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戦う男

 

 「馬鹿言っているんじゃないわよ!」



 睨み合う俺とフォークス。二人の男の間に高い女声が割って入ってきた。俺も彼もその方を見る。そこには純白の魔女装束を纏うひとりのパック族がいた。



 「受けちゃ駄目よフォークス! あんなに多くの絡め手を使用してきたこの男が貴方の望む様な戦いをするわけがないじゃない! それにあんなに痛めつけられたコイツが再戦を申し込むなんて、絶対何かある! 卑怯な手を沢山仕掛けてきますわよ!」



 声をあげ、仲間であるフォークスに反対するソフィーを彼は見ていたが、彼がそんな言葉を聞き入れる事はない。



 「であれば、それを打ち砕いてこそ、僕の騎士道も正統性が示せるというもの。ソフィー、僕が負ける事などないのは知っているだろう」

 


 随分勝手な物言いだが、今は戦ってくれるならそれを否定する理由もない。



 フォークスの言葉にソフィーは魔女帽子とマフラーで隠れている顔の隙間から覗く桃色の両目を細める。眉間にも皺が寄り、明らかに彼に対して呆れや、対抗心を示していた。



 「っ……!! ア、アンタも可笑しいわよ! 何よ、こないだは逃げ帰っておきながらまた戦えだなんて、自殺志願者でももっと賢い死に方を選びますわよ!?」



 自分の相棒には話が通じないと思ったか、俺の方に止めるようにソフィーは言うが、そんな説得をされたところで俺が申し出を引き下げるわけがないだろう。



 「俺は死なないさ。 心配するならそこのエゴ騎士道さんを心配しておきな、優しい魔女っ子」

 「言ってくれるな攻略屋。今度は殺されたいのか?」

 「この間の俺は手持ちの武器も揃っちゃいなかった。だからお前にも遅れを取ったが、今度はそうはいかない」



 俺の答えに喜ぶように抑えた笑いを零すフォークス。俺も彼も最早誰にも止められないのだ。



 「もうもう!! なによ、この男達は馬鹿でしてよ! ……ちょっと貴女も止めなさいよ、攻略屋の仲間か何かなんでしょ? 兎の仮面なんかつけてだんまり決め込まないで下さる!?」



 目の前の覚悟を決めた男共には話は通じないと見切りをつけ、ソフィーは俺の隣にいるリリィへと助け舟を要求する。だがそんな事をしても無駄だ。この戦いを行なう上で俺が一番最初に相談を持ちかけたのがリリィなのだから。



 ひとりの裏稼業者としての戦いに於いての実力の尊厳を取り戻す為の挑戦。俺を傷付ける外敵へ、立ち向かい対抗出来るかの証明。それをリリィに目の前で証明し安心させる為の戦いなのだ。この挑戦は。



 「……私は止めない」



 潜めた声でリリィは答えた。



 「私は相棒を信じているから。貴方のパートナーがどれだけ強かろうと、私のパートナーは勝利するわ」

 「そういう話ではなくってよ!? 貴女のパートナーが強かろうと、下手すりゃ死ぬかもしない。大怪我で済めば御の字なのよ!?」



 立ち上がったソフィーに詰め寄られリリィが息を飲む音が聞こえた。



 「分かっていないんじゃなくって!? 貴女みすみす自分の大切な人を見殺しにする気なのかしら!」

 「…………そ…そんな……そんなことは…」



 捲し立てられるように言う彼女にリリィが可哀想に思った。助け舟を出さなくては。リリィはあくまで最後まで俺に反対していたのだ。その無理を押し切って俺はこうして行動している。彼女に非は無い。



 「ソフィーと言ったな魔女っ子。うちの子兎バニーを責めないでやってくれ。彼女は悪くない。全ては俺の独断だ」

 「そう言って彼女を守りたいのであれば、そんな行動と発言をしないことね! 所詮今のアンタは矛盾した行動しかしてないわよ! この偽善者!」



 うぅ……た、確かにそうだ。そんなのは自分でも分かっている。で、でもこうなったのは元々お前のいけすかねぇ相棒の勝手な暴力の所為なんだぞ……そこんとこもう少し汲んでくれねぇかな……



 「とにかく決闘じみた行為なんてわたくしは一切認めませんことよ!」



 その彼女の断言はギルド内に響く。俺達の喧騒はいつのまにかギルド中の注目を集めており、彼女の声に空間は全体は静寂に包まれた。



 俺は今一度フォークスを見る。彼の視線の先にはソフィーがいたが、恐らく俺と同じく何を言われようとこの戦いを無為にする気はないだろう。そんな雰囲気が漂っていたから。



 だがこうなるとこのパック族の少女も不憫だ。確かに今回は俺から自分のパートナーへの挑戦であり、俺がそうしなければ彼女もこんな風に悩まされる事もなかったのだから。なんとかフォローしてやりたいと思うのは俺の傲慢か?



 「────で、あれば某が立会人となろうぞ」



 そんな時だった。聞き覚えのある声がギルドに響いた。席につく群衆の中からひとりの男が立ち上がる。



 紅い武者鎧。山犬の仮面。噛威カムイ奇幻座キゲンザであった。



 「カムイさん」

 「やあ、久しく」


 この人いつでもギルドにいるな……そう思った。カムイさんはテーブル同士で作られた通路を歩み、俺達の側へと来る。



 「話は勝手ながら聞かせてもらった。某が立会人となり、どちらかの勝利を見極める役になろうぞ。勿論白熱し、行き過ぎた時には二人の間に入り止める事を約束する。それでは如何かね? 童女殿」

 「ガキ扱いしないでもらえます? アンタ一体何者よ。いきなりしゃしゃって来て……たとえそう言われたって駄目よ!」



 背の高いカムイさんに怯むことなくソフィーは主張する。恐れを知らない子だ。



 「駄目と言われてもキミの意思とは関係無く、この益荒男二人はやり合おうとしているがな。それが分からないほどキミも不出来ではないだろう?」

 「それはそうですが……」

 「男達の覚悟を蔑ろにするものではない。彼らは高みへと向かう為に何かを抱え、歩む神の世の駒であり奴隷なのだ。某も同様。その気持ちは分かる。譲れぬ意地と尊厳、何かを成す為に剣を取り戦う。それでしか取り戻せぬ物も世には存在するのだ。それを止める事は何者にも出来ない。であればせめてその行く末を見届け、そばに立ち、勝敗を決めてやるのが一番ではないかね?」

 「意味不明なこと言わないで下さる?」



 カムイさんはあからさまにショックを受けているようだった。多分……言い負かせるかなと期待したのだろう。けど一言で切り捨てられるとはカムイさんも不憫だ。てか、口喧嘩弱ぇな!



 しかしソフィーは少し考えたのち諦めたような溜め息を吐いた。



 「────でも……アンタが言いたい事は分かりましてよ。そんなことわたくしも最初から分かっていたわ……でも……やはり口を出さずにはいられなかった……」



 ソフィーは本当に馬鹿馬鹿しいと付け足した。


 

 「おお、では某に任せて頂けるな?」

 「お願いしたいところだけど、実力の分からないアンタだけじゃ不安ね」



 腰に手を当て、やれやれとする彼女の言葉にカムイさんのほくそ笑む音が聞こえた。



 「それなら安心して欲しい。ここにいる冒険者共はすでに貴殿達のぶつかり合う姿を拝見しようと滾っておるわ。某が言わなくとも大半の輩は野次馬に駆けつける。そうなればいざ危険となったら某だけではなく何人かの輩は協力してくれるだろうさ。冒険者と言っても荒くれ者ばかりではないからな。────そうであろう?」



 カムイさんがそう振り返り問うと、大半の冒険者は関係ないとそっぽを向くが、彼の言う通り、手を振ったりしてくれるヤツも数人いた。すっかり見世物のようになってはいるが、確かに誰かに立ち会ってもらう事で死や怪我のリスクから逃れ全力を出せるのであればこの上ない環境ではある。



 「……本当馬鹿ばかりね」



 呆れた様子のソフィー。何を言っても無駄なのは分かっているのだ。俺も彼女の立場なら同じ意見だったろう。



 「それが男の矜持であるからな」



 カムイさんは少しだけ誇らしげにそう言った。

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