性の高い部分、これなら一貫4千円でも安いところなのですが、今なら二貫で……って、テレビショッピングか!? っていうか、寿司屋で値引き交渉すんな!」
ボケ「ポイントでの支払いは?」
ツッコミ「なおないわ! っていうか、昔ながらのお寿司屋さんも高いところばかりじゃないですよ? お寿司のネタは何が好きなんですか?」
ボケ「そうですね。やっぱりお寿司屋さんのネタで一番好きなのはあれですね……コーン軍艦」
ツッコミ「回転寿司にしかねぇわ!」
ボケ「ほら、わかります? この突き放されるような感覚。これが苦手なんですよ」
ツッコミ「もういいよ!」