78,調和のための晩餐⑵
“早く行かないと遅れちゃう”って言われたって事は、ちゃんとその食事を取る場所には連れて行ってもらえるんだろうけど……。
まぁこのまま押されている事で“いつもの場所”とやらに行けるのなら、もちろんそれは願ったり叶ったりよ。
だけどこのグイグイくる子はいったいだれ?
ゲーム内でどこの位置付け?
……あれ?そういえばさ……。
リリアーネに女友達っていたっけ?
超定番の悪役令嬢によるいじめのせいで、彼女によってくる女の子はいなかったはず。
初めは仲良くしてくれるのに、悪役令嬢ことトリシアのせいでどんどん疎遠になっていく。
リリアーネのアルドンサ生活一年目は、そんな悲しいものだった。
ゲームの冒頭は一年生の入学式、つまりリリアーネが二年生に進級するその時から始まる。
そこでお決まりのキャラ紹介があって、ゲームプレイヤーは攻略対象の存在を知れる。
だからリリアーネの一年目は、過去の視点、トラウマとして語られてるんだ。
一年目に女の子が離れて行ったのはトリシアがその子たちもいじめだしたからで、その時言われた言葉が深くトラウマとして根付いていたのよね、確か。
だから二年目は、近づいてくる子を自分から跳ね除けた。
その子たちも自分も、もうこれ以上傷つかないように。
……それが、ゲームの冒頭だった。
本当は仲良くなりたい、こめんね、ごめんねって呟いてるところを、攻略対象の一人に見られるんだっけか。
……誰だったかは思い出せないけど。
それがきっかけで話しかけられるようになるルートがあったり、生徒会長がいていじめを無くそうとしたり、なんだかんだで学園編の攻略はトリシアというラスボスを通して出来上がっていたわね。
今思い出したわ。
……って事は、今話しかけてくるこの子も、リリアーネが跳ね除けるべき子なのかしら。
私はずっと話し続けるその子を見た。
そう、リリアーネには友達はいなかったはずなのよ。
この子がリナではない事はあのことがあるから確かだし、仲良く話すような子を私は知らない。
「ねぇ……」
「だからいっしょ……ん?」
彼女は言葉を切って私を見た。
「私とあなた、話した事あったっけ……?」
「ないよ!」
……満面の笑み。
意味がわからない。
話したことがない子にこんなにいきなり来るものなのかしら……?
って言うかこの子、もしかして……!
「私は編入生なの。新学期早々休んでる子がいるって聞いたから気になっちゃって。
なのにみんなあの子には近づかない方がいいよって言うんだもん。」
やっぱり……!
二学期の頭にリリアーネに話しかけてくる編入生、通称ヒューロ!
話しかけてくるタイミングがゲームより早いけど、もしかして休んでいたせいで興味を持たれるのが早くなっている……?
……でもそれよりも!
「じゃあなんで、私のことをあんなに見知っている風だったの……?」
“体が弱いもんね”とか“氷魔法が暴発した”だとか、どう考えても転校生──この場合は“編入生”だったかしら──が知っているはずのない情報じゃない!
うっかり昔からの仲だと思ってしまうぐらいにはおかしいよ!