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仮面献上

 

 厩舎から出してやったビンタの上に跨るリリィに俺は再三の溜め息を零す。



 運良く残っていた俺のガキの頃の服に袖を通した彼女は初めて見る長袖長ズボンという出で立ちだ。そして上には暗い色のローブを纏っている。プライベートで羽織っていた白いローブを羽織るのは止めた。あれは隠密に行動するには目立ち過ぎる。



 「ほら人間、手を」



 そう言ってビンタの上から見下ろし手を伸ばすリリィに、手を借りる代わりに俺はあるものを取り出して渡した。



 「? なにこれ」



 渡したのは古びた一つの仮面であった。全体を白い色でデザインされた、雪兎を模した仮面である。まあ年季は入っている上、少し小汚いがな。



 「攻略屋として一緒に動くなら素性は隠せ」



 俺の言葉にリリィは嬉しそうにする。



 「やったー!! なにこれ兎? ちょっと古いけど可愛い!」

 「昔俺が使ってたやつだ。俺が教えられる側だった頃のな。……俺が使っていたけど…嫌か?」

 「ううん! 気に入った」



 嘘ではないようで、リリィは何の抵抗もなく仮面を付けた。仮面のくり抜かれた目の部分からリリィのコバルトブルーの瞳が輝く。



 「どう?」

 「フッ……俺の方が似合っていたな」

 「ひっど! 少しくらい褒めてよね!」



 プリプリと怒るリリィだが、俺が手を伸ばすとしっかりとその手を取ってくれた。彼女の手を借りる事で、一人の時よりも楽に馬に跨る事が出来き、彼女の存在の有難さを早速痛感してしまった。



 リリィを前に座らせ、ビンタは歩み出す。今回の仕事先はグランマの街を少し過ぎた所にある湖畔に、アーティファクトの影響で出現した地下洞窟である。



 少し距離がある為、ビンタの歩速も上げていく。



 普段ならば一人きりでこの道のりをビンタに話しかけたりしながら(独り言ではない)時間を潰すのだが、今日はリリィがいる。これは少し幸運だな。



 「なあリリィ」

 「なーに?」



 返答があるというのは新鮮だなぁ。



 「お前あんな氷の魔法いつから使えるようになったんだ?」



 俺が提示した話題は、先程俺を阻んだ氷の魔法についてであった。元々魔法に疎い俺ではあるが、扉の周りを氷漬けにしてしまう程の魔法が簡単なものではないのは何となく想像が出来たし、それにリリィにそんな芸当が出来るとは知らなかった俺は聞かずにはいられなかった。



 「う〜ん……いつかは分かんない。気付いたら出来たもん」

 「なんじゃそら」



 天才児の発言みたいだな。



 「前も言ったけど、私は元々お母さんから魔法の基礎は教わっていたから、今はそれを紐解いている状態なの。だからきっとあの氷の魔法も正しいやり方の魔法じゃないと思う……」

 「正しいやり方?」

 「うん……里のみんなは魔法を使う時、魔法の名前を呼ぶ『一言』で全ての過程を終わらせて魔法を起こしていたけど……私はそれが出来ないから」

 「んー?どういう事?」



 里ってのは彼女の出身地のエルフの里の事を言うようが、魔法の話はさっぱり分からない俺にはリリィの説明が伝わらない。



 「だからね、さっき私は氷の魔法で扉を包み込んだけど、それに私は三つの属性の魔法を同時に使って『氷漬け』という現象を起こしたの。水の属性、風の属性、闇の属性の三つ。……まず氷を作るには水が必要だから水の魔法で水を作って、凍らせる為には急激に冷やす必要があるから、風の魔法と闇の魔法で氷点下の環境を部分的に用意して、そうして扉を氷で包み込んだんだけど……里の人達なら『氷壁フロストウォール』とか『吹雪スノウストーム』とかの……その工程を全て詰め込んだ言霊の『一言』で終わらせちゃう事が出来るから……私のは凄い回りくどいやり方なんだと思う」

 「……確実に投げて入る距離にあるカゴに、ワザワザ歩いてゴミを捨てるようなもんか」

 「……人間、喩えが下手。けど、多分そのイメージでいいと思う。私はその『投げ方』が分からない段階」



 ほーん……苦労してんだ。でも、過程がどうであれ結果俺はお前に『負けて』しまったのだから、俺から言わせれば無茶苦茶凄いことには変わりないんだけどな。



 「けど魔法が使えねぇ俺からすれば羨ましい限りだ」

 「フフン……天才には天才の悩みがあるのよ!」



 さっき馬鹿にしたお返しだとでも言うようにリリィが得意げに言うので、後ろから片耳を少しだけ引っ張ってやった。






 湖畔に着くと、地下洞窟の入り口はどこだと辺りを見渡すが、然程の苦労なくその入り口を俺は見つけた。と言うよりも……



 「すご〜〜い!! 人間、凄いデッカイよ!」



 リリィが興奮した声をあげる。しかし無理はなかった。



 俺達の前に現れたのは巨大なドーム状の岩山、それが幾つも重なったり並んだりしていたのだ。それはまるで、床に噴射口を接近させてシャボン玉を勢い良く吹き出すと作れる泡の山に良く似ていた。



 圧巻の光景だが、その中で一つだけポッカリと口を開いている山を見つける。幅は5メートルほど、高さも同じようなもんだが、どうやらここから入るようだ。



 「……よし、リリィ」



 俺の言葉に辺りをキョロキョロと見渡すリリィが反応する。



 「こっからは危険な場所に潜り込んで行くことになる。何があっても俺の言う事を聞け、いいな?」

 「うん、分かった。でも人間も私にしてほしい事があればすぐに言ってね。私、頼りになるんだから遠慮しちゃヤダよ」

 「ああ、分かったよ」



 ここまで連れて来ておいて、遠慮するのも今更だろう。こうなれば仲間の一人として頼り、守り、信じるしかあるまい。



 若干の不安を抱えながらも、俺達は地下洞窟ダンジョンへと侵入した。

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