ep5 リオン対ハイオーク
リオンは鎧を身に纏ったまま並木道を駆け抜ける。
「マスター、コレ以上の速度ノ上昇ハ稼動時間二影響シマス、減速ヲ提案シマス」
鎧の声を無視し、リオンはダンジョンに向けて走り続けた。
徒歩であれば1時間以上掛かる道のりを30分も掛からずにダンジョン『トジロ』に到着する。中は暗くなっていたが躊躇わず進んで行く。
途中、魔物が出て来たがソードを手にするとまるで道端の小石を端に退ける様に切り捨てて行く。
「リタ達どこにいるんだ?」
「『熱源探知』ヲ使用シマス」
リオンの目の前の壁が透き通り始め、遠くにいる魔物の姿がオレンジ色に光っている。その光を頼りにダンジョンを進んで行く。しばらく進むとダンジョンの一部に大きな穴が開いている。
もしやと思い穴の周辺を『熱源探知』で探ると、穴の真下に人間と思われる影が4つとその影の数倍はあろうかという大きな影があり、動かない人間の影の1つに近づいて行くのが見え咄嗟に大きく開いた穴から飛び降りる。
下に降りると、大きな影で見えていたハイオークがケットに向けて棍棒を振り下ろす直前だった。
シールドを構えるとハイオークとケットの間に割って入り振り下ろされた棍棒を受け止める。
周りを見渡すと、ケットと一緒にいた仲間達が地面に倒れていたその中に頭から血を流し意識を失っているリタを見つける。怒りで我を忘れそうになるのを堪える。
「そこの少年体を動かせるなら倒れている仲間の手当てをしろ、こいつは私が相手をする」
ケット達にバレない様鎧の声が勧めた『ボイスチェンジャー』により幼げが残るリオンの声が、鎧と相応の体格を持つ30代程の渋い男性の声になっている。
「むっ無理だ! そっ、そいつは一筋縄では倒せない奴なんだ! 戦うなんて言わないで一緒に逃げよう」
喚くケットにポーションの入った皮袋を投げ渡す。
「私が時間を稼ぐ、その間に1人でも多く仲間を助けるんだ、早くしろ」
「ひっ!はっはい!」
ケットは震える膝で立ち上がると近くにいたローゼに皮袋から取り出したポーションを飲ませる。
「ふう、日頃人に向かって色々言う癖になんて言うか」
気を取り直しソードを手に持つと、ハイオークに向けて切っ先を突き付けた。
「待たせたな、ここからは私が相手だ掛かって来い!」
「ゴアアアー!」
雄叫びと同時にハイオークが棍棒を振り上げリオンに向けて勢いよく振り下ろす。それを躱しリオンが切り掛かるがハイオークは棍棒で受け止める。そのまま空いていた腕を振りかぶり殴り掛かった拳をシールドで受け止める。お互いに紙一重の一進一退の攻防を繰り広げる。
「すげえ」
傷付いた仲間達にポーションを飲ませながら、目の前で行われている光景にケットは息を呑んでいた。
「中々硬いなならば!」
リオンは右腕に魔力を集める様に意識を集中すると右腕とソードが光に包まれていく。
「行くぞ!」
ハイオークに走り寄り切り掛かる。ハイオークが棍棒で防ごうと構えると、棍棒を真っ二つに切断しハイオークの腹部に縦に傷が入り血が噴き出す。
「ガッ? ゴアガ?!」
ハイオークは腹部を抑えながら後ろに退がる。
やっぱりそうか、この鎧を身につけている時は身体強化の魔法を使用していると同じならその強化を一部に集中する事が出来ると思ったが成功して良かった。
「魔力ガ十分二アレバ、今ノ攻撃デ倒セテイマシタ」
鎧の声が嫌味な事を言っているが聞かなかった事にしよう。
「ウオオー!」
腹部から流れた血で濡れた自分の手を見たハイオークが息を荒げて雄叫びを上げる。興奮状態のままリオンに迫り腕を大きく振りかぶり殴りかかる。
リオンはシールドで防ぐとハイオークはシールドを集中的に殴り出した。
シールドはハイオークの攻撃で傷付く事はないが、衝撃が鎧にも広がり足が地面にめり込んでいく。
ハイオークが一気に潰そうと両手を組み高く振り上げた所シールドを手放し振り下ろされると同時に避ける。シールド越しに地面が爆散して穴が広がっている。
それからハイオークに切り掛かるが棍棒を捨て身軽になり動きが素早くなったハイオークは斬撃を躱す様になり、攻撃を当てても大したダメージが与えられない。魔力が減少している性で威力が弱まっていた。
「くっ、このままじゃそうだ………出来るか?」
「ハイ、現存ノ魔力ノ量デハ1回シカ出来マセンガヨロシイデスカ?」
「あぁ、1回で十分だ、よし行くぞ!」
リオンはソードを両手に構えるとハイオークに向けて走り出す。勢いがついた所で足に魔力を集中してして上空に飛び上がる。
高く振り上げた所でリオンが叫ぶ。
「今だ!」
「了解! 実行シマス」
振り上げたソードが刃の部分だけ巨大化する。そして、振り下ろした巨大な刃が質量と重力と併せて勢いを増しハイオークに襲い掛かる。ハイオークが咄嗟に両腕を頭上に上げて防ごうとするが、上げた腕と共に一刀両断されハイオークは縦に裂けた。
「ハイオークを1人で倒した何者なんだ一体?」
「よし、さあ早くここから出るぞ!」
激戦の後だが休んでいる暇はない、またハイオークかそれ以上の魔物が来るかもしれないので早くこの場を去る必要がある。
ケットがローゼを背負い、リオンはリタを背にトトを両腕に抱えて走り出す。
道中蹴散らしてきた魔物の死骸のお陰で魔物の姿はなくダンジョンの入り口まで駆け抜ける。
ダンジョンを抜けた頃には朝日が山々から登り始めていた。
「ありがとう、あんたのお陰で助かったよ」
「礼には及ばんよ、ここまで来れば一安心だろう私は失礼する」
「あっ、おい…」
リオンはケットやリタの安全を見届けると森の中へ駆け出した。森の大木の根元まで行くと魔力が限界を迎え、鎧が外されていく。
「はぁ、はぁ、はあ…良かっ…た」
リオンはもつれそうな足で歩きなんとか大木にもたれ掛かると安心の表情を浮かべて眠りについた。
5話を読んで下さりありがとうございます。感想、誤字報告いつでも受け付けています。