一話 惨劇
初投稿です。読んでください。
血が飛び散り、草むらを紅く染める。僕の父は、光り輝く剣を突き刺され、無残な姿にされる。その剣を持つのは、人間。
その人間は笑った。
体が動かなくなる。頭の中を恐怖が支配する。父の死なんか忘れてしまいそうなくらい、圧倒的な威圧感。行き場のない莫大な不安が、僕の精神を刈り取った。
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「おい、スー。狩りの時間だぞ」
「待って…あと5分…」
ああ、あったかい。体がホカホカする…え?
「暑っつ!?」
あまりの暑さに眠気がふっとび、飛び起きる。目の前にいるのは竜族の父さん。
世界には人間と魔物が存在し、竜族は魔物の中で桁違いに強い種族だ。その強さの由縁は圧倒的な肉体と魔力、そしてこのブレスだ。触れるだけで灰になる威力と、ほとんどの生物は何が起きたのかも分からず燃え尽きるスピード。
まあそれを朝起こすのに利用するのは間違っていると思うけれど。
「うぅぅ、もう!手加減間違えたら僕、死ぬから!」
「ふはは!我がそんなミスするわけがないさ。ほら、行くぞ」
ベッドを起き上がり、眠たい目をこすりながら父さんに続いて木の家を出る。日の光が眩しく眠気がさめてしまう。
水を飲むため近くの池を覗く。池に映る自分の姿は、スライム。赤いスライムの体に小さな竜の羽が生えている。僕の母さんは暴食粘液生物だった。僕はドラゴンの父と、スライムの母から生まれた、世界初であろう竜粘液生物だ。しかし、母さんは僕を産んだせいで死んでしまった。
だから僕は今父さんと二人で暮らしている。
水を飲み終えると、父さんの後を追いかけて森に入る。足音、呼吸音、威圧感、僅かな情報で父さんの気配を探しながら歩いて行く。しばらく探したが見つからなかった。
結局地面の中にいた。流石にそれは思いつかないよ。
「いいか、地面の中に潜る魔物もいる。どうすれば生き残れるか、逃げ切れるか、自分ならどうするかを考えながら探せ。お前の“能力”ならわかるはずだ」
「うん、気を付ける」
僕の“能力”。それは、食べた生き物に変身できること。グラトニースライムが持つ能力で、例えばウサギを食べたなら、ウサギに変身したり、耳だけを生やし利用したりできる。筋肉、神経、臓器、魔力回路など、体はほぼ完ぺきにまねできる。だが、その体の技術や記憶はまねできない。また、死んでから数時間の生き物でないと、変身できない。
僕はすでに多くの動物を食べていて、主にコウモリの超音波、ウサギの聴覚、ウマの脚、ヘビの毒牙を利用している。
その後はまだ食べたことのない動物を探す。超音波で居場所を探し、ウマの脚で近づく。夕食になりそうだったら毒で仕留めていく。
だが5匹ほど仕留めたところで急に大きな気配が現れた。
ヤバい。
直感でそれを感じると、ウマの脚を出し家に向かう。父さんは最強だから。
途中超音波を使い、その気配の場所を探る。それにより分かったのは…その気配は家にいるということだ。しかし家には父さんもいた。僕は邪魔にならないように近くの草むらに隠れ、父さんの方に顔を向ける。
そんな僕の目にうつってきたのは……父さんが殺される様子だった。
設定説明コーナー
暴食粘液生物とは粘液生物の中で最も強いとされている種族。食べた生き物の肉体、経験、記憶など全てを真似出来る。真似の精度は個体によって違う。成長した個体はドラゴンをも軽く倒すという。