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久しぶりの二人きり

 

 俺達はヴィヴィリオールに向かう道中、いや、空から行くのだから空中か? ……ま、そんなことはどうでもいいんだけど、休憩として途中に見えた湖畔で休息を取ることにした。



 意外と釣られているだけというのも疲れるもので、俺よりかはアリスの方が疲れていない様子だった。流石は元勇者パーティといったところか。



 「いやー……やっぱりこういう所で飲む茶は美味い」



 普段から人が寄り付かないのか、森は鬱蒼とし、周りは静寂に包まれていた。リリィに持たされた鉄製の水筒に入った温かい緑茶が体に沁みた。



 「貴方、ただぶら下がってただけでしょ」

 「誰かさんが途中可笑しいスピード出すから、私の体は凍えてしまったんですね、はい」

 「貴方の為に働いてあげてるんだからそれぐらい我慢しなさいな」



 真顔でそんな事を言ってのけるアリス、こいつの俺イジメは真性の物だな。



 「……それにしても結構なスピードで飛んでたけど、あとどれくらいでヴィヴィリオールに着くんだ?」

 「そうね、思ったよりも早く着きそうよ。あと2時間ちょっと飛行すれば普通に着くでしょう」

 「うおー……! あと2時間もすれば花の都か! テンション上がるぜ」



 絵で見たヴィヴィリオールを思い出し、俺の心はどうしようにも興奮が抑えられなくなる。無事にこのプッチインを編集社に届ければ念願の旅行に行けるのだ。今度はこんな人力暴風航空なんて使わず、優雅な竜車なりなんなりでゆっくりとな。



 俺が思いを馳せているとアリスが俺にジトーっとした視線を向けている事に気が付いた。



 「……なんだよ」

 「いや、随分とご機嫌なのねーっと思っただけよ。なに、そんなに旅行に行きたいっての?」

 「そりゃ有名な観光地ですからねぇお嬢さん。当然ながら行きたいですよ」

 「まあ、そうなんだけど……でも意外ね、ああいう雑誌の懸賞って当たるもんなのね。私も何度か応募した事あったけれど、当たった経験は皆無だわ」

 「そうだよな! 俺も初めてああいうのは当たったからさ〜、びっくりしてんのよ」

 「それにペアチケットなんでしょ?」

 「そう!」

 「しかも旅費まで出るなんて羨ましいわね〜……あ、一つだけいうこと聞くって条件、チケットを寄越しなさいっていうのはどう!?」

 「やめて下さい、泣いてしまいます」



 そんな事をしてみろ、一生恨むからな。



 愉快そうにニヤニヤするアリス。美人だから余計にこえーよ。



 「えー……どうしようかな」

 「冗談キツイぜ。今回のこの旅行はリリィとのもしかしたら最後の二人旅になるかもしれないんだからな」

 「え……何それどういう意味」



 俺の発言に一気にニヤニヤ顔を止めるアリス。まぁ、彼女にはここで話しておこうと思う。まだ誰にも打ち明けてはいなかったけれど、前々から考えていて最近になり自分の中で決心がついた事を。



 「────リリィを学校に入れてやろうと思う」



 それこそ俺が前から思案していた事だった。



 「学校?」

 「ああ、特に魔術の教育に気合を入れている学校に

な」

 「唐突ね」

 「前から考えてはいたんだ。あいつ、魔法の才能はバリバリあるからさ。けど、今は独学だってんだから無茶苦茶な話よ。俺は保護者としてその才能を腐らせたくない。才があるなら伸ばしてやりたいんだ」



 以前リリィとこの話した時は、激しく断られたが俺はやはり彼女の将来を考えるなら学校に入れてやった方がいいと思う。勉強だけでない。それに同年代の友達というものと交流することもやっぱり必要だ。村の大人達だけでなく、世間には色々な人がいることを知ってもらいたい。



 「そう。でもだからと言って最後の二人旅になるってこともないんじゃない?」

 「学校に入ればそれなりのカリキュラムがあるだろ? まだ分かんないけど、忙しくなってアイツにも暇がいつしかなくなるんじゃねーかなと思ってるんだ。 ……それにエルフにあるか知らねーけどそろそろ思春期だろ? ま、もう入っていると言ってもいいぐらいには過激な性格をしてるけど…… 思春期に入っちまえば俺といるよりかは仲の良いダチといる方が楽しくなるからな。こうして二人旅をする機会なんて無くなると思うんだよね。 俺が無理強いするならまだしもな」

 「なるほどね、貴方はそう思ってるんだ。学校に行くことをリリィちゃんは?」

 「まだ話してないから当然知らない。前に少しだけ提案したらすげー拒否られてな」

 「ま、知らないとこに行くってのも不安よね。通わせる所は決めてるの?」

 「これから探す。グランマにはいくつか学校があるからそのどれかにはなると思うが……」

 「あら、あの距離を通わせるの?」

 「流石にそれはねーよ。二人でグランマに引っ越すわ。あの長年暮らしてきた家ともおさらばしようかと思ってる」

 「売りに出すの?」

 「売りには出さない。言っても両親との思い出があるしな。しばらくは無人になるだろう」



 俺もそこまで思い切った行動は出来ない。グランマの方に土地を持っているわけじゃないが、借家ぐらいはあるだろうから一時的にそちらに住処を移すだけだ。いずれリリィが一人で暮らしてみたいなんて言い出したら俺だけこちらに戻って来てもいいしな。



 「だから今度は俺の家に来ても飯にはありつけないぞ」

 「何言ってんのよ、引っ越したら連絡しなさいよ」

 「ええー……言ってもお前ってば結婚破棄した人間なのにー?」

 「気にしてないくせに蒸し返してんじゃないわよ。なに、やっぱり今から村に帰ります?」

 「是非手紙で引っ越しを通達させていただきます」



 冗談じゃねぇ、そんなことされたら泣いちまう。



 「よろしい」



 そう、アリスは満足気に笑んだ。



 だが、最近のアリスの村に来る頻度は中々に高いらしい。俺の家に来ることはなくても、実家には度々帰っているのだとか。城下の街から村まで飛んで来るのは苦労があるはずだが……



 他に交流関係のある人間などいないのだろうか? 村の人間は別として城下の人間で。 ……そういえば帝と話していた縁談の話はどうなったのだろうか。出会いがあったのなら俺ではなく、その人間と交流を深めればいいのに。



 「なあ、アリス」

 「なに?」

 「話は変わっちゃうけど、そういえばお前、帝の紹介の縁談はどうなったんだ? あれから大分経ってると思うけど」



 俺の問いにアリスは最初ポカンとし、目を半開きに何を言われているのか分からないと言いそうな表情を晒していた。しかし何かを思い出したかのように瞬きをすると答えた。



 「あ、ああ〜その話ね! 思い出したわ! そう、このあいだ便りがあって、美麗な人相書きが一緒に同封されていたわ」

 「おー、じゃあ本格的に見合いするのか、よかったな」

 「……何言ってるの?」

 「え」

 「タイプじゃないから断ったわ」

 「ええ!?」

 「別の男でお願いしますって返答した」

 「げぇぇぇ!?」



 馬鹿かよこいつ! 帝になんて無礼なことを! 頭を撥ねられても可笑しくねーぞ!



 「お前、やべーだろ! そんなこと!」

 「なにがよ」

 「皇帝様プンプンだろ!」

 「いいえ? 分かったって言って下さって別の人間を探すってことになったわ」



 ま、まじか……そんな無礼を許すもんなのか? それともあれか? アリスの事を不憫と思って出来る限りの我が儘は飲んであげようという考えなのか? ……どちらにしても恐ろしい話だ。



 「ええ……何がダメだったのよ? 」

 「そんなの顔よ、顔」

 「え? だって人相書きは美麗だったって……」

 「絵自体はね! それはそれはリアルな人相書きだったわよ。そりゃもうブスさ加減がハッキリと分かる具合にはね!」

 「そういう意味ですか」

 「私、妥協したくないので! 地位や名誉、富も大事だけど、顔も大事なので!」

 「あ……そう」



 相変わらず、すげぇ女だなとしみじみ感じながらも、そんな彼女との休息の時間はあっという間に過ぎていった。

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