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過剰生成

 

 宿に戻ると壊れたベッドがお迎えしてくれた。これを朝になったら宿主に説明して弁償するとなると憂鬱になる他なかった。



 「まずは礼を言わせて下さい。ありがとうございます。貴方がいなかったら今頃は多くの犠牲が出ていたはず……」



 部屋には俺、眠ったリリィ、アリス、そしてあの禍々しい大砲を消し去った男の4名がいた。



 そして開口一番にアリスがそう男に礼を言う。男は軽く「いや、大丈夫気にしないで」と答え、椅子座っていいかと問うと、アリスの承諾を得て腰を降ろしていた。



 その側で俺は眠るリリィのワンピースを脱がせて、宿があらかじめ貸してくれてた寝巻きをリリィに纏わせてベッドに横にする。子供用じゃない為、ぴっちりと着せられないが、濡れた服であるよりかはマシだろう。ベッドが壊れたのが足部分でなくてよかったと今更思った。しっかりと羽毛布団をかけてやり、落ち着いた表情の彼女を確認すると俺は二人に語りかけた。



 「────っで、あれは一体なんだったんだ? どこからやってきた」



 俺が問うと男は口を開こうとするがそれをアリスが制止し、代弁する。



 「『月呑絶叫ルナティック・コーリング』……月の魔法よ。それも超高度なね。そもそも月の属性の魔法を使えること自体が特別なのに、その中でも最上位の破壊魔法とされているわ。どこからやってきた……っていうのは言わなくても何となく分かるでしょ?」



 リリィが出した。それは言わなくても俺も何となく分かっていた。彼女に魔法の才は知っていたし、それが異常と評されても可笑しくないレベルのものであるのも理解していたつもりだった。



 俺は頷くとまた聞いた。



 「……あれはアリス、お前との喧嘩の最中さなか出したものなのか?」

 「ええ、そうよ……けれど催眠で眠らせる前に彼女に魔法を解くように言った時、彼女も何が起きているか分からない様子だった。多分……無意識の産物なんでしょうね」



 無意識の中、そんな高難易度の魔法を使ってしまうとは……ますますリリィという少女の力の底が分からなくなる。



 「────無意識中に月魔法だって? は、そりゃ凄いな」



 俺とアリスの会話に男が割って入る。アリスが恐ろしいものを見たと未だに恐怖の余波で元気が削がれている中、彼は飄々としていた。



 「見たところその子はエルフだろ?」

 「ああ、ハーフですけどね」

 「俺も仕事柄世界回ってんだけどね……エルフにも何回か出会ったことがある。でも月の属性を扱える者は限られてたし、月呑絶叫ルナティック・コーリングを使えるヤツの話は聞いたことがないね」

 「そうですか……すみません、今更ですけど貴方の名前は? 俺はジョン・ウィッチ、彼女がアリスで……この子はリリィです」

 「おおっとこれは失礼」



 男はそう言うと、椅子に座ったまま胸に手を当て名乗る。



 「名は仕事柄、数多くある。しかしこの場ではひとまず『ジャレッド』と名乗っておこう。よろしくミスタージョン、ミスアリス、そして眠り姫レディリリィ」



 わざとなのか素なのか、演技がかった挨拶に飲まれそうになるが、あえてスルーする形で俺はそれを乗り越えた。



 「よろしくお願いしますジャレッドさん」

 「ああ……よろしく。それで話の続きだが彼女……レディリリィの御両親はどんな方達だい?」



 なにかを探っている様子のジャレッドさんの質問に俺は素直に答えた。



 「分からないんです」

 「分からない?」

 「母親がエルフだったのは確かですが……父親の方は……それは彼女の口から出てきたことはなかったんです」



 以前エルフの里を訪れたことを思い出す。そしてリリィとの生活の中でも母親のことは語られても、父親の事は出てきた試しがなかった。きっと彼女自身もよく知らないのだと思う。里で疎まれていた原因なのだから確実にエルフではなく、他種の生物である事は確かだ。そしてあまりいい印象ではない者の。



 「……彼女が起きた時に聞けば分かることか」

 「いや……それはやめて下さい。リリィはまだ幼い。一緒に暮らしている俺でさえ聞いたことのない話です。彼女自身、あまり語りたくないことなはずです」



 俺の拒否にアリスが声をあげる。



 「ジョン、それは賛成出来ないわ。いい? ひとりの女の子があんな魔法を出現させた。これはとんでもない事なのよ? 早急に原因を突き止めなければ、また再びあれが起きたら次は止められないかもしれないのよ。 ……語らせるべきよ」

 「そんなの勝手なこちらの言い分だ。幼子の過去を無理矢理根掘り葉掘り聞くなんて酷過ぎる真似できるかよ」

 「そんな感情論の話をしているわけじゃないの。彼女の為を思って言っているのよ。これじゃ危なっかしくてまともな生活も出来なくなるわ」

 「話を大きくし過ぎだって。そもそもリリィがあんな魔法を出現させた経緯を教えろよ。原因究明するならそれが先だ」



 俺の言葉にアリスは黙り込み、納得したように語り出した。



 「……私とリリィちゃんが決闘をするとなって窓から飛び出していった所まではジョンも見ていたでしょう?」

 「ああ」

 「戦っている内に次第に私もリリィちゃんも熱が入っちゃってね……私があの子を身体的に追い込んだの。そうしたら突然あの大砲が現れた」



 身体的に追い込んだって……大の大人がやることかよ。



 呆れる俺を横にジャレッドさんが口を開いた。



 「感情の昂りによって起こる、魔力の急速な膨らみによる過剰生成か」

 「ええ、恐らくは」



 納得している二人を見て俺はついていけない。え、どゆこと?



 「どういう意味?」

 「魔法っていうのはね、本来の当人の実力とは別に、怒りや悲しみ……感情の起伏で一時的に差が生じるモノなのよ。怒った時威力や範囲が大幅に膨らんだりする一例があるけれど、もっと凄い例もある。本来使用出来ない属性や魔法が本人の意思とは関係なしに発動してしまうことがね」

 「暴走とも言われるが、専門的に言えば過剰生成と称される現象さ。最早本人の力では抑えきれない魔法が起きる制御不能の魔法だね」

 「それが今回のリリィにも起きたと」

 「ミスアリスの話からすればそう考えるのが妥当かと」



 ジャレッドさんがそう俺にウインクを飛ばす。なにかとその仕草をしているが、完全に癖のようだった。


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