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新学期

はじめに述べた通りこれは私の復讐の物語。

今日は私の最初の復讐が果たされる日。


二学期の始業式、私は制服の上から薄手のコートを羽織り学校に向かっている。


私はあのアイドルオーディションに合格した。

『もんくすふーど』

というアイドルグループのメンバーになった。さぞかし校内選抜に名前があがっていたチヤホヤされていた女子達は悔しがる事であろう。


その中の一人には私に嫌がらせを指示しているであろう女子グループのトップもいる。


私の合格は決定された次の日にはテレビの全国ネットで報道されていた。

もう学校には来ないだろう。と例の悪趣味なサイトで憶測されていたので私の登校に学校中が驚くのだろう。

その様子はもちろんのこと、実際に一緒に審査されていたであろう校内選抜の子達がどんな顔するのかワクワクしてくる。


通学中の電車の中でついついニヤニヤしてしまう。


それだけじゃない。火災の件、事件性が浮上していて捜査中であるらしい。父の近辺が疑われるとともに、通り魔的な愉快犯の犯行も視野に捜査は進められているらしい。


私も容疑者扱いのような質問をいくつかされた。


でも、私は知っている。警察にも言ってない。

あの火災は私を困らせる為のいやがらせだったはずだ。そこに偶然父が巻き込まれてしまっただけだと。


そいつらも私の顔を見たらなにかしら動揺するはずだ。必ず見つけ出す。

私の手で。日本の法律で罰してもらう気持ちはない。私刑だ。私の手で何かしらの罰を与える。


夢を与えるアイドルをしながら、裏で罰を与えるとかなんだかカッコ良いじゃないか。


まだ復讐の内容は決めかねている。当人の命か、家族の命を奪うか。命を奪わない程度に天寿をまっとうするまでなにかしらのハンデを背負ってもらうか。なんだかぞわぞわする。

精神的な苦痛を与えたい。

謝ってもらいたい。許す気はないけど。


高校に近づくと次第に私をみてなにやらひそひそ話しをする人間が増えてきた。

同じ制服に身を包んだ人間達の中ではすでに私は有名人だった。


莇さん!おめでとう!


里奈ちゃん応援してるね!


莇まじすげぇな!


教室にたどり着くまでに私は言葉すら交わしたことのない人にまるで、友達や青春を共にしてきた仲間のように話しかけてくる。

稀有や、異端を見るような目でしか私の事を見てこなかった人間ががらりと変わる。

私の記憶違いで私は1学期から人気者だったんじゃないかと思うほどの接し方の変わり方に私はただただどんびきした。


しかし、直接的に関わりを持ってなかった人間ですらこれなのだ。ヤツらのリアクションが楽しみでしょうがない。


教室のドアに手をかける。わくわくしすぎて口角があがる。顔が緩む。レッスンで覚えた表情筋の体操をしてからその手を動かし戸を開け、教室というステージに登場する。


今まですれ違って来た人間達よりもよっぽど素直な反応。扉越しに聞こえてた全ての会話がピタリと止まる。視線は全て私に向けられ釘付けだ。

自分の意思で人に見られるのはこんなにもわくわくするなんて初めて知った感情。

どうやら私はアイドルに向いているのかもしれない。私の挙動を皆が伺っている。

私はそんな表情を一人ずつじっくりと見る。アニメの最終回で登場したキャラクター全員エンディング曲に乗せられて紹介されるような感じにじっくりゆっくり見定めていった。

例の校内選抜の子は私を睨みつけていた。そしてその横で好機の目を持つ男子がいた。

おそらく私をアイドルにするきっかけを作ったのはこいつだ。

他にはクラス委員長が心配そうに見ていたのと、今にも泣きそうな顔になって俯いている子が一人いた。

周りと違うリアクションをしたのはこの4人だ。


そしてまずはひとつ目の復讐。まだ復讐と呼びたくない程の小さな精神的攻撃。

もちろんこの中に犯人がいて、その犯人が良心を少しでも持ち合わせてなければなんの意味も持たずに気まずい空気を作りだすだけの行動。


それでもよかった。いじめを見て見ぬフリしてきた全員への嫌がらせだ。


私は薄手のコートを脱ぎながら自分の席に歩き出す。さながらランウェイだ。

アイドルとして人気が出たら本物のファッションショーのランウェイを歩く事もあるかも知れない。予行練習だ。


もちろんクラスの全員の視線は釘付けだ。あの火災の中によってあちこち焼け焦げた制服をコートの下に忍ばせていたから。チラ見せのクラッシュ加工の制服。なかなか攻めた衣装だ。

他のファッションショーではお目にかかれないでしょう。


俯いていた女の子が


「やめて!!」


そう言いながら涙をボロボロと流しながら教室を飛び出して行った。それを数人が追いかける。


追い詰めるべき相手と仲間に引き入れる相手がわかっただけで今日の登校は満足だ。


この行動でなんにも得られなかったそのまま退学届けを提出するつもりだったが、まだこの高校に用が出来たので在学し続けることにした。

生徒である内はある程度校内に自由に出入りできるのだもの。


教室に担任が入ってくると同時に、駆け寄り


「すいません、やっぱりまだ体調が優れないので早退します」


そう言うと返事も聞かず学校を後にした。

今日は居心地の悪かったクローバーハウスから、事務所の用意してくれた寮への引っ越しなのだ。


忙しい。

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