対峙と、奇策
もう二度と戦闘シーンは書きたくない…。
無策に飛び出してしまった俺だが、一応考えらしきものは有った。“大角”の角が振り下ろされる、それより速く“大角”とゴブリンの間に割り込んだ俺は…
「要は動きを止めれば良いんだ、ろっ!」
“大角”の角の根元を、正面からガシッと掴んで受け止めることにした。
…流石に重い!角の先が頭に刺さらないよう注意しつつ、圧し潰されそうになりながら必死で耐えた。
何とか受け止められたが、今度は体が浮き上がるような感覚に陥る。嫌な予感がして手を離すと、ちょうど“大角”が頭を大きく後ろに振り上げているところだった。もしあのまま角を掴んだままだったら…吹っ飛ばされていたか、それとも改めて地面に叩きつけられていたか。いずれにしても背筋が凍る。
…。
……。
勘弁してくれ。
あのまま押さえ込めるようなモンじゃないか…。
とりあえず、手を離したおかげで無事に着地できたから良しとしよう。…正直甘く見てた。地球の生物とほぼ同じサイズとは 言え、野生生物とマトモに丸腰で取っ組み合うのは無茶だわ。どこぞの百獣の王は凄かったんだなぁ…!
ひとまず子供のゴブリンを抱えて距離を取る。
(どうしよう…このまま逃げるか?でもコレを放置してここで暴れられるのも拙いよなぁ…。)
このままでは埒が開かないため、とりあえず“大角”に向き直る。こうして見ると本当に鹿そのものだなぁ…。それこそ違いは頭の角くらいか…。
…ん?
(これならイケルかもしれない!)
子ゴブリンに衝撃がいかないように地面に下ろした上で、再び“大角”に接近する。その上で足元に潜り込み、“大角”の右前足の足先を抱え込むようにして引っ張った。
当然、いきなり足元を掬われたことで“大角”のバランスが崩れる。かかった!
掬い上げた右足を左腕で抱きかかえた格好のまま右手でヤツの左半身を掴み、そして
「うおおおおぉぉぉぉっッ!」
“大角”もろとも地面に倒れこんだ。
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“大角”を観察していて思ったんだ。コイツは立派な角をしているが、それがなんでか2本とも垂直に生えている。そのせいで頭の重心の位置が高いんじゃないか、と。
その癖、それ以外の部分は普通の鹿と大差ない。この2点を組み合わせて考えた結果、『“大角”は一度倒れたら起き上がれないのではないか?』という仮説が、俺の中に出来上がっていたんだ。厳密に言うと違うけど、キリンみたいだな。
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急いで起き上がり、体勢を整える。“大角”は…思った通りだ!首や脚をジタバタと動かしているけど、一向に起き上がる気配が無い!
…我ながらかなりこじつけのアイデアだったが、賭けには勝てたってとこかな!
『今じゃ!全員かかれぃっ!』
そんな族長の号令と共に20は居るだろう完全武装のゴブリンが殺到してきたところで、我に帰った俺はゴブリンの子供を抱え直して避難した。
集団戦は連携が命。部外者が居るとロクなことにならないからね。
『普通の鹿でも正面きって倒すのは無理だろ』とかいうツッコミは…うん。
※追記(2021/07/20)
ちょっと文章に違和感を覚えたため、大幅に修正。