10,嫌いなもの
今日は遅れました。
「ねぇセシル?
そのボウルがなにだか答えてくださるかしら。」
なーにか嫌な予感がするのよねぇ……。
なんかセシルの顔がカタいのよ……。
セシルが、ゴクリと唾を飲んで口を開いた。
「それは…………。」
あぁ絶対なにか嫌な事が起こる……!
セシルすっごい渋い表情してるよ!
なんなんだろう…………!
「お嬢様の嫌いな、日課の髪のお手入れですよ。」
「手入れ……?」
「他に何があるんですか。」
……取り越し苦労?
全然嫌な事でもなんでもないんだけどな……。
……リリアーネはこれが嫌いだったのか……。
って事は、ここで聞き返すとまずいのに!
嫌い=絶対忘れないなんだから、覚えてないのは絶対におかしい!
これじゃあ私がリリアーネじゃないってバレちゃう!
なんとかごまかす方法はないかな……?
……あ、そうだ!
「やっぱり知らんぷりしてもダメかぁ〜……。」
全力で、知らないふりをして髪のお手入れを辞めさせようとしていた事にしてみる!
こうすれば疑いも回避できるはず……!
「ダメに決まってますよもう……。」
なんとか疑われずにすんだかな……?
危ない危ない。
別に私は髪の手入れが嫌いなわけじゃないし、むしろ自分でやらずに済むんなら願ったりだよね〜!
「じゃあこちらの椅子にお座りください。」
「はーい。」
返事をしながら、ベッドからひょいっと降りてセシルの指した椅子に座る。
セシルが椅子を窓際に置いてくれたから、綺麗な星空を望む事ができた。
「夜の空って綺麗ねぇ……。」
思わずぽつりと呟いた。
前に住んでた東京じゃ見られるはずもない星と、なににも隔たれていない広大な空。
それは美しいという言葉がまるでパズルのようにピタリと当てはまる光景で。
光が多すぎるあのばしょじゃ絶対に見ることはできない。
まさに、本日の至福というか……。
さっきの氷魔法も、これくらいに綺麗にできたらもっと盛り上がったかなぁ……。
……いや、星空なら歓声と言うよりも恍惚に震える、って感じかな。
でも、どのみち綺麗。
きっとこれが、心が穏やかになるって事。
「ほんっと、この星空は至福のひとときねぇ……。」
なんて呟いたら、後ろからクスッて笑う声が聞こえてきて。
「リリ様はいつも同じ事をおっしゃいますね。」
「いいじゃないの。
ほんとにそうなんだから。」
私の髪にオイルを塗りながらセシルが言ったから、そう答えてみる。
……なんかあのオイル、伊豆諸島の特産物の椿油に似てる……。
ちょっと聞いてみようかな。
「ねぇセシル。」
「なんでございましょう。」
「そのオイルは何からできてるんだったかしら。」
「ツバキの油ですよ。」
そう言ってセシルが指さしたのは、『ツバキ』と書かれたプレートが貼ってある、ケースに入った紅色の花の標本。
椿にそっくり。
っていうかなんと都合のいい場所に……。
「ふーん。ありがとう。」
椿じゃなくて片仮名でツバキかぁ……。
似てるものもあるんだな。
これもどこかの島から取れる花だったりしてね?
……なーんて、言ってみたかっただけだけど。
実はこの物語、ひとつの大きな矛盾点があるんですよね……。
俺自身も「彼女の日記」を書いてる時に気がついたんだけど、どうやって繋ぎ直そう……。
もし分かったら探して当ててみてくれてもいいんだよ……?
ここから先の話で10話以内にはその矛盾を消す話を書くから……。