蔦と氷による拷問。風呂場にて。
俺の前で裸体を晒すリリィ。肉付きの少ない細い手足で胸を隠し、顔がとてつもなく赤くなっていた。それは耳までも染めている。
腰は少々くびれていても成人女性のそれとは程遠い。乳房だって控え目も控えめ、究極に控え目であり、隠す為に押し当てた手や腕に圧迫され寄せ上げられることによって脂肪があることを主張している程度だ。
しかしハーフエルフだからか、全体のバランスなどはとても整っていると言って申し分ないと思う。白色肌の体には傷一つも無く、客観的に見ても美しいと言えるだろう。
それにしてもつくづく思うが。
恥ずかしいなら入るなよ……
「ほい」
俺はそう風呂桶を差し出した。恥ずかしがるリリィは無言でそれを受け取り、お湯を掬って頭から被る。そうすると胸部を隠していた腕も使って両手でお湯を掬う事になるので、結局彼女の胸の全貌は俺の前に晒されましたとさ。あらら。
「ギャ!」
顔にかかったお湯を手で拭ったリリィは、愚かにも自分のしている事に気が付き珍しくそんな声を上げる。まるで潰れたカエルのような声だ。
「み、見た!?」
おドジな彼女がそう聞いてくる。そりゃバッチリ見えちまいましたよ。見たくなくてもな。人間の体の作りに酷似しているエルフの胸部の中央部にも2つの『アレ』はあるようで、俺の目の前に晒されたそれを俺は確認してしまったさ。ええ、ええ、変態と言われたくないから詳しくは言わねぇが、春の美しさを物語る桜の花弁の様な色をしておりましたとさ。てかさ、さっきからこの子胸ばっか隠してるけども、『下半身』の方は全く隠そうとしないんですわ。いいのかな? 恐らく裸に対する恥じらいはあっても、明確な羞恥するべき体の『箇所』については知識が浅いんだろうな。
「ああ? しらねぇな」
けれど事実を述べてしまえば彼女がどれほど憤怒するか分からないから、ここは敢えてシラをきっておくとするか。
「嘘!」
まあ、嘘だけどさ。慌てて再び胸を隠すリリィ。今度は桶で隠しているから防御率は高い。
「嘘じゃないってぇ」
「絶対嘘だもん!私が胸から手を退けさせる為に桶を渡したんでしょ!」
「はぁー? そんなわけないでしょ」
「変態!」
酷い言われようだ。だいいち見えたからなんだと言うんだろうか。所詮子供の裸だろうに。俺は子供の裸を見たくらいで劣情を抱くほど変態ではない。最近は肉体年齢に精神が引っ張られているのか、異性の嗜好も低年齢化しているが、どう頑張ったって俺と同じくらいの年齢層から上がストライクゾーンであり、それ以下をそういう目で見ろというのが無理な話だ。明確に言うなら18歳から上の女性の事だよ。きっと子供がどこからやって来るのかも知らないくせによぉ〜生意気言ってんじゃねえ!
こんな目の前の、まだまだ未熟な子供の体に対し興奮することなど、絶対にないのさ。
「もー……うるせぇなぁ、見えたからなんだってんだよ。リリィから風呂一緒に入るって言ったんだろ? 見えない方が可笑しいだろがー」
「や、やっぱり見たんじゃない!」
「へいへい見ました見ましたよ。悪かったな」
「ぐぬぬ……何よその言い草は!」
「とっとと湯槽入れよ。風邪引くぞ」
ビックリするほど動揺もない俺の心も、もしかしたら少しくらい異常なのかもしれないが、そんなもんよりリリィが俺を警戒してそのままの状態で風邪を引くことの方が心配だった。
「─────草木よ!」
「へ?」
しかし俺の耳に届いたのは聞き覚えのあるフレーズであった。そして突如俺の視界が沢山の黒い線によって塞がれたのだ!俺は反射的に瞼を閉じた。
一体何がと慌てて、目元を触ってみると、微かな滑らかさと、柔らかくも硬さがある感触の細い物が幾多にも重なっていた。それの感触は顔面と頭部にまであり、太い目隠しとして一周巻かれている様だった。これのせいか、瞼は少しも開けられない。こ、これって蔦じゃねーか!? そ、そうもくって……やっぱりリリィは俺に対して魔法を使ったのかよ!!
「リ、リリィ、何をする!!」
「あぁ……やっぱり無理……恥ずかしくて死んじゃいそう」
リリィのそんな安心した声が届く。なに安心しとんじゃ。
「人間には悪いけど、私が出るまでそのまま目隠しをした状態でいてもらうわ。勿論体を洗うのは手伝ってあげるし、湯槽から出るのも手を貸すから安心してね」
「そうじゃねぇだろ! こんな事するくらいなら俺は風呂出る! こんなまでしてもらって介抱して欲しくねぇ!」
「駄目よ! 汚れた体は綺麗にしなくちゃいけないわ」
「だったら綺麗にするからこの目隠し取ってくださいよ!」
「それは嫌」
「テメェなめんなよ」
俺は少し堪に触ったから浴槽の中で立ち上がる。俺は怒っているぞと、せめてばかりの意思表示であった。
「へ?」
多分突然俺がそうした事で呆気に取られたんでしょう。リリィの間抜けな声が聞こえたのですが、この時の俺は視界が塞がれていたと言うことと、気が少しあがっていたと言うこともあり、自分の姿を鑑みる事が出来なかったんですわ。えー……ですから立ち上がると必然的に私の息子様も彼女の前に晒されるのです。多分そんな物を見せられた事でリリィはドン引きしたんでしょうな。前にも裸で彼女の前で登場したら悲鳴を上げられたからな。
「ふざけんじゃないよ! リリィ今すぐこの蔦を解きなさい!」
「あわわわわ!!! ふ、ふふふ、ふ、ふん……そそそ、そんな恐ろしい物見せて意気がったって、こ、怖くないもんねー!!」
何を言っているのか分からないリリィに、俺は見えないながら声のする方向へ右腕を伸ばした。そうすると俺にしては珍しくついており、手のたどり着いた所に丁度リリィの細い腕の感触があり、俺は掴んだ。俺のクソステータスじゃ本気で掴んだところで怪我もさせることは出来ないだろうが、まあ、もしもって事があるし一応の気の遣いだった。
「キャッ……」
そうして掴んだリリィを少し引っ張る様にした俺。別に痛めつけるつもりも引き寄せるつもりもなんてなかった。ただ俺が本気で怒るぞと意思表示しているのを分からせる為にやったつもりだったんだ。
けれど……そんなリリィの短い悲鳴の後に、俺の体に何かが触れた感触があった瞬間、俺の全身は硬直した。
桶の落ちる音が聞こえた。
胸下辺りに感じる、濡れ、シットリとした髪の滑らかな感触。腹部に感じるプニッとした柔肌。左太腿に当てられた片手の指の大きさや形。そしてどこに当たっているかは分からないが、俺の股◯から伝わる柔肌と、その下にあるであろう骨の感触。
見えなくても分かる。俺とリリィは今まさに密着状態になっていた……
全身を悪寒が襲う。決してこんな展開を望んだわけではない。引き寄せたつもりはない! 見えないからハッキリとは断定出来ないが、恐らくリリィは俺が腕をつかむ事で動揺したのかバランスを崩して俺の体に倒れかかったのだろう。そのせいでこんな事になっているのだ!間違いない!
密着していないのは浴槽の側面が介している、太腿の半分から下ぐらいか。それでも今の俺達の状態はまともじゃないぐらいには危険な状態だ! 捕まってもいいわけできねぇぐらいには!
「ご、ごめんリリィ!」
慌てて腕を離す俺だが、蔦の所為で目が開けられない為に、彼女が怒っているのかどうかも分からない。しかし俺の体に密着したリリィの体は離れなかった。
「リ、リリィ?」
何も言わない彼女に恐る恐る声をかける俺だが、自分の体に感じる彼女の体重がかかっている感覚に、自分から離れるのは怖かった。俺が飛び退くと、リリィが頭から浴槽にダイブしてしまうと思ったからだ。だから彼女が自主的に離れる事を望んだのだが……
「……き…………」
開いた口から出た言葉に耳を傾ける。
「き?」
「キモイッッッッ!!!!!」
その絶叫と共に俺の目の辺りが一気に衝撃に襲われた。リリィが蔦だけでなく何かを俺にしたのだ!
「ギャア!!!!」
叫ぶ俺! 何も見えないから尚のこと怖い! しかし見えないながら目付近を抑えるとカチカチと固く冷たい感触が、蔦の上から感じた。
これ氷じゃねぇか!!こいつ俺の蔦を更に氷の魔法で凍らせたのかよ!残忍なやり方だが、「水よ」とか「風よ」とか言わなくても魔法を発動するとは……やるじゃない!!
「馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿!!!! 人間の馬鹿!変態! 最低! 阿保! グズ! 人でなし! 底辺顔! 変態変態変態変態!!」
自分の状態に気が付いたのか、とっくに俺の体から離れたリリィから浴びせられる罵詈讒謗。たしかにそう言われてもしょうがない事が起こってしまったが、俺だけの所為でもないのでは……
そう言いたい俺を蔦に張った氷が攻め立てる。突き抜ける様なキーンという冷たさからくる痛みが俺の頭を襲った。
結局こうなるのね。リリィさんには敵わねぇぜ。




