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おつかれ天才児

 

 「アーティファクト〜アーティファクト〜 逆から読めばトクァフィテーア〜 」



 なんだそのイカれた歌は。思わず苦笑しちまったじゃねーか。



 ご機嫌なリリィの腕の中にはミラーボールの様に煌びやかなアーティファクトが抱かれている。二人で初めてこなした依頼の成果だ。彼女も初めての体験に色々な感情が巻き起こった事だろう。結果としてご機嫌であるなら俺は良かった。



 「は〜い到着ぅ〜、人間早くー!」



 無事にダンジョンから抜け出し、侵入してきた大穴と湖畔の境に立つ彼女はピョンピョン跳ねて俺の脱出を急かした。



 いや、一時はどうなることかと思ったが、リリィの尽力もあり、両者共々無事に帰ってこれましたよっと。



 やっぱし外の空気は美味いな。あらゆるダンジョンに潜ってきたが、やっぱし外の空気に優るもんはないとつくづく思う。



 湖畔を先導するリリィに再び白兎の仮面を被せ、俺達はビンタの元へと戻る。暗い中草を啄む彼に駆け寄るとリリィは彼に対してもご機嫌だった。



 「ビーンタ! ただいま! 良い子にしてた?」



 そう言って首を撫でるリリィを俺は再びギプスをしている左腕に無理をさせて、ビンタの上へ乗せ、俺も跨る。



 無事に帰宅するまでがダンジョン攻略だ。しっかり夜道も油断しないようにしなければならない。まあ、安寧スキルのお陰で今まで野盗に襲われたこともないが、何が起こるか分からないからな。



 しかし、鼻歌を依然止めないリリィがいるとどうしても緊張感に欠けるな。まあ、別にいいんだけど……うん……なんだかしっくりこないと言うか何と言うか……難しいとこだな。



 「ねぇ人間」



 ビンタが帰路を辿り始めて10分程した時であった。鼻歌を突然止めてリリィが俺へ声を掛けた。少しばかり眠気がやって来ていた俺はブルリと震えた。



 「んぁ……どうした?」

 「今日はさ……」

 「うん」

 「あのさ……ありがとね」



 ダンジョンにやって来た時と同じように、俺の前に座るリリィの後頭部を俺は見つめた。



 「なにがだよ」

 「私のワガママ聞いてくれて」

 「ワガママ?」

 「本当にダンジョンに連れて来てくれると思わなかった」



 いや、それはお前が扉の氷を溶かして欲しくば、取引だーーっと言うからだろが。好きで連れて来たんじゃないやい。



 「お前、自分が何したか分かって言ってんの?」

 「分かってるよ。家のドアを凍らして人間を脅したの」

 「あっけらかんとしてんな! とんでもない事しでかしといて!」

 「えへへ……でもさ、人間もあんまり強く言えないよね」

 「ん?」

 「だって家から出たら一人でこっそりビンタに乗って出かけちゃえば、私は行き先も分からないからついていけなかったのに。それをしなかったよね?」

 「…………」

 「どうしてしなかったの?」



 それは……



 「…………」

 「もしかして私を残したら、勝手に後をついていこうとして、迷子になるかも……とか考えたりした?」

 「…………」

 「あはは……それは私の『じいしきかじょー』かな……」



 いや、それは正しい。俺は事実リリィの言うように、コイツを残してこっそりビンタに乗って出ようとした。けれど自分を心配するコイツがもしもそんな大胆な行動をしたらと思うと、その考えがどんどん膨らんで、そんな事は出来なくなっていた。



 「いや……」

 「ごめんなさい。今のは忘れて」

 「いや、そう思った」

 「……え?」

 「こっそりお前を残して出かけて、追いかけるような真似をして、もしも迷子になるような事になったらと考えたらそんな事は出来なかった」

 「…………」

 「まあ、結果的に良かったよ。お前のお陰で仕事が捗った。俺じゃあんなモンスターは倒せなかっただろうし、運良く倒せても右腕まで折られるような事になってただろうしな。あんがとなリリィ」



 俺はそう礼を言うが、リリィは間を開けるように黙り込んだ。夜の森の中の草や葉が風で擦れ合う音が聞こえた。



 「あ、あはは……そ、そう? なら…なら良いんだけど……えへへ……」



 なんかドギマギしてんな。



 俺の言葉にご機嫌がまた戻ってきたか、リリィの鼻歌はいつまでも続いていた。





 村に着く頃には俺の前に座るリリィはグッスリと眠っていた。ビンタの背中から降ろすのに苦労しながらも、俺はリリィを抱えて帰宅した。



 初めての攻略屋の仕事に色々な感情が高ぶり、結果としてこの爆睡ってとこだろうな。幼い体に鞭を打って俺に同行したのだろう。



 彼女の服を勝手に脱がす気にもなれず、俺はリリィをそのままの格好でベッドへと降ろしブランケットをかけてやる。最近は夏の到来で夜でも少し寝苦しくなって来た。これくらいが丁度いいだろうさ。



 「お疲れ様リリィ」



 俺は彼女に届く事はないだろう言葉を吐いて、寝室を後にした。今日はベッドの全面を譲ってあげようと思う。モンスターの単独討伐の些細な報酬だ。……それにしては安過ぎるかもしれないけど。



 俺は朝になったら何かリリィの好きな事をしてやろうと思いながら、リビングのソファーで横になるのだった。なんだろう。今日はぐっすり眠れそうだ。いつも眠れていないわけではないが、今日は特段そんな感じがした。



 

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