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簡単にはいかぬ。

三人称です。

 

 マキビシを撒き散らし終えたジョンは自身が撒いた煙幕の渦を見つめた。



 未だに動きのない煙の中をどう攻めるかと考察するが、良い案は浮かばない。相手からの攻めを想定すると足場をマキビシで囲い制限するというのは自分でも良い行動であると思うが、それ以上の此方からの攻めを今は思い付かなかった。



 設置型のアイテムを後いくつかは用意してはいるが、相手の出方によって使い分けていきたいとジョンは思っていた為、保険や事前対策としてこれ以上のアイテム出しはやめておきたいと考えていた。



 フォークスは恐らく剣のみで此方に対抗してくると考えられた。その考えから接近させない事が活路になると思ってはいたジョンだったが……




 ブラックスクイートから野球ボール程の大きさの球体を取り出す。ここは少し動きを見るとして、その信用のおけるアイテムを備えることにした。その瞬間であった。



 立ち上っていた煙の上部が突如穴が空き、何かが天空へと飛び出した。ジョンは驚きもしない。それが何なのかは理解していたからだ。



 「いくぞ攻略屋ァァァ!!!」



 跳躍し、ジョンの撒いたマキビシ地帯を跳び越えたフォークスが、猛スピードで落下しジョンを狙った。ジョンはその瞬間を見ていた。ヤツが空中を蹴り、落下スピードをあげたその光景を。



 落下位置を予測してジョンは後退する。予想と観察力、それが格上に勝つ為のルートである。



 だが、落下位置から数メートルの距離まで開いた時であった。地に落ちる瞬間、フォークスの進行方向が急に変動したのだ。



 「なに!!」



 フォークスは再び空中を蹴り、落下する下への進行方向を横へと変えたのだ。水平に飛び、一気に接近する彼を別の方向へと転がり回避を試みるが────



 「無駄だと分からないか!?」



 再びフォークスの殺意が方向を変更し襲い来た。



 しかし─────




 ブファァッッ!!!



 突如まるで宙を舞う様にジョンを付け狙っていたフォークスの体が、後頭部から思いっきり背後へと仰け反り吹き飛んだ。



 「グゥゥッッ!」



 その光景にとっくに閃光の怯みから立ち直っていた観戦者から歓声が上がる。



 「おお!!」

 「何が起きた!?」



 恐らくフォークス本人が一番その疑問の答えが気になっただろう。その答えはジョンの手にあった。


 先程取り出していたはずの球体がその手には無かった。それこそフォークスを仰け反り吹き飛ばした要因、『暴風の球』である。風を体内で作り出し高速の空気砲で獲物を仕留めるモンスターの製風器官から作った、人間一人ぐらいは簡単に吹き飛ばす風を破裂時に起こすアイテムだ。



 それを接近したフォークスの顎下目掛け使った結果がこれである。焦って緊急回避として使ったが発揮した効果は上々である。



 しかしジョンは一つ勘違いしていた自分の考えを酷く反省した。



 「てめぇ!! 魔法は使わないって言ってなかったか!?」



 叫ぶ様に抗議するジョン。所詮風による吹き飛ばしなど意にも介さぬと言うように、フォークスは空中で体勢を立て直し滑らかに着地すると冷静を装う様に髪を撫で答える。



 「それは前回までの話だろう。今回ばかりは僕も少々、本気でいかせてもらう。なに、こんなにもこの戦いを見届ける人間がいるんだ、生きてさえいればどんな重傷でも処置できるだろうしな」

 「んだと、このやろう……」



 これはマズイとジョンは思った。今回は前回の戦いを参考にして武器や装備を整えてきたのだ。手の内の分からない魔法なんて使われてしまったら、それこそ勝ち目なんてなかった。



 「いくぞ─────『真空跳躍フリップホッパー』」



 フォークスが声と共に駆け出す。そして先程と同じ魔法を所々に織り交ぜ、加速と、フェイントへと応用した。それはジョンの観察力を既に上回っていた。



 気が付けばジョンの懐には青黒い存在が潜り込んでいた。



 「────っしまッッ!!」



 何の抵抗も出来ず、フォークスの両手剣がジョンの腹部を切り裂いた。



 完全なる手応え。フォークスは勝利したと歓喜に震えそうになるが、その手応えの中に可笑しな違和感が存在することに気がつく。なにか変だと思い、彼はもう一撃を浴びせようと考えるが……



 ブシュゥゥゥ!!



 そんな空気の抜けるような音と共に白い煙が、フォークスの切ったジョンの体から噴射されたのだ。そしてそれは懐にいた彼を容赦なく襲う!



 そうして生まれた眼球の違和感。それは肥大し痛みへと変わった瞬間に、彼はこの感覚に覚えがある事を思い出した。



 「グァ! くそまたその目潰しか!」



 怯むフォークスはがむしゃらに剣を振るった。しかし剣は空を切る。やはりいないか。そんな一種の諦めに彼の鬱憤が少しだけ積もった。



 一方のジョンはとは言うと、フォークスから少し離れたところで息を荒くし自分の体を確認していた。切られた部分からは既に『催涙ガス』が噴き終わっていた。



 なんとか一撃は防いでくれたか……そう安堵したジョン。実はフォークスの切ったジョンの胴体の部分は彼の着込んでいた改造鎧で守っていた箇所であったのだ。この世界では手に持ったりする武器や着込む防具は使用者のステータスの影響を受け、その効果が向上したり下がったりするのだが、このブロックタートルと云う硬い甲羅を持つモンスターから作った鎧は、その防御率の高さからフォークスの洗練された剣戟を防ぐまで至ったのだ。たとえジョンのステータスが低かろうと、元から良い装備ならば防御できるのだ。だが、それもどうやら一撃までのようだが……



 ジョンのステータスの影響を受けているとはいえ、一撃をしっかり防げたのは大きかった。お陰で鎧に仕込んでいた催涙ガスによる自動カウンターを決めることが出来たのだから。



 「さて……どーすっかな」



 フォークスに向き直るジョン。



 最早様子を見ることもできはしない。彼が魔法を解禁してくると言うのであれば、全ては初見であるとふんで行動、攻撃した方するしかない。もう自身の中にあった算段も無意味になったと考えた方が良いだろう。



 まったくの不利な状況にジョンは微かながら自分の頭が痛むことを感じていた。

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