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戦闘準備

 

 静まる夜の闇に火を一つ灯す。



 少し前まで寝床にしていた物置きにカンテラを置き、俺は腰に手を当てた。



 「さて、戦いに於いて必要なものは何かな……と」



 高いステータスに強い伝説の武器? 欲しいけど誰もそれをくれやしない。グリムロードがいればなぁ……いや、いても観客もとい立会人がいる以上彼の力を借りることも出来ないし、求めても意味はないか。



 ダンジョンを攻略する為の基本の道具セットはあるが、今回は対人用のセットを組まなくては。



 リリィも眠りについた事だし時間はたっぷりとある。必要であれば新たなアイテムを使ってもいいかもな。



 俺は倉庫の奥へと入り込むと、敷いてあるカーペットを取り払った。すると現れた一つの引き戸、地下貯蔵庫への戸である。


 俺が開くと、なんとも言えない奇怪な香りが吹き上がる。中に備えられた梯子に足を掛けて降りると四方を棚に囲まれた空間に入る。多段のひとつひとつにはダンジョンにてモンスターから回収した素材が並べられていた。当然全て俺が採取してきた素材たちである。



 この世界にはあらゆる用途に用いるマジックアイテムが職人達の手で作られ商店で売られているのだが、どれも等しく高価であり、マジックアイテムぐらいでしか攻撃手段を持たない俺にとってそれをいちいち買い揃えていては死活問題になり兼ねない。



 そこで俺が行なっているのは自作のアイテム生成である。今の俺ライフスタイルを作り上げたといっても過言ではない『友人』から教わったこのアイテム製造法、勿論他者には教えられない秘匿技術である。元々そういう約束で『友』から教えてもらったのだから、亡き今でもその約束は守り続けている。


 最後の時まで自分が何者であるかを明かさなかった友であったが、今こうして無能の俺でもアイテムを作れる様になっている現実を鑑みてみると、彼はやっぱり只者ではなかったんだと今でも思う。



 「ごめんな。お前の技術、悪用するよ俺……」



 虚空に呟く謝罪は天へいる『彼』へ届いただろうか。いや……届いたと思うしかない。でなければ今の俺は止まってしまいそうで怖い。今は戦う事だけを考えよう。



 俺の倉庫での作業は日が昇りリリィが呼びに来るまで続いた。





 そして約束の日が来る。俺は身体中にアイテムを隠し持ち、ローブ内に隠せない物は、ローブの上から装備した。もやは隠密に行動する者の装いとは大分乖離してはいたが、それほどまでに準備しなくては勝てない相手であるということは重々承知の上だ。



 覚悟を決めて約束の地へ俺は赴いた。そこは前回と同じ場所であった。腕を折られ、苦渋に顔を顰めた今では少し忌々しい草原。俺が指定したのはそこであった。



 俺が到着すると約束の場には何十人もの冒険者が集い、まばらに散って独特な大きな円を作っていた。その中心に誰がいるかなんて簡単に想像がつく。その円へ近付く俺に誰かが声をあげた。



 「来たぞーー!!」



 役者は揃ったってか。俺は冒険者達の側を通り抜ける。その中で誰かが背中を強く叩いた。しかしそれは転ばそうだとか突き飛ばそうという意味合いのものではなく、どちらかというとそれは力強くもどこか優しい感じのものだった。激励によるものだろう。



 クソ嬉しい事してくれるじゃないか。



 俺は仮面の下で少しだけ笑った。



 「何か嬉しい事でもあった?」



 声も出さずに微笑したはずなのだが、白兎の仮面を向け、問うてきたリリィ。勘の鋭い子だとつくづく思い、彼女の被るローブのフードの上から頭を撫でてやった。俺は大丈夫と答える様に。



 大きな円の中心地には予想通りフォークスの姿があった。そしてソフィーとカムイさんの姿も。



 「来られましたな────これは……随分と物々しい姿で」



 カムイさんの目が俺の左腕に向けられているのを感じる。カムイさんだけでない。フォークス達からもだ。



 それはきっと俺の左肩から左手の指先まで、『黒い籠手』に包まれているからであるだろう。しかもそれがまるで俺の腕に何か別の生物が纏っている様なフォルムをしているからこその『怪訝な』視線であるのだろう。しかしこれこそ俺の秘密兵器、ブラックスクイートと呼ばれる食べた物を吐き出したりして攻撃をする小型モンスターを死骸を改造したマジックアイテム……いや、魔法装備マジックイクウィップメントとでも言った方が正しいかもしれない。この中には体に装備出来ない多くのマジックアイテムを仕込んでいる。今回に於いては必須の装備だった。まあ、見た目がグロくてよろしくないのは俺も思うけど。



 「フォークスを相手取るなら、これくらいはしなくちゃならないからな」

 「ほう、この間の言葉は負け惜しみではなかったということか」



 フォークスが得意げに返してきた。



 「そう言っただろうが。嘘だと思ってたのか?」

 「敗者は何をするか分からんからな。負けた腹いせに適当な事や言い訳をするのはよくある事さ」



 フォークスの中で俺はどこまで行っても卑怯者らしい。少しだけ笑ってやるとあからさまな不機嫌感を彼は醸した。



 「両者とも覚悟はよろしいですな」



 カムイの言葉にどちらともなく返事を返した。



 「それでは公平を期すために距離をとっていただこう」



 その言葉に従い俺達は背中を向けあい、離れ歩いた。今一度俺達に与えられた戦いの領地を確認すると、半径40メートルの円の中といったところである。それ以上は周りを囲む冒険者達に危害が及ぶ為に、戦う事は出来ない。



 この直径80メートルほどの円の中でフォーカスと俺は戦うこととなる。



 今一度大きく深呼吸をして心を整えた。



 「怖い……?」


 隣を歩くリリィから心許ない声がかかる。最後の最後まで心配性な子だ。



 「大丈夫さ、俺にはやれる。さぁ、離れていな」

 「……うん」



 俺がそう指示してやるがリリィはその場を動かなかった。



 「どうしたリリィ?」

 「……あ、あのね…人間…」

 「ああ……」

 「……負けそうになったら無理しないで……負けてね。 死んじゃダメだよ。大きな怪我も……それから……助けて欲しかったら言ってね。私すぐ飛び出すから」



 それを言いたかったのか。俺は礼を一つ言うと、出来る限り優しくその背中を押してやった。そうしてようやくリリィは群衆の中へと混ざるのだった。



 大丈夫だよリリィ。俺はやる。勿論お前に悲しませる事もしない。必ず無事に終わらせるさ。



 俺は決意を胸に振り返り、遠くのフォークスを見つめた。





 ──────さあ、やるぞ、攻略開始だ。

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