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 「セシリアさんこれあげる」



 話は終わり、グリムの返答は後日再び伝えるとして俺達は今日は解散する事となった。


 俺は彼女にそう言って彼女にローブの中から丸いガラス玉を渡した。中には透明な液体が入っている。



 「これは?」

 「俺が作った発光玉。所謂マジックアイテムってやつ。一度強く振って、そのあと3、4回軽く振ると周りを照らすほどに明るい光が灯るんだ。夜道は危ないからそれを使って帰りなよ」

 「…………」



 俺としてはセシリアさんに良い格好をしておきたいのだが……なにぶん彼女は俺に対して何とも思っちゃいない。恐らくそこらに転がる折れた木々と同じような扱いであるだろう。しかも彼女の正体は巨大なミミズの集合体ときた、正直正体は明かして欲しくなかったが……目の前の美人に俺は弱かった。



 「貰っといてやれよ。コイツ、お前とは仲良くしておきたいみたいだぞ」



 呆れたようなグリムの声。恥ずかしいが、ナイスだ。



 セシリアさんの表情は先程までのグリムに叱責されていた時とはまるで違い、その真顔を俺にジッと向けるのみだった。



 「……正直必要はないですが、ありがたく頂いておきます」

 「頂いておいてください。二時間くらいはもつし、光らなくなっても太陽の光に5時間も当てれば、また同じように光るようになるから、使い回しできますぜ」

 「そうですか、素敵なアイテムですね」



 す、素敵なアイテムですね……ですと!?


 あー……なんだろ……久しく女の子から褒められたことも無かったし、まともな女とも関わってなかったし(アリスはまともではない)、なんだかその言葉を貰えただけで俺の心がジワーッと満たされる感じがあったわ。俺、幸せ。


 正体はミミズだけど……今は目の前の幻想に甘えさせてもらおう。



 「クローエル、そういやお前どこに住んでんだよ。定住できる場所でもあるのか?」

 「いえ……それこそわたくしはどこでもゆっくり休めるので、毎日毎日好きな場所を探して休んでおります。もっぱら木の上や、土の中などですね」



 おっと、土の中とかいうミミズ要素は聞かなかった事にしよう。







 俺の心の中はセシリアさんと別れた後でも、愛馬ビンタの上で揺られながらも満たされた気持ちで一杯であった。あの赤い瞳。夜闇の中でも濡れた鴉の様に艶やかに輝く黒髪。白い肌に整った顔……美しかった。



 「いい加減にしろジョン、お前が惚気ているのをいつまでも見せられているのは、こちらとしては気味が悪い。シャンとしろ」

 「あー……はいはい、でも良いよなぁお前は。あんな美人な部下がいたなんて、羨ましいを通り越してムカつくわ。俺があんな子に戻って来てくれなんて頼まれちゃ、速攻で冥界でもなんでも行っちゃうわ」

 「ほう……じゃあもし俺が冥界に戻るとしたらお前もついてくるかい? 友よ」

 「それは無理」

 「ハッ……ビビりめ。まあ確かに冥界は既に人智の罷り通る域ではないからな。お前が行った所で発狂して廃人になって終わりだ」



 まあ、確かにそんなお粗末な結末が予想されるだろうな。でも行かない理由はまだあるのさ。



 「ほう、それはどんな話だ?」

 「リリィを残してそんな所には行けねぇってことよ」



 美人について行くのはたまらなく幸せだろうさ。でも俺には今はやらなきゃいけないことがあるからな……悲しいが、女の子と楽しめるのはナンパくらいしかないな……



 「……フンッ……そうかい。残念だ」



 む、グリムの言葉に少し小馬鹿にした感じがある……こいつめ、何か俺に対して失礼な事を思いやがったな。



 「さて、どうかな」



 くっそ……強えからって調子に乗りやがって……



 俺に対するからかいを含みながら、その後もグリムと話しながら帰路を辿る。星空の夜の下で俺達は久しぶりにふざけあって帰った。







 次の日の朝は何故かぐったりと体が重かった。固いパンを千切ってスープに浸す作業でさえ億劫であった。



 「……人間、なんか変」



 リリィがそう気遣ってくれる声が届き、頷くことでそれを肯定した。


 俺自身それは感じているのだ。夜中攻略屋として仕事に出るのはライフワークとしてもう体自体が慣れているはずなのだが、久しぶりにこんなダルさを感じていた。



 「……可笑しいな…美人にもあったし……悪くない夜だったはずなのに……」



 体と脳に言い聞かせ、餌を与える形でなんとか疲労感からの脱却を目指すが、体も脳も「んなこと知るか」とでも言うように、依然そのままであった。



 「え……なにそれ」



 代わりに反応したのはリリィだった。いや、なんでお前なんだよ。



 「悪くない夜って?……美人って?……」

 「……ん? 別に大した意味はねーよ」

 「人間、攻略屋としてお仕事して来たんじゃないの?」

 「してきましたよ」

 「ほんと?……だって悪くない夜だったって言ったもん。なんか遊んできたみたいな……」



 遊んでねーわ。そりゃナンパして遊びに行きたかったけども、断られちゃそりゃ無理な願いというものじゃないか。



 「……普通に仕事してきただけよ」

 「……なんか信用出来ない」

 「えぇ? ……リリィさん、なんで信用云々のお話になるんですかい。もしそれで俺が美人と遊びに行っていたとしても、それは仕事上の付き合いってもんなんじゃないっすかねぇ……だいいち、そうなったとしても信用やら、怒るのは恋人やら夫婦関係にある人にしかしてほしくねーですわ、俺は」



 どこの世界に小間使いに女との出会いを意見される人間がいるってんだよ。



 俺自身中々説得力のある台詞だったと思うのだが、リリィは膨れっ面をして軽く睨んできた。



 え、怒ってるのか? 怒ってるのかリリィ!? 何故だ! 俺は……自分の弁明をしただけだろう! 何故怒る!



 「……リ、リリィ?」

 「知らない……」

 「え?……お、怒ってるのか?」

 「……別に」



 そうは言ってもプイっと顔を逸らす彼女に怒ってない要素などない! 何故怒るぅ!



 「あぁ〜あ、嫌われちまったなジョン」



 グリム! 珍しいな朝っぱらからお前が俺に語りかけてくるなんて! てか、昨日の夜からお前、なんだか饒舌だな。新鮮な感じがあるぞ。



 それよりグリム、リリィが怒ってる……そんなに俺が美人と遊ぼうとしたのが嫌だったのか。



 「ほう……朴念仁のお前が珍しくちゃんと相手の心の動きを察せているじゃないか」



 俺並みに女の子を好いている男が朴念仁と呼ばれるのは納得がいかないが、グリム……どうやらお前から見てもリリィはそうと見て間違いはないんだな?



 「まあ、そうだろうな」



 やっぱりなぁ……そんなに俺が遊びに行くのが羨ましかったか。まあ、こいつは夜ってこともあるし、危ないから攻略屋の仕事には連れて行けないが、多分夜に外に出るってことが相当羨ましかったんだな……ガキだしな。



 「ジョン……本気で言っているのか」



 当然だ。は? 間違ってる? まだなにかしら見落としているってか? どうなんだよグリム、俺の考察に何か足りないなら教えてくれ!



 「……いや、いいわ。お前のその馬鹿さ加減が面白いから黙っとく」



 うっそだろ! モヤッとする! でもその反応は何か足りないってことよな! くそ……こうなったらリリィにでも聞いてスッキリするか。



 「あの〜……リリィさん、な〜にを怒ってらっしゃるんでしょう。俺が少しでも楽しい思いをしたことがそんなにしゃくですか?」



 俺はそっぽを向いて食事をする目の前の女の子に出来るだけ優しく問いかける。



 「…………」



 が、無視!! まさかの無視!! ハンッ……リリィ、無視をするようになったなんてお前も年相応の女らしくなってきやがったな!! 過去に嫌われた女共を思い出すぜ!! ありがとよ!



 結局その後もご機嫌取りを重ねたわけでしたが、一日中リリィさん……もとい御機嫌斜めのリリィお嬢様はわたくしめに一度も笑いかけてはくれませんでしたとさ。トホホ……



 お久方ぶりに頭が痛いですわ。



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