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パートナー?

 

 夜7時にグランマの外れに存在する農家の家、マーカス家にて。



 それが俺のアーティファクトを渡す相手との約束であった。



 昼間は家畜達で賑わうであろう草原地帯を抜け、俺は依頼主の家の扉を叩いた。



 少しだけ開かれる扉。隙間から覗くのは高身長で屈強な男であった。こいつがマーカスだ。俺に湖畔洞窟に潜り込ませミラーボール型のアーティファクトを取って来させた張本人。



 「攻略屋か。時間通りだな」

 「私が時間を跨いだことはない」

 「そうらしいな。入れ」



 そう言って開いた扉から俺は家の中へと上がる。上がるのだが……



 「お邪魔しますー……」



 俺の後方から響く、透き通る様な声。それは強張り、緊張しているの予測させる。



 「なんだそいつ!?」



 マーカスの驚愕した声が部屋の中に響いた。



 「てめぇ、攻略屋! 俺の事をタレコミやがったのか!?」

 「落ち着いてくれ。この子は私の連れだ。貴方の思っている様な人間じゃない。この件を誰かに漏らす事もないから安心してくれ」

 「ああ……そうなのか。すまねぇなちょっと驚いてな」



 マーカスの狼狽した様子に『リリィ』もとい『白兎の仮面の少女』は少し怯えていた。



 「それにしても攻略屋、お前が子持ちだったとはな」

 「何言ってる。俺の子じゃない」

 「なんだ、じゃあ養子? 養子を取ったって噂は聞いてないけどな」

 「どうやっても俺の子にしたいのか? ……この子はそうだな……言うなれば一時いっときの相棒ってやつかな」



 なにが相棒だ。俺は自分自身に心の中で鋭く突っ込む。本当は俺を一人では外出させないとしたリリィに無理矢理についてこられてしまっただけなのに。


 風呂を出た後に俺が外に出る準備をしていたところを見られ、訳を話したら二つ返事でついてきてしまったのだ。勿論断ったが、俺のあげた仮面を被り、昨日誰のおかげでダンジョンを容易に攻略出来たのかと、恩着せがましく語るリリィに俺は簡単に白旗を挙げるしかなかった。そして今に至る。



 「ふーん……こんにちは。いや、こんばんはだな。声からして女の子だろうが……嬢ちゃんお名前は?」

 「……リ、「─────バニーだ」



 あっぶね! リリィのやつ本名漏らそうとしやがった!なに考えてんだ!



 「コイツの名はバニー。聞くまでもないだろう」

 「うさぎの仮面だからか? へ、安直だな」

 「私達がどんな名前だろうと関係ないだろ貴方には。これ以上この子に散策する様な真似は止めておけ。深入りした者がどうなるかは説明しないと分からない訳じゃないだろう?」

 「……ま、そうだな止めておこう。俺も興味はないしな。ただこんなチンマイのがお前の相棒だとは、何とも面白くてな」

 「気をつけた方が良い。こんななりでも私より強い」



 そう言ってやるとマーカスの眉が驚いた様に上がった。自分の太腿位までしか身長のない、フードを深めに被った白兎の仮面の少女にそんな力があるとは到底思えなかったのだろう。



 「ほう、あらゆるダンジョンを攻略出来るアンタよりも強いときたか。恐ろしいね」

 「ああ、だからあんまり揶揄からかうと噛み付かれかねないから気を付けた方が良い」

 「私そんな事しないよ?」



 せっかく威厳を出してやろうと思ったのに、リリィの空気を読まない発言に俺もマーカスも沈黙した。リリィを見たのち、マーカスを見る。彼は笑いを堪えた。俺はやってくれたなと思い自ずと片手で自分の頭を押さえる。



 「クククッ……なるほどな、フフッ、こ、攻略屋……こりゃ良い相棒だこと…ククッ」



 ああ……クソ、台無しだな。とりあえず『攻略屋、新しく相棒が出来る! 実力は如何程いかほどか! おつむ烏賊イカ程か!』なんて噂が明日には町の冒険者の中で話されるかもしれないな。


 何も分かっていないリリィは俺とマーカスを見て困惑の目をしていた。








 「ちょっと緊張したね」



 目の前に置かれたチキンのグリルを手慣れた手つきでナイフとフォークで解体するリリィが嬉々として語る。



 俺は冷めた目でバゲットをちぎりながら彼女を見た。



 「あれがちょっとに見えるかお前には」

 「ええ? どういう事?」



 マーカスに渡す物を渡し、俺達は時間も遅かった為にグランマの街で夕食を取る事にした。そして料理が出るまでご機嫌であったリリィからその理由がこうして口から語られたという状況だ。当然姿はどちらももう普段着になっている。



 「初っ端から自分の本名をバラそうとする奴があるかよ。こちらはおかげで冷や汗もんだったぞ」

 「それはゴメン……でもその後は人間が何を思ったのかとか、何で偽名を言ったのかなんて察して発言する様にしてたんだからさ、そこは偉いでしょ?」

 「……何で褒められようとしてんだ」

 「えへへ」

 「えへへじゃねえっつーの! まったくよぉ……あれじゃタダ愛想振りまいただけじゃねぇか……」

 「お仕事で愛想を振りまくのは大事なことじゃないの? 本にはそう書いてあったよ」

 「それは職種にもよるな。少なくとも俺達の仕事じゃそれは間違いに近い」

 「そっかぁ……難しいね」



 難しいか? まあリリィからすれば難しいのかもな。だがしかし彼女はそう言った部分を知らなくて良いだろう。所詮裏稼業の世渡りなんて、表舞台でしか生きない人には不必要な知識だろうしな。リリィだって俺の怪我が完治すればこの様に攻略屋の仕事に同伴する事もなくなるから、言うなれば無駄知識になる。要らぬ教養かもな。



 「水を貰ってくる。お前はいるか?」

 「いらなーい」


 そういった緊張感から解放されたからか、先程から無性に喉が渇いていた。バゲットを食べている事も相まってこれで三杯目である。



 全くリリィの無警戒さに今日はヒヤリとさせられた。裏稼業としての世渡りは知らなくとも、日常生活でも少しくらいは警戒心というものを持たせた方が良いのかも知れないな。


 自宅で少し教えたりするのが良いのかな? そういった教本みたいのって売ってるのかな?


 俺がリリィへの今後の教育方針を頭の中で巡らせていたからだろう。唐突に横から来る人間へと衝突してしまった。


 バランスを崩し倒れる俺。咄嗟に左手を庇うように倒れた事によって、結構壮大にこけてしまった。情けなや。



 「っいってぇ……」

 「ごめんなさい! 大丈夫ですか!?」



 俺を案じる声がした。男の声だ。きっとぶつかってきた本人の物だろう。



 「すみません、僕考え事をしていまして……」

 「いや、大丈夫、俺も同じような───」



 俺に差し出された手を右手で握り、俺はその男を見て息を飲んだ。



 「怪我をされているのに……本当に申し訳ない」



 黒いファーの着いた青いコート。黒髪。表情も顔の造形もない白い仮面。見覚えのある仮面。否応にも左腕が疼く。



 俺は『何でも屋フォークス』の手を取っていた。

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