ep2 少年と魔法の鎧
目の前に現れた石造りの建造物は左右に石積みで出来た柱があり両方の柱の上にはアーチ状に積んだ石が架けられている。
「ここはダンジョンなのか?」
ダンジョンは魔物が多く生息している洞窟で大抵は自然に出来た洞穴の様な所だが、目の前の建物は明らかに人の手によって建造されたものであり、ダンジョンよりどちらかというと神殿に近い。
リオンは恐る恐る建物の中に足を踏み入れる。
長方形の石が床から天井まで隙間なく引き詰められていて、天井近くには、光を放つ球体が均一に設置されている為中はとても明るい。
だいぶ歩いたが、魔物がいる気配は感じない。
すると急に開けた場所に出た。
とても広いその場所は天井が見えないぐらい高く、両端には鎧を着て様々な武器を手に持つ騎士の像が10体程並んでいる。部屋の奥には段差がありその上には王が腰を掛ける様な豪華な装飾が施された椅子が置かれている。
しかし、その椅子に腰掛けているのは王ではなく鎧だった。白銀に包まれたフルプレートの鎧は神々しい光を放っていた。
その鎧を見ていたリオンは気付くと鎧のすぐ側まで近づいていた。
近づくと鎧は椅子に座っている状態でも大きく、身長が150㎝のリオンが見上げる程の大きさだ。
ふとリオンが鎧に触れた瞬間眩い光が放たれる。
あまりの眩い光に目を閉じる。光が収まり目を開けるとリオンは驚く、目線の高さがさっきより高くなっていたのだ。体に触れようとすると『カチャ』と金属同士が触れる音がして初めて自分があの鎧を身に付けている事に気付く。
鎧とリオンでは大きさからして普通があれば身に付ける事はあり得ない筈なのだが、リオンは鎧を着たまま腕を動かし地に足をつけて立つことが出来ていた。
不思議に思っていると頭の中に声が響いてきた。
「マスタートアーマートノ同調ヲ確認シマシタ、チュートリアルヲ開始シマスカ?」
「ちゅーとりある?」
人間とは思えない抑揚の無い言葉に今まで聞いた事のない言葉に戸惑っていると、また頭の中に声が響く。
「応答ガナイ為、チュートリアルヲ自動デ開始シマス」
謎の声が告げると、壁側の方から轟音が聞こえたので音のする方を向くと、騎士を模した石像がまるでいきているかの様に動き出しこちらに向かい歩き始める。
状況が飲み込めず、ただただ立ち尽くしているとまた頭の中に声が響く。
「シールドトソードヲオ使イ下サイ」
そう言うと足下の床が開き、重厚な盾と刃が木の幹の様に太く、鎧を着たリオンと同等の長さの剣が目の前に現れた。
リオンはシールドと呼ばれる盾を持ち上げる、重厚な合金で出来ているが全く重さを感じない。
シールドとソードと呼ばれる大きな剣は一体なる様くっ付いていた。リオンがソードの柄を握ると『カシャン』という金属音と共にシールドと一体になっていたソードが外れていた。
シールドと同じくソードもまるで重さを感じずに軽々と持ち上げる事が出来た。
ソードを持った途端、ゆっくり動いていた石像達が武器を振り上げリオンの所に向かって走り出す。
リオンはソードの柄を両手で掴むと左斜め上に振り上げた。
振り上げた剣はまるで野菜を切る様に迫る石像5体を真っ二つに切断した。斬られた石像は『ガラガラ』という音を立てて崩れる。
「すごい…」
魔法使いだったリオンは産まれてから一度も剣を握った事も無く、ましてや剣術に触れる機会も無かったのに不思議と自然に体が動いていた。あまりの出来事に息を呑んだ。
「マスターノスペックニヨル不足部分ワ、コチラデサポートシマス」
また意味の分からない単語が出て来た、恐らく手助けをしてくれるという意味なのだろうが、何故か馬鹿にされている様な複雑な気分を感じた。
「次ノ攻撃ガ来マス、シールドで防御シテ下サイ」
頭の中に声が響くと、左前方にいた石像が持っていた石作りの周りに棘が付いた球体を投げつけてきた。
咄嗟にシールドを構えると、シールドにぶつかった球体が衝撃音と共に粉々に砕け散る。
すぐに確認したが、衝撃音に関わらずシールドは傷一つ付いていない。
「オメデトウゴザイマス、次デチュートリアルハ最後ニナリマス、残リノ石像ヲ倒シテ下サイ」
残りの石像は5体、リオンは両手にソードを持ち構えた瞬間、急に目眩と頭痛に襲われた。
「マスターノ魔力ガ不足シテイマス、魔力残量カラ残リ稼動時間ハ……5分デス」
「5分!? そういう重要な事は先に言ってくれよ!」
リオンの叫びが虚しく広間に響くが、頭の中に響いていた声は完全に沈黙してしまった。
無情に突きつけられた時間にリオンは動揺する。只でさえ魔力不足で目眩と頭痛で立っている事で精一杯の所に攻めてくる石像達、リオンは満身創痍の中立ち向かうのだった。
2話目を読んで頂きありがとうございました。感想や誤字報告を随時受け付けています。