異世界との接触
海底二万里を執筆したジュール・ヴェルヌは、「人間が想像できることは、人間が必ず実現できる」と言った。俺も同感だ。特に、剣と魔法とチートの異世界なんてこれだけ多くの人間が想像しているのだから、実現できないわけがない。実現できるはずなんだ。
だから俺は小さいころから漫画やアニメの必殺技を繰り出そうと頭の血管が切れるほど努力してきた。そんな俺も今はアラフォーでしがない会社員にすぎない。何が間違ってこんな風になってしまったのか。
それでも俺は、今も異世界に行く方法を探そうとしていろんな方法を試している。例えば、アパートの玄関を出るときに目をつぶって手を5回叩いてから10回ぴょんぴょんジャンプしてから後ろ向きにドアを開けて出るとか。例えば、道端の電柱を右手で2回さすってから左手で3回ノックしてから電柱の両頬にキスをするとか。数えきれないほどやった。でも、一度も成功していない。
その日も仕事が終わらず、疲れ果てた体で地元の駅にやっと着いたときには日付が変わっていた。
俺はいつものように周りに人がいないことを確認してから、帰り道の途中にあるお地蔵さまに向き合って「異世界に行けますように」と祈るように願った。そして、その場で頭に浮かんだ動作をしてゆっくり目を閉じた。
少しだけ待って俺は目を開けたが、そこにあるのは数秒前と同じお地蔵様・・・ではなかった。お地蔵様の顔に生き物の眼が付いていた。いや、ただの眼じゃない。異様に大きな眼だ。お地蔵様の頭から両眼がはみ出ていて、まるで大きな蛾が羽を広げてとまっているいるようだった。
ラグビーボールくらいの大きさがありそうなその眼がギョロっと興味深そうに俺をのぞき込んで、まるで俺を見つけたことを喜んでいるみたいに笑った。