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奇妙な空間

 

 俺の後方2メートルの距離を開け、何でも屋の二人は俺の後をついてきていた。


 何故こんな事になったかと言うと、単純にこのまま依頼を達成したと依頼主グリーンストンの元に別々に帰還したところで、ボケた人間には自分が二重依頼をかけてしまったと説明してもその場しのぎにしかならず、最悪すっとぼけられ、何でも屋は失敗したなどと言う噂を流される可能性があるとし、俺と共にフォークスも同行することにしたのだ。


 前金を取らない以上は『文句一つは言う権利』があるだろうと言うのがフォークスの主張である。俺は達成報告をするだけなのだが、彼にとって俺は二重依頼の証人の役割も果たすことになる。……めんどくせ。



 「なんだって俺がこんなこと……きまじいな……」

 「何か言ったか攻略屋?」

 「いえ、なにも」



 親しくもないヤツに背後に立たれついて来られるのはあまり好きじゃない。常に後方を警戒してしまうのが俺の癖である。



 「いやそれにしても……まさかアンタとこうして一緒に歩く事になるとはな。妙な感覚だ」

 「それは私もです。貴方のようなエリートと同行出来るとは……冥利に尽きる思いです」

 「ふん……だろうな」



 ただの世辞だったんだけどな。真面目にとらえられちゃったぜ。



 「おい、そういえばアンタ、あの樹海迷宮を攻略したのだろう?」

 「はい、まあ」

 「どのくらいの時間で終わらせたんだ? 迷宮というのだからさぞ大変だったろうさ。5時間か? 6時間か?」



 げ、探り入れて来やがった。恐らく俺の力量を確かめたいという魂胆なのだ。ふん……そんな誘いにのるかっての。



 「今回のダンジョンは比較的簡単でしたよ4時間半程で戻ってこれたかと」

 「ほう、4時間半程か、中々早いではないか。流石攻略屋を名乗るだけはある。並みの冒険者には出せぬタイムだ」



 フォークスは感心しつつも、それといって驚いた様子もない声色を漏らす。どうだ!俺の天才的な知能にによる良い塩梅の嘘は! 本当は1時間程度だけど、そんな事を言えばコイツは俺に対し虚言癖のレッテルを貼り付けて、最悪力比べをするぞなんて言ってくるに違いない。あまりコイツとは関わりはないが、こういうタイプは自分の想像を上回るような事が起きると、直ぐに自分の力と比べてみようなどと提案してくるというのが俺の予測だ。



 このぐらいの少しは出来るじゃないか……けど俺には全然及ばないけどね! ぐらいの実力を公言しておけば、目をつけられる事はない。



 俺自身この樹海迷宮を1時間程度で攻略出来た事は、普通に考えて頭の可笑しい事だと分かっている。それもこれも『安寧』スキルがあるおかげなのだ。俺の平穏な日々の為にも、このスキルのことは絶対に知られたくはない。だからこれは必要な嘘なのだ。



 「ハハハ……やるではないか攻略屋。流石と言ったところか? こんな馬鹿げたタイムを出されちゃ僕もうかうかしていられないということだ」

 「エヘヘ……いえいえ、自分なんてまだまだです。これからも精進していかなくては」



 俺の背後で上機嫌に笑うフォークス。今までの彼からは感じなかった雰囲気を纏っている。思いのほかウケけていて意外だった。



 「─────いや、本当にまだまだだな嘘のセンスは」



 胃を握られた様な衝撃が俺を襲う。



 「4時間半だって? あん? 違うよな? 僕が他の冒険者から聞いたのはもっと馬鹿げていたぞ。3時間はかかるダンジョンを30分くらいで攻略したとか」



 背中に向けられる男の視線はまるで投擲槍の如く。俺の体を射すくめる。



 「そう考えると一般的な冒険者が必死こいて6時間以上はかけて攻略するダンジョンは……アンタであれば1時間ぐらいで攻略可能か?」



 信じられないが図星を突かれた。こんな馬鹿げたことがあるなんて! いや……動揺するな。動揺すればそれを認めたことになる。あくまで冷静に。それでいて余裕で。何事もないと平静で。



 「何のことを言っているのです?」

 「─────無駄でしてよ。攻略屋、アンタ今動揺致しましたわね」



 俺の平静を断頭する様に今まで黙っていたパック族のソフィーが口を開いた。



 「動揺していないように振舞っていますが、アンタの歩き方には些細な変化が見られましたわ。先程までの歩幅より3センチほど狭まっていましてよ」



 背中に刺さる二つ目の槍。このガキ、そんなところを見ていたのかよ!



 「ソフィーの観察力、洞察力を舐めない方がいい。俺の推測に少しでも感じる所があったのであればアンタは必ず微々たる変化を見せるだろう。見せたが最後、彼女からは逃れられんさ」



 なんだよ、魔法が得意な上、そういった分野にも長けているなんて……ずりぃ。しかしまだそう言われたからといって、俺がそうと認めなければ良いだけの話ですむ。まだ彼らは憶測推測でしか語っていないのだから。



 「言い掛かりはよしてくれ。私にはそんな力はありません。しかし……貴方達が私をその様に評価してくれるのであれば素直に嬉しいです。ありがとうございます」



 ここは穏便にいこう。焦る事はない。別に答えを間違えたところで殺されるわけでもない。



 「ほう……あくまでシラをきるか」

 「シラをきるもクソもありません。私にはいきすぎた評価だと言っているんです」

 「そうだな。僕も自分で馬鹿げた妄想であると思っている。しかしどこかで核心ついているという考えが捨て切れない僕がいる」



 妄想家め。



 「─────だからこうすれば早いと考えた」



 言葉の槍は突如、現実のつるぎへとなった。



 「何の真似だ」



 俺は思わず歩みを止めた。何故って……俺の首のすぐ側にフォークスの両手剣が構えられていたのだから。



 彼が横へ剣振るうだけで俺の首は地に落ちるであろう。突然の死の予感に俺の背にいくつもの汗が噴き出した。



 「分かるだろ? 武器を取れ攻略屋。アンタの力を確かめてやる」



 ……正気かよコイツ。



 「フォークス!! 流石にそれはッ!!」



 ただならぬ雰囲気を感じたか、ソフィーも声をあげる。やはり彼女の目から見てもこれはやり過ぎと映ったのだろう。



 「安心しろソフィー。コイツに対して何故か殺意は湧かない。やっても重傷で終わらせるし、回復魔法で治せば良いだけの話だ」

 「…………」



 彼の声に一蹴されたか、ソフィーは黙った。いやいや『安寧』スキルの効果は受けているみたいだが、やっても重傷とは……しかも回復って……痛いから全然良くないんだけど!



 「さあ攻略屋、このまま重傷を負わされるか、武器を取り、力の限り抵抗するか。選ぶが良い」



 仮面から覗くフォークスの目が鋭く光った。

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