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ステータスの話をしよう

 

 仮眠も取り終わった正午。昨晩の疲労もだいぶ抜けた中、俺はベッドから起き上がる。



 としたのだが、右腕にかかる重みでそれを一時停止。横を見れば、俺が眠りにつく際までテーブルの席で大人しくしていたはずのリリィが一緒になって寝ていた。俺の右腕を枕の様にしてだ。しかもまた俺の寝間着をブカブカに着ているじゃねぇか、これじゃペアルックだ。気色悪い。



 くそ、最悪だ。腕は痺れるし、何が悲しくてこいつと寝なければならないんだ。



 俺はこっそりと腕を引き抜くと、手で彼女の頭を持つ。彼女の顔が不機嫌に歪みむにゃむにゃと言う。腕の代わりに素早く枕を差し込んでやると安らかな表情に戻った。



 静かにベッドから降りるとこっそりと物置小屋へと向かう。午後には木こりの仕事が一件ある。その準備をしなくてはいけない。



 寝間着を着替えると物置小屋を開け、そこに収納されたアイテム達を漁る。



 えー……と……斧と砥石と……一応虫除けのお香も持っていくか。仕事に集中したいからな。



 「なにしてる……の……にんげん…」



 げっ



 声につられそちらを見ると、眠気まなこのリリィがそこには立っていた。太腿まで伸びた銀髪は所々跳ねているし、その足には何も履いていない。目覚めた調子でそのまま音につられてここまで来たってことか。



 「別に。これから仕事だ、俺は家を空ける」



 準備を進めながら俺は答えてやった。



 「そか……じゃ、私も準備する」

 「は?」



 ちょっと待て、こいつ言ってはいけないことを言わなかったか。



 「お前今なんつった?」

 「準備する」

 「え、なんで」

 「んん? ……私もついていくから」



 連れていくわけないだろう。何で仕事に必要の無ぇガキンチョを連れて行くんだよ。足を引っ張るばかりだろうに。



 「ついてくんな」

 「やだ、行く」

 「邪魔くせぇだけだ! お前は留守番するなり出ていくなりしてろ!」

 「や〜〜ん、私も行く〜仕事手伝う〜」



 またや〜んか!! こいつ寝起きは駄々っ子かよ……



 「森は危険なんだ。いろんな獣もいるし、モンスターだって。お前みたいなお子様が入っていい場所じゃないの」

 「大丈夫だもん〜私戦えるもん〜それにモンスターが出ても人間のスキルなら争い事も起こらないでしょぉ」



 たしかにそれは言えている。俺はモンスターや大型の獣と遭遇しても争いにならないし、縄張りに入ろうが、勝手に子供を抱っこしようが、彼らに牙を剥かれたことはない。それが初めて会うヤツでもだ。



 というか今さりげなく衝撃の事実を知ったのだが。



 「え、お前、今戦えるって言ったか?」

 「うん、そう」

 「え、お前戦えんの?」

 「だからそうだってば」

 「……どうやってだよ」



 俺は馬鹿にしたように苦笑いと共に言う。



 そうするとリリィはおもむろに右手の人差し指を突き上げた。



 「火炎」



 彼女がそう口にすると、なんということでしょう、彼女の人差し指から青い炎がゴウゴウと燃え立っているではないですか。



 「このくらいの低級の魔法なら余裕だもん」



 目の前で起こされるなんとも羨ましい光景に俺は口を結ぶ。魔法が使えるなんて、私はその才がありますと公言しているようなもの。それを目の前でやられては、魔法なんて使えないこちらの身としては妬ましいこの上ないのだ。



 「……あそ、じゃあな」

 「むう〜〜やらせといてそれはないでしょ」



 気分が悪い。なんと言われても一人で仕事に行くことを心に決めた。



 村から出て15分程、いつもやっている場所から少し外れた場所で今日はやる事にした。気分転換だ。



 俺は地面に道具を下ろすと、一息吐いて頭の中で言葉を唱える。



 『自己情報開示』



 そうすると俺の目の前に光る枠組みが現れ、あらゆる事が記入されていた。




体力 77.84

スタミナ 101.53

攻撃力 20.25

防御力 18.33

敏捷性 24.02

命中率 44.74

技術力 23.11

魔力量 1.22

魔法威力 0

運 84.40



 これは俺のステータス。実は前にも少し言ったかもしれないが、この世界にはステータスシステムがある。まるでゲームのような話だが、これは現実であり事実だ。そしてこのステータスはこの俺のいる世界や生活に大きく関わってくる。



 例えば体力はゼロになれば事実上の死であるし、スタミナがゼロになれば抗えない睡魔に見舞われる。攻撃力は戦うための数値だけではなく、あらゆることに対するパワーを示していて、低ければ重いものを持てなかったり、硬いものを握り潰せなかったりするのだ。



 ではここで俺自身のステータスの話をしよう。上記に示した俺のステータス、これはぶっちゃけ高いでしょうか低いでしょうか。答えは残念、低過ぎるんです。俺の年齢である18歳であれば大抵の一般男性は体力が800近くあり、攻撃力が300付近まであるのだが、何故か俺はこの数字だ。……泣けるよね。



 しかもおまけに俺だけに小数点なんて付いてるしな!!



 俺のステータスが可笑しいなと分かったのは7歳の時だった。ステータスってのは普通自分の物は自分でしか見れないのだが、その日村に世界中を回る旅人が訪れた。その旅人は世にも珍しい『情報看破』の魔法を持っていて、希望する者のみステータス情報を一時的に他者にも見れるように開示してくれたのだ。因みに他人のステータスを覗き見ることが出来たり、開示する魔法は本当に限られた才能の持ち主にしか発現しない魔法だ。そして幼い頃は病弱だった俺も、友人達と面白がってその旅人の元を訪れ、皆んなでステータスを見せ合ったのだが……



 俺はその日、自分のステータスが異常に低く、小数点なんてものは普通の人間にはついていないという事を初めて知った。俺の低ステータスに友達は励ましてくれたが、旅人は不憫そうな怪訝そうな顔をしていたのが忘れられない。普通小数点なんてつかないし、ついた人間も見た事がないとのことだったからだ。



 だがしかし、俺も俺で自分の体の事をその時は病弱だと分かっていたので、さして気にはしていなかった。成長して体質を克服すればそれらの異常も無くなるのではと、甘く考えていたからだ。だけど年齢を重ねるにつれて病弱体質を克服してもなお、小数点は消えることはなかった。悲しいね。



 しかしまあ、こうして仕事が普通に出来るようになった今の俺を鑑みるに、何事もなるようになるのだなと思う。例え低いステータスでもな。だから今は嫌悪しながらも特に気にしない様には努めている。精神衛生的にも良くないしね。



 「……ふう」



 俺が木を切り始めて2時間ほど経った頃、一息つく。川のほとりで顔を洗う。水面に写る自分の黒髪、黒目の顔は少しだけ疲弊した面持ちだ。俺のスタミナや攻撃力、技術力のステータスであれば働き続けても2時間が限度だ。これ以上は大怪我をする可能性も高くなってくる。まあ怪我するかどうかは運のパラメーターも関係してくるがな。



 俺はチラリとある方向へ目を向ける。そこには大岩の上で仰向けで青空を仰ぎ、すうすうと寝ているリリィがいた。付いてくると言って30分程で結局飽きて寝てしまったのだ。だから来んなって言ったのに。



 この間買った服の一つ、真っ黒なワンピースとロリータパンプスを身につけながら、岩の上で眠る彼女はさながらファンタジーのお姫様か。とツッコミを入れたくなる。あ、ここファンタジー世界みたいなもんか。



 しかし眠っているのなら都合が良い。



 俺は彼女に背を向けながら自身のステータスを開く。



 「……や、やった…!」



 スタミナが101.53から101.55に、攻撃力が20.25から20.26に、技術力に至っては23.11から23.17にまで向上しているではないか!! 久し振りにこんなに成長した! 嬉しい!



 普通の人間なら100が110くらいはパラメーターがアップするだろうが、俺は小数点以下が増え、99を超して初めて一の位が1つアップするのだ。だから苦労も何倍もしなくてはならない。



 これが俺のステータスに小数点が存在する弊害の1つだ。同じ苦労をしても他の奴らが2になるところが、俺は0.02上がるだけ。俺はそういう運命の元にある。



 しかし、こんなにステータスが向上したのは久し振りだ。自分の著しい成長にドキドキしてしまった。



 「え」

 「は?」



 うっとりと余韻に浸る俺の下からそんな声が聞こえた。思わず、は?と言ってしまうが、その視線を下にするとそこには見慣れた幼女がいた。



 「リ、リリィ!!お前寝てたんじゃ……」

 「起きた」

 「そ、そうか……」

 「それより人間」

 「なんだ」

 「お前、超しょぼしょぼステータスだな」



 げぇ!!バレてやがる!!なんでだ!



 しかもこの口調、寝起き駄々っ子モードではなく通常のクソガキモードだ。昼寝だから眠りが浅かったからなのか!!? どちらにしてもめんどくさいが、こちらのモードはウザさが加速してくるぞ!!



 「な、何故それを……」

 「私には『情報開示』の『魔法』がある。お前がブツブツステータスだの言っているから何だろうと見てみれば……お前、悲しい程に弱いわね」



 お前も持ってんのかよ!また魔法か!!反則だろ!!しかもよりによって一番バレたくない奴にバレた!!



 「……プッ」



 ああああ"!!!?? こいつ今笑いやがった!! 何を思ってか、居候先の主人である俺を笑いやがった!! 死ねぇ!!



 「いいか、リリィ……今見たもん全部忘れろ」

 「イヤよ、絶対忘れない」

 「世の中知らなくていいこともあるのさ」

 「これは知っておいて損はないもん」

 「……なぜだい?」

 「お前をずっと馬鹿に出来るから」



 クスクス笑いやがるリリィ。ちくしょう今日は厄日だ。イライラして頭が痛ぇ! 馬鹿野郎!

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