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番組活動開始

その日は初めてのスタジオでの収録。

MCである芸人さんに会うのも初めてでなんだかドキドキする。テレビ番組の収録。

廊下で芸能人にすれ違うかもしれない。


そんなまわりのきゃっきゃっした会話についていけなかった。今にして思えばみんな緊張を紛らわす為に何か話していなければその空気に耐えられなかったのかも。


寮に入ってるメンバーは全員でバスに乗り込みスタジオに向かう。スタジオはテレビ局の中にあるものだと思っていたが、どうやら都内いたるところにスタジオと呼ばれる収録場所はあるようだ。


「じゃあ、みんなもうすぐ着くから。準備してね!」


マネージャーの松本さんがバス内に声をかける。

そう寮長の松本さんだ。

私は読みかけの小説にそっと栞をはさみ、荷物を整える。


全員でスタジオスタッフに挨拶をしながら楽屋に向かう。どうやら今日ここで撮影が行われているのは私たちの番組だけらしい。


まだMCの芸人さんもいらっしゃってないので挨拶に伺う機会もなく私達は衣装に着替える。


ほとんど学生服と大差ない衣装。そしてきゃっきゃっと騒ぐ女子たち。

なんだかただ女子校に転校してきただけのような気がする。ただその辺の女子校のクラスと違うの段違いにビジュアルが秀でている。

私も自身の外見には自信があったがここに紛れてしまうと隠すつもりがなくても霞んでしまう。


みんなアイドルに夢みてきた子たち。積極的に仲良くなる。敵対する必要のない仲間意識を無理矢理芽生えさせようとしてるのかもしれない。


誰も私の存在を無視することなく、誰も嫌がらせをしてきたりしない。

むしろ、読書していようが御構い無しに話しかけてくるのでその都度栞を挟む作業に時間を取られる。さらには以前は髪の毛ぼさぼさが当たり前だった私の髪型が少しでも乱れてると、年上メンバーたちが直してくれる。

衣装と一緒に配られ、皆が胸に付けている名札を見ながら名前を呼んでお礼をする。


名前を覚えられないこの性格なんとかしないとなと本格的に考えさせられる。終始名札をしているわけではないのだから。

肌の白い子。髪が綺麗な子。スタイルの良い子。そんな外見的長所から個々を導くのは非常に困難だ。

全員が全員どれかに当てはまる。今後会話の中でゆっくりと内面を知っていって、そこから覚えていくことになるのだろう。


思わず溜息が出る。


「どないしたったん?そない緊張してはるの?」


関西弁の綺麗なおねぇさん。名前はまだ覚えてないが、私によく話してくれる関西人特有のコミュ力の高さって本当なんだ。と、私が初めて接触した関西人は絵に書いたような関西人だった。


名前はまだ覚えてない。


「はい。結構緊張してます。…しませんか?」


返事をしながら名札を確認しようとしたが失敗した。私の発言に名前を思い出そうとして生まれた変な間に気まずさを覚える。


「んー、そりゃもちろんするけどな、里奈ちゃんはいるだけで目立つくらいめんこいんやから、大丈夫やで!なんかあったらウチが助けてやるわ!!」


妙な間は私の緊張故の言葉のつまりと捉えてくれたようでイメージ通りの人情深さを抜群に発揮しながらあたまをくしゃくしゃと撫でられた。


「ちょっと!せっかくセットしたのに!大丈夫?里奈ちゃん。むっちゃんちゃんと考えて行動しなさい!!」


この関西弁のおねぇさん、むっちゃんと同じ年齢の白岩さんがその様子を見ていたようで注意に入る。


私が唯一名前を一瞬で覚えることができた人。

美を体現したかのように綺麗でチャーミングでスタイルの良い人。オーディションの頃から群を抜いて頭1つ飛び抜けて、そんな言葉では形容することができない程にこのかわいい軍団の中でも異質を放っていた。クラスのマドンナならぬ、アイドルのマドンナのような方だ。


そんな綺麗なおねぇさんが私を心配してくれている。巷で囁かられる女子校で先輩に恋する感覚を私は少し理解できた。


「ほら、里奈ちゃんいじめないでよー。かわいそうにー」


「いじめてへんよー!里奈ちゃんはうちのもんやでー」


「だーめー!私の!!」


2人のじゃれ合いに巻き込まれるように私の腕を、肩を、腰を、およそ掴みやすいところをおねぇさん2人に引っ張られてはハグされる。

何度か繰り返したところで私を挟むように2人がハグしあう。


あったかい。幸せだ。人ってこんなあったかいんだ。

って思った刹那、父はどんなに熱い思いをしたのだろう?と今の状況に相応しくない考えがよぎる。まるで父が私の幸せを快く思ってないようにすら感じた。


スッと感情の切れた私は番組内で使う為の写真撮影、PR用のVTRを無表情で過ごしてしまった。

その場での見直しもあったが

「おもしろい!」

Pだか、Dだかそれ以下だかしらないスタッフがそれを良しとしたので撮りなおされることはなかった。


「たぶん、君無表情の部分めっちゃいじられるから返し用意しとくように。」


それだけ告げられ再び楽屋に戻ると何人かのメンバーが泣いているのを他の子達が慰めていた。


みんな思い通りにできなかったのだろう。

まるでクラス毎人類が滅んでしまった未来に漂流してしまったかのような異様な空気だった。

名前の順通りではないらしく、私が楽屋に戻るとすでにむっちゃんと白岩さんは楽屋でお弁当を食べてその美味しさにはしゃいでいたが私を見つけると


「これ、めっちゃ美味いで!一緒に食べよ!」


そう手招いてくれたのだ。

焼肉弁当。私は焼肉って字面がいささか不快だったが促されるまま箸を運ぶと美味しさにリアクション。初めて人前でそんな行動をとった気がする。

美味しくても不味くても黙々と食べていた自分のその動きに自分でもびっくりした。


せやろー!?むっちゃんがその動きを真似する中、


「里奈ちゃん、お箸の持ち方練習しようか?私も下手だから。ね?」


白岩さんから優しく指摘される。

お箸の持ち方、今まで意識したことなかったが私の箸の使い方はあまりよろしくないらしい。

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