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わたくし最強ですのよ

お金の表記を伝わりやすい様に円にします。キャラクター達の口にしている通貨単位は、本来は現地のものだと思っていただけると幸いです。


 草木も眠る丑三つ時。俺は静かに自宅を出た。



 あの後、リリィ用の日用品まで買わされた俺だったのだが、家に着くなり夕飯を作らされ、風呂の支度をさせられ、挙句ベッドを占領されたりと、結局俺の安住の地は自宅の側にある物置小屋のみとなってしまった。



 リリカスは寝床ぐらいは一緒で我慢してやるなんて言って、ベッドを一人分のスペースを空けてくれたが、俺はあんな奴と寝床を一緒にしたら何をされるか分かったもんじゃないので、ヤツが眠りにつくまでもう何十回と読み直した本をまた意味もなく読み直し、ヤツが眠りにつくまで起きていた。



 そしてこの時間になるまで物置小屋で仮眠をしていたというわけだ。



 これから何をするかって? ……まあちょっとしたアルバイトだ。普段は村での依頼の仕事を収入源としているが、今日の様に金を使い過ぎた時には『アルバイト』をするようにしてる。



 黒いローブを纏って黒い山犬の仮面を付けた俺は、一見すればただの不審者でしかないだろう。しかしこれも仕事の為だ。我慢する。



 村の共用の馬小屋に向かうと、そこにいた一頭の屈強な黒馬を連れ出す。こいつは夜目のきく特別な馬で、このバイトを始めた頃に奮発して買ったやつだ。今では俺の相棒であり、話し相手でもある。良い買い物だったと思うよ。……馬が話し相手になるわけないって? ばーか、馬にだって心がある。語りかければそいつはちゃんと応えてくれんだよ。



 足腰が並ではないこの馬は足場の悪い山道も難なく進む事が出来る。そんな道を約一時間程走らせて山を越えると、俺の目的地が見えてきた。



 ある洞窟の前に三人の男達がいた。『話』の通りだった。



 「来たか」



 銀甲冑の金髪の男がビンタから降りる俺に話しかけてきた。あ、ビンタってのはこの馬の名前ね。センスあるだろ?



 「この男……が、話のやつか? 案外細いんだな、大丈夫なのか?」



 金髪の男の後ろから出る赤髪のローブを着た男が不満気に言う。



 「まあ、良いんじゃないでしょうか。人を見かけで判断するものではないですから」



 そうすると今度は赤髪に続いて白い修道服の黒髪の男が出てくる。こいつは賢者ってやつだな。



 金髪は騎士、赤髪は魔法使い、黒髪が賢者の計三人のパーティが今回の俺の依頼主みたいだ。厳密に言えばこの金髪騎士がその代表だった。



 「話した内容は先日の通りだ『攻略屋』。俺達のパーティが一人負傷した事で期限の迫っている依頼がこなせなくなりそうでな。この先のダンジョンを攻略してほしいって事だ。三人で一度は行ったんだが、罠も敵も多く、三人ではとても……」

 「ああ、分かっている。任せてくれ」



 『攻略屋』という名は俺の『アルバイト』中の名だ。ダンジョン攻略の代行、それが俺のアルバイト。



 金髪騎士に依頼相談をされたのは一週間前だった。このパーティは王都で最近名を上げ始めている冒険者達で、失敗率0パーセントと、その整った顔立ちを売りにしている方々である。本当は4人パーティなのだが、元々いた格闘家のメンバーが怪我により療養に入ってしまったので、受けていた大量のダンジョン攻略に手が回らなくなってきたとの相談であった。どうしても三人であると動きに限界はあり、怪我や死の確率も高くなってくる為、メンバーを纏めるリーダーである金髪騎士の男が内密に俺に相談をしてきたと言うわけだ。



 「……ッハ! 攻略屋だってよ……大層な職業だなダンナ! なんでも、どんなダンジョンだって冒険者に代わって攻略してくれるって話だが……?」



 赤髪魔法使いが言ってくる。



 「ああ、そうだ」

 「そんな職業今まで一度だって聞いたことがねぇぞ!! 探してみたが他の業者はひとつだってないじゃねーか」

 「ベンチャーってやつだ」

 「はあ? ……何を言ってるか分かんねーが、まぁ、ここは俺達のリーダーの決めた事だから文句は言わねー……だがな、失敗したり、この依頼のことを誰かに他言してみろ。どこにいても必ず見つけ出して殺してやるからな」



 凄む赤髪。正直凄く怖いです。なんで冒険者ってこんな凄い覇気を出せるのかしら。羨ましいよ。



 「安心しろ。他言も失敗もない。仕事だからな」



 そう俺が言い切ると赤髪は押し黙った。期待するがいいぞ。



 彼らの内密にしてほしいと言う気持ちは分かる。彼らのように自分達の力量以上に高度なダンジョンに挑み、箔を付けていこうとするパーティは少なくない。と言うよりも、俺の依頼主達はそんなヤツらばかりだ。名誉や名を轟かせる事はしたいが、危ない橋を渡る事は避けたい、そんな冒険者が、この仕事のメインの客層。まだ三人で挑んでみただけこのパーティはマシな方だ。おっと、お客様にマシとか失礼だな。反省。



 「じゃあ約束の通り。前金の25万円をここで貰おうか」



 俺の要求に金髪騎士が袋を渡してくる。右手に掛かる重さを感じながら、紐口を開けて中を確認すると確かに丁度ありそうだった。



 「では行ってくる」

 「ああ、頼んだ」



 そう別れを告げ、俺は彼らの後ろにあった大口を開けた洞窟へと侵入した。



 ────30分後



 「戻ったよ」

 「「「はえええぇぇ!!!」」」



 三人が口を揃えてそう叫んだ。びっくりするだろ!!



 戻ってきた俺に彼らはズカズカと近付いてくる。その足取りは気のせいか好戦的だった。



 「おい、ふざけんな!」



 赤髪魔法使いが凄んでくる。



 「まだ30分ほどしか経ってねーじゃねーか!! どんな一流の冒険者でもダンジョンを攻略するにゃ、3時間は要するんだぞ!! てめぇはただの30分だ!! 出来てるわけがねぇーだろ!!」

 「そ、そうですよ……あまり私達を馬鹿にしないでいただきたい! いくら攻略屋といえど……」



 黒髪賢者もそう便乗する。金髪騎士も気まずそうに黙っているが、その顔から不信感が漂っていた。多分こいつ、いいヤツなんだろうな。



 「ほれ」



 まあ、そう疑われても仕方がないので、あるものを俺は投げて金髪騎士に渡した。



 「これは?」

 「このダンジョンの攻略地図だ。私が歩いた所を地図にした。今回の依頼は『最奥までの攻略』だろ? お前達の目的はダンジョン最奥のダンジョンアーティファクトの入手だと聞いていたからな。そこまでの罠の解除や、モンスター避けを全てやっておいた。アーティファクトまでは歩いても往復20分で行けると思うぞ。逆にそのマップで×印がついている道には行くな。まだ罠もモンスターも分かっていないから。ま、宝箱とかあるだろうし、危険を承知でっていうなら好きにすればいい」



 身を偽る為に『私』と一人称を変えている俺の説明と共に、三人は地図をまじまじと見つめる。

その顔からは本当かよ?と疑心がジワジワ溢れていた。



 「完了金の払いは戻ってきてからでもいいか?」



 金髪騎士がそう聞いてきた。



 「勿論だとも」



 成果を見てもらわない内に金を貰おうなど考えてもいないさ。



 俺の言葉に三人はゾロゾロとダンジョンに入っていった。



 そうして20分弱。



 金髪騎士、赤髪魔法使い、黒髪賢者が戻ってきた。その手に青白く光る水晶を手に入れて。俺も最奥で見た、それが恐らくアーティファクトだろう。アーティファクトはダンジョンによって形や色は違うが、ここのはそんな変哲も無いつまらない物だった。喋る花とかだったら面白かったのにな。



 三人の顔には力が抜けたような、納得いかねーといった表情が貼り付けられていた。



 「どーだった?」



 俺の言葉に金髪騎士は最初反応できなかったようで、少しの間を置いて口を開いた。



 「あ、ああ……ちゃんと手に入れたよ」

 「あそ、じゃあ約束の半金貰っても?」



 俺の要求に彼は素直にまたも同じ袋に入った金を渡してきた。中身を確認すると確かに入っている。



 「オッケー。じゃあ私はこの辺で。もう朝にもなるしな」



 俺がそう言いビンタの上に跨ると金髪騎士は、跳ねるように俺に言葉を掛けてきた。



 「な、なぁ攻略屋!」

 「なんだ」

 「お前……い、いやアンタはなんでこんな事をしているんだ!!」



 意味のわからない質問だ。



 「し、仕事だから……?」



 なんか逆に俺が聞いちゃったよ。



 「そ、そうか……」



 納得しちゃったよ金髪騎士。まあいいけど。



 「それだけか?」

 「…………」



 なにも言わないしそれだけみたいだな。



 「じゃあな」

 「おい!攻略屋!」



 まだあるんかい。はっきり言わんかい。スッと。



 「俺達の仲間にならないか? いや、なってくれ!!お前のダンジョン攻略の力があれば俺達のパーティ『千の風』はもっと強くなる!!力を貸してくれないか!?」



 パーティの誘いか。嬉しい限りだな。まあ、よくある話だから意外性もなかったけどな。こういう職業をしているとそういう誘いもないわけじゃないからな。いや、それにしたって懐かしい響きの名前だなオイ。千の風って……そういう曲が『日本』にはあったなぁ……滅茶苦茶流行ったヤツな。千の風に云々かんぬん。



 「────悪いが断らせてもらう」

 「何故だ」

 「パーティは組まない主義だ。それに私はこの仕事を好きでしているわけではない。だがお前達は好きで冒険者の道を選んだのだろう? 私が冒険者になったところで、それもまた好きではない仕事だ。その意思の違いはいつしかズレを生む。迷惑はかけたくないからな。断らせてもらうよ」



 俺はそう告げてビンタを歩ませた。



 冒険者なんて痛い辛い職業は大っ嫌いさ。本や話で聞くぐらいが丁度いいのさ。








 攻略屋が去った後、金髪騎士達はまるでひと時の夢であったかのようにフワフワとした感覚にいた。目の前にいた存在、その圧倒的な力の前に脱帽でしかなかったからだ。



 「攻略屋か……名に恥じぬ働きっぷりでしたね」



 黒髪賢者はそう信じられないという顔で言った。この場にいる誰もがそんな顔をしていた。



 「本当に嫌な気分だぜ、俺はよ」



 赤髪魔法使いは未だに認めたくないと何度も語る。



 「いつか……必ず仲間に入れてみせるさ。俺は」



 そんな2人をフォローする金髪騎士の目は、まるで少年の様に輝いていた。幼少の頃に聞いた伝説の勇者の話。異国のドラゴンの話。空の大陸の話。それらを聞いた時の様に、彼はまた一つ、憧れを抱いたのだ。しかもそれは御伽噺や伝説ではない。ちゃんと存在し、手の届く距離にいた。手に入れたいと思うのも必然だった。



 いつか……いつか……



 金髪騎士は情熱を1人燃やしていた。





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