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遠慮も謙遜も自制もくそくらえ

 

 『攻略屋』これが俺のアルバイト上での職業兼名前。



 やる事は単純、世界中にあるダンジョンを冒険者の代行人として攻略する事、それだけだ。



 ダンジョンとは、誰もがその発生源も、発生理由も分からない自然災害の一種の様な物。



 ある日アーティファクトが現れ、その地域一帯を大規模な地殻変動と共に迷宮ダンジョン化してしまうのだ。冒険者はそのダンジョンを攻略し、迷宮化を解除する者達のことを言う。まあ、彼らの仕事はそれだけではないが、大本命はダンジョン攻略にあるといっても過言じゃない。一説によれば魔王が人為的に生み出していたとの話であったが、あの勇者一行が魔王を討伐した後でも変わりなくダンジョンは生み出されている事が最近判明した為に、この説は薄れた。



 実際の所、世界秩序を乱していた魔王の死亡後も、ダンジョンの危険性が軽くならなかった事で、冒険者達が食い扶持を削がれることがなくて良かったのが、なんとも皮肉だ。



 話は俺個人のものに戻るが、このダンジョン攻略……実は相当な金儲けになるのだ。そのダンジョン攻略の完了報酬自体がギルドから相当な値段が払われるし、しかもダンジョン内のアーティファクト以外の宝は全て攻略した本人達の物にしていいことになっている。これに飛びつかない冒険者は馬鹿ですよ。



 だからダンジョン攻略は人気があるし、冒険者という職自体に夢があり、成り上がるチャンスでもあるというわけ。



 俺も記憶が戻らなかった内は絶対将来は冒険者になりたいと考えていた。



 しかし、記憶が戻った時に、もっと楽で平穏的で大人しく金が儲けれる方法を見つけてしまったのだ。



 そう……それこそが攻略屋だ。



 だが、俺自身のクソステータスの体でどうやってダンジョンを攻略すると言うのだろうと、疑問に思われるかもしれない。



 当然、この体では真面目に攻略に挑んだところで五分と持たないのが現実。ダンジョン内のモンスターか罠にミンチにされて御陀仏だ。



 しかしそんな俺にも武器がある。



 そう、安寧スキルだ。



 このスキル、記憶が戻った当初はただ平和に過ごす為だけのスキルと思っていたが、其の実、とんでもなく汎用性が高いことが分かった。



 まず、このスキルのおかげか俺は普段の生活からモンスターと対峙しても戦闘にならない。互いに目線が合っても、向こうのモンスターが自分から逃げていくか、普通にスルーするかのどちらかでしかないのだ。一般人ならこうはいかない。どんな低レベルモンスターでも目の色を変えて冒険者に襲いかかってくるのが普通である。



 そして次に、罠が発動しても俺に降りかかる事はないということ。



 迷宮内には罠が沢山仕掛けられている。侵入者を射殺す毒矢や、落とし穴、転がる大岩などその種類も多様だ。しかしそのどれもが俺の前では空振りに終わる。打ち出される毒矢は俺の目の前で飛距離が足りなくなり力無く落ちるし、落とし穴は発動はすれど何故かタイミングがズレ、俺の後方で落とし穴として機能するし、大岩に至っては転がってくるがどんどん磨り減っていき、俺の所にたどり着く頃には小石レベルまでの大きさになってしまうのだ。



 初めてダンジョンに侵入した頃にそれを知った俺は、これを金儲けに利用しようとすぐに思った。どんな冒険者でも苦労して攻略するダンジョンを、こんなにも簡単にクリア出来てしまうのだ、利用しない理由がないだろう。



 え?貰いもんのスキルでイキがってんじゃねーって? ……ふざけろ、貰ったスキルをどう使おうが俺の勝手だろ。神様からはバレないように気を付けろと警告されただけであって、金儲けに使ってはいけないと言われたわけじゃないもんね。俺は微塵も悪くない。



 それにダンジョンも一生あるとは限らないんだから、稼げる時に稼いでおかなければ、それこそ馬鹿だろうに。正論なんか飛ばしてたって自尊心が満たされるだけで腹は膨れないっつーの。それに力がない奴ほど意味もない正論を語りたがるもんさ。アホくせぇ。



 まあ、少し話はずれたが、結局の所俺の攻略屋は大盛況でして、皆口にはあまり出さないけど、裏稼業の人間としては最近名前を上げ始めているのは自分でも感じている。しかも裏稼業で名を挙げると普通であれば、やっかみを買われ、危ない奴らから粛清と言う名の暴力を受けたりするが、そこは安寧スキルの持ち主、今まで何事もなく生きてこれてます。まじ最高のスキルですわ。ありがと神様。



 あ、そうそう、ダンジョン攻略の詳しい内容の説明をまだしてなかったな。これもまた単純な話だけどね。



 まずダンジョン内に入ったら俺は持ち前のスキルを屈指して最奥までの道筋を見つける。そこからはルートを戻りながら最短の道を導き出して、道中の罠などを処理していく。落とし穴のスイッチがあれば重りなどを載せて事前に開きっぱなしにしておくし、毒の矢が飛ぶ場所であれば射出場所を岩や土で埋めてしまう。転がる岩があれば全て打ち放して、球切れの状態にしておくのだ。



 あとはモンスターが沢山いるが、これも一匹ずつ引っ張っていき、ルートから邪魔な物は別の道に移動させる。俺が腕を引っ張ろうがツノを引っ張ろうが優しくやれば、モンスター達は抵抗もせず素直について来てくれるのだ。力の加え方を少し間違えば、その時は流石に怒ってくるが、その時は全力で逃げればいい。疲れるけどね。



 そしてそのモンスター達が最短ルートに立ち入らないように俺はあるものを置き、その道への介入を防ぐ。それは俺の髪の毛である。何故だか分からないが俺の事前に切っておいた髪の毛を数本、床などに貼り付けておくとモンスター達はその道を引き返し、それ以上は進もうとはしないのだ。恐らくこれも安寧スキルの力の片鱗なのだろう。



 やる事は他にもあるけれど、大体の内容はその二つ。罠解除とモンスター移動だ。そして安全な道を作り、その地図を依頼主に渡す。これだけ。簡単だろ?規模にもよるけど、大体がこの仕事量で50万は貰ってる。ちょろいもんだぜ。



 先に挙げた二つの仕事内容以外にも、たまには異なるダンジョン内での仕事は、増えたりするが……他の事を喋り出したらキリがないため、今日はこの辺にしておく。



 丁度家にもついた頃だしな。



 時刻は6時くらいか? ああそれにしても眠い……今日の午前中は爆睡で浪費しそうだ。



 「どこに行っていた!! 人間!!腹が減ったぞー!朝食だ!!つくれつくれ! バラされたくなかったら早くつくれ!」



 しかし、自宅のドアを開けると飛んでくる恫喝。



 ……あー……忘れてた、このクソガキの存在……しかも子供だから起きんのもはえーの。



 誰の為に俺が仕事して来たかも知らねーくせに……まあ、いいや俺も腹は減ったからご飯は作るか。ちくしょーめ。


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