春の憂鬱 坂本悠真の場合
翌日学校へ行くと、樹は有名人になっていた。
それもそのはず、通学路であんなに大声で叫んでいたら、みんな注目するだろう。
恥ずかしがって少しは大人しくなるかと思いきや、注目されてまんざらでもない様子だった。
(彼女、か…。)
教科書をめくりながら、昨日の樹が言っていたを思い出す。
僕だって彼女が欲しくないわけじゃない。むしろ欲しい!
けれど今大事なのは受験勉強に集中することだ。
それに、僕は自分の身の程がよくわかっている。
僕は外見も頭脳も平々凡々で、何か特技があるわけじゃない。いわゆる、イケてないメンズだ。
誰かを好きになることはあっても、告白してお付き合いしたいなんてそんなおこがましいこと思ったりは…
「こら坂本!」
なんて考えてると頭にゴツンっという衝撃を受けた。
「いってぇ〜…。」
頭をさすりながら振り返ると、そこには担任の姿があった。
「お前志望校C判定のくせにずいぶん余裕だなぁ〜?」
「あ、え!そんなことないっすよ!」
「ボーッとしてる暇あったらちゃんとノート取れっ!」
「あ、はい。すいません…。」
クラス内でクスクスという笑い声がする。
ちきしょう、樹が変なこと言うから恥かいた。
頭を押さえながら前を向き直すと、やっぱりみんなニヤついてこちらを見てる。
そう、豊永陽奈にもバッチリ見られてしまったのだ。
(あぁ〜失敗した…。)
豊永陽奈は高校からの同級生で、一言で言うと美少女だ。
性格も穏やかで優しく、こんな僕にでも笑顔で話しかけてくれる天使。
白状しよう。僕は豊永が好きだ。
ていうか誰だって好きになると思う。
なんていうか、外見だけではなく中身もきれいな子なんだ。話をするだけで幸せになれる、そんな存在なんだ。
ああ、もし豊永と付き合えたなら、僕は世界一の幸せ者だろうに…。
と豊永への想いを馳せていると終業のチャイムが鳴った。
(やべ…結局全然話聞いてなかった…。)
こんなことで志望校合格できるのかよ。と自分自身にツッコミを入れ、僕は次の時間の教科書を開き、必死に予習するのだった。