始まりの春。
青春ー…。
それは季節の「春」を示す言葉である。
転じて、生涯において若く元気な時代、主に青年時代を指す言葉として用いられる。
(Wikipedia参照)
「あーーーーー!春が来ない!」
高校3年生成り立てほやほやの春、桜が舞い散る通学路で幼なじみの渡辺樹が突然絶叫した。
いきなりどうした…と5秒ほど僕が固まっていると、
「なに言ってんの、めっちゃ春じゃん。」
同じく幼なじみの田村龍之介が冷ややかなツッコミをかます。
「いやいやそうじゃないんだよ!」
樹はそういうと駆け寄ってきて、僕たちの肩をガシッと掴んだ。
「え、なに。どううこと。」
あまりの樹の勢いに、2人のやりとりを傍観していた僕も思わず問いかける。
「いいかお前ら!俺が言ってるのは季節のことじゃない。ラブ…そう、ラブだよ!」
「ラブ?」
「悠真!イエス、ラブ!」
樹は大声でそのまま続けた。
「俺たち幼なじみ3人は小中高とつるんできたが、今まで誰一人としてラブがない!いいか?青春っていうのは10代のうちだけであっという間に去っていっちまうんだぞ!それなのに俺たちときたら浮いた話ひとつもないなんて、もったいないことしてると思わないのかよ!」
力強くなにをいうかと思えば…。
「なに、要するに彼女が欲しいってこと。」
と冷たく足らう龍之介。
僕も呆れてしまって肩に乗った樹の手を払った。
「ばっか!お前ら彼女欲しくないのかよ!」
「何言ってんだ。俺らこれから受験生だぞ、そんな暇あるか。なぁ、龍之介。」
龍之介も僕の意見に賛同してるようでコクっとうなずいた。
アホらしいほっとこう、と龍之介に声をかけ僕たちは歩き出す。
「なんでだよ!いいじゃん欲しいじゃん彼女!イチャイチャしたいじゃん!夏は一緒に海行って水着とか見たいし、クリスマスはロマンチックに過ごしたいじゃん!春が来ない青春なんて青春じゃねーよ!俺らも春きて欲しいじゃーーーーん!!!」
遥か後ろで樹がまだ何か叫んでいる。
通学路で大騒ぎしているせいで同級生や後輩たちにも避けて通られている樹を後目に、僕と龍之介は家路に着いた。