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パックってなんぞ?

 

 「あーそれはきっとパックだよ、人間」



 生ハムのサラダを自分の皿に取り分けながらリリィがそう答えた。



 昼時を過ぎたレストランにはあまり客の姿はなく、リリィの答えも聞き漏らす事なく俺の耳へと届く。


 俺は先ほどのギルドでの出来事をリリィに話していたのだが、フォークスを名乗る男は人間だと分かっていたが、物珍しいピンク色の髪の女の子の話をすると、リリィがそう答えてくれたのだ。



 「パ、パックゥ?」

 「そう。パック。あなた達、人族が妖精族と呼ぶ私達の仲間」



 サラダを口に運びながらリリィが俺をジトーッと見つめる。



 「……本当は仲間ではないんだけどね……一緒くたにされるのはムカつくかも。まあ私達エルフもゴブリンと人間は元々同じ先祖だったって言い伝えがあるし……人のことは言えないね」



 人間はゴブリンとエルフは元は同じ種族だったと言っているが……きっとそれは何処の種族でも同じ状況なのだろうな。自分達は特別だ、他の有象無象とは異なるものだと主張しているのだ。きっとゴブリン界ではエルフと人間は元は同じ種族だったという説が蔓延しているだろうな。それもまた文化の相違だと思うとちょっと面白い。



 「……で、そのパックだってなんでリリィは分かるんだよ」

 「えぇ……だってピンクの髪に、マフラーでしょ? 髪を染めているならまた話は違ってくるけど、ピンクの髪とマフラーはパック族の特徴だよ。彼らは生まれてすぐ四尺程のマフラーが親から与えられるの。理由は詳しく知らないけど、なんでもパック族の神様の習わしがそうなんだって〜、そのマフラーと共に生涯を終える者は、死後神の元へと行くことが出来るとか」

 「だから、ソフィーと呼ばれていた子もパック族か」

 「あくまで私の憶測でしかないけどね」



 そう言ってリリィはまた自分の皿にサラダを盛り付けた。ちょっと俺にも残しておいてよ。



 「────パックは元々魔法の得意な種族でね、エルフやゴブリン、インプなんかよりも色んな魔法が使えるの。その中でも惑わしたり、混乱させたりするのは大得意。仲間として一緒に冒険するのは賢いかも」



 たしかに魔法が得意っていうのは剣や弓が使えるっていうのとは話が違うレベルでアドバンテージになる。属性がある魔法ならば、あらゆるモンスターに優勢がとれるし、固い殻を持つモンスターにだって攻撃が通るだろうしな。土属性や、木属性の魔法が使えれば断絶された橋や、梯子のない高所へだって問題なく道が作れる。しかも元A級の仲間とくれば、その魔法のバリエーションだって半端じゃないだろう。モンスターの話に戻れば、リリィの里を襲っていた魔法を無効化するワイバーンの様なモンスターもいるだろうが、そこは相方のフォークスが相手をすれば良いだけの話だ。



 俺が言うのも変だが隙のないコンビということだ。



 「そのA級って云うのがどれほど凄いのか分かんないけど……人間、強力なライバル登場だね」



 リリィの意地悪そうな笑みが向けられる。楽しんでやがるなコイツ。



 「そうだな……もう少し値段設定も見直したり、やり方も変えた方が良いかもな」

 「大変そうね……手伝ってあげましょーか?」



 大人ぶった演技のリリィ。得意げだな……多分最近のリリィは恐ろしく魔法の実力が高まっているからこその発言と思われる。自信があるのだろうな。



 俺の学校へ行かせる行かせないの話が出てからと云うもの、リリィの家での自習の時間が増えた。家事をする以外は大体を魔法の勉強の時間にあてたり、本を読んで文字の学習をしていたり、軽い算数の勉強もしている。そのせいか、最近の彼女は此処に初めて来た頃より能弁になったし、大人っぽくなった。というよりも周りの11歳の子供達らしくなったと言った方が正しいかも。以前が幼な過ぎたのだ。



 「それは遠慮してお……ッく!」



 俺は手を伸ばし、フォークで向かい側に座るリリィの皿から生ハムを奪い去った。



 「ああ!酷い〜〜! 人間の馬鹿! 私のハム〜〜」



 ま、こういうところはまだガキっぽいけどな。



 「お前には危険な真似させられないからなぁ。俺の手伝いがしたけりゃ立派な大人になってからだな」

 「ふん! もう手伝わないもん! 私のハムを奪った罪は重いのよ!」

 「悪かった。代わりにこれやるから」



 俺はそう言ってスプーンで彼女の皿におすそ分けする。オリーブを。



 「……嫌いじゃないけどハムの代わりにはならないかも」



 ジトーと見つめるコバルトブルーの瞳に俺は口笛でも吹きながら、わざとらしく飄々としてみせた。生意気な事を言った罰さ。お前をダンジョンに連れて行くことはないと思え。お前をダンジョンに連れて行ってもしものことがあれば、俺は正真正銘のクズだ。『もしも』なんて仮定の話でも俺は恐ろしくてできやしない。



 何かあればこうして向かい合って飯を食うことさえ出来なくなっちまうんだからよ。

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