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一回断ると再度承諾はしずらい。

 

 その時の俺にはグリムが何と答えるのかすぐに分かった。どれだけの能弁を並べようと彼の考えは変わらないと。



 「貴方様がいなくなってからというもの……冥界の秩序も徐々に崩れ始めております。グリムロード様の座した頃には息を潜めていた無法者共が、各々力を誇示し始めたのです。最早安寧は崩れ、冥界の各所では戦が行われている始末。このままでは冥界は再びに混沌の地へと成り果てのも時間の問題です」



 だから俺はセシリアさんの話を聞きながらも、彼の返答にはそうなんだろうなという感情しか懐かなかった。



 「だからどうした?」



 夜の闇にも大分慣れてきていた俺にはセシリアさんの表情がよく見て取れた。彼女がまさに予想だにしない返答だと思っているのが分かった。



 「は……?」

 「だから俺にどうしろと?」

 「で、ですから……グリムロード様にはもう一度冥界へと帰還していただきたく……わたくしは……」

 「……まさか、その頼みの為にお前は『攻略屋』へと依頼をかけたのか」

 「左様です」


 当然だと言うようにセシリアさんは言い切った。

グリムが再び落胆したのが俺には分かった。



 「私は2年ほど前に貴方様を探す為にこの地上へと昇り、情報を集めながら暮らして来ました。海底深くに封印されているという噂もあり、捜査した事もありました。その他にも多々ある噂や伝説を頼りに貴方様を探しましたが、一向に確信的な情報は得られずじまいでした。 ……しかしつい先々月ほど前に、この森の近くにありますエルフの里の付近で青白い光の柱が天へと伸びたという現象の記事を目にし、そしてつい先日、その光の柱が立ち上がったと思わしき場所にて王国の調査隊が調査した結果が新聞記事に載ったのを見た時、確信したのです。光の柱が貴方様の放った破壊光線ブレスであることを」



 俺達と同じような新聞を彼女も読んでいたということか。



 「調査結果に『付近からエーテル反応が検出されなかった為に魔法の類いの現象ではない』と書かれていたことから、貴方様のブレスである可能性がグンと上がったのです。この世界に来て初めての確信でした。……必ず貴方様はこの森の付近にいる。そう思い、私はこの森のエルフ達を尋問しグリムロード様と攻略屋の関係性を聞き出したのです」



 げ、あのエルフ達ゲロったのかよ。なんだよ……お口やわやわじゃないか!



 「最初渋っていましたが、私の正体を知るとすぐに情報を提供してくれて助かりましたよ。そもそもエルフ達が私達、冥界の者に反抗すること自体あってはならぬ事ですが……その者達の無礼は見逃す事にしておきました。エルフは刺身にして食べると美味しいですが……まあ、その時は満腹だったので」



 ……刺身にして食うだなんて……物騒ってレベルじゃねーぞ。



 「すみません。話が逸れました。 ……そしてわたくしは街で攻略屋への連絡手段を聞き出し、今に至るというわけです」



 なるほどなー彼女はグリムに再び冥界に戻って来てもらって、荒れ始めている冥界をまた統治してほしいと言うことか。わざわざ地上まで上がって来て2年間もグリムを探すなんて……彼女、冥界想いなのね。



 「お前はそう思うかジョン」



 え、うん……まあ、そう思ったのだけど。



 「お前なら既に俺の気持ちは分かっていると思うが……俺の心中は真逆だよ」



 みたいだね……



 「─────心底……見損なったぞクローエル」



 冷たい言葉がセシリアさんを刺した。彼女の表情が怯み、陰る。



 「冥界を支配する過程の中で、常にお前は俺の腕として共に行動していた。俺のそばに居たことで地獄の弱者やクズ共が、どのように考え行動するか、そしてどうすれば我々に従うようになるか……それを見てきただろう? 俺よりも賢く覚えも早い優秀なお前だからこそ俺は後釜を任せたんだ。 ……なのに地上界に上がってきて俺を探してましただと? クハハッ……嗤わせるのも大概にしてくれ」

 「わ、わたくしもそれは……善処致しました。貴方様のように民を導き、守り、争いを生まぬようにと……全力を尽くしてきました」

 「ハッ……お前の尽力の話などどうでもいい。俺は冥界の事は全てお前に託し地上へと来たのだ。冥界で起ころう事が些事だろうが、大事おおごとだろうが、興味はないのだ。それ故にお前の言う冥界に帰ってくれという要望も飲む気はない」



 瞼を軽く落とすセシリアさん。まあ、自分が慕っている人からそう言い切られてしまっては、そんな反応にもなるだろうな。



 まあ、しかし美人がそんな顔をするもんじゃあない。俺は美しい人や良い人間には優しくするってのがモットーでね。少し話に割り込ませてもらうぜ。



 「グリムよぉ、まあそんな出会い頭から何もしないって言い切るも可哀想だろ。少しは話を聞いてあげようぜ? 2年近くもお前の事を探してたんだろ? すげぇじゃん、普通そこまで出来ないぞ?」

 「何を言ってる馬鹿野郎。見た目に騙されんなジョン。お前の魂胆は分かっている、優しくする姿をクローエルに見せて警戒心を解きたいんだろう? そんなアピールは滑稽だからやめとけ」



 クッ……バレているじゃないの。心を読まれているってのも考えものね……


 まあ、それならそれで割り切って話すけどな。



 「ふん……そうさ、俺は気に入った娘にはトコトン優しくするのさ! 悪いか! って……話は置いておいて……俺からもお前に頼むよ、セシリアさんの話をもう少しだけ聞いてあげてよ」

 「……あのなぁ〜ジョン……俺にはこの女が今までどんな苦悩をしてきたのかが大体想像つくから突き放してんだよ。 ……あの世界をまとめるってのは確かにすげぇ大変な事だ。当然苦労も絶えない。俺も300年近くかかった。だから俺はこの地上へと戻ってくる時にこの女に言ったのさ、『俺は地上へ戻る。この冥界平和や秩序なんてもんはいつまで続くか分からんが、いずれ崩れるだろう』ってな。でも俺の言葉を聞いてコイツは崩れさせないと宣言したんだ。だから後釜を任せたと俺は言ったがな、それは少し語弊がある……詳しく言えばそれはコイツが勝手に引き継いだだけだ。俺はもうすでに冥界の秩序や平和なんてもんはどうだって良いのさ」

 「ええ〜……愛着とか、思い出とかあるでしょ? 少しは無くなったらヤダなーとか……そんな気持ちあるでしょ?」

 「ないね。俺は暇つぶしと自分の力試しに支配してみっかなぁ〜……ってノリでやったまでよ。平和や秩序を基盤にしたのは人間の信念の真似事だ。何も目標がないのはつまらないからな」



 まじかよ……そんな気持ちで冥界は平和になっちゃったんですか……なんかそれに付き合わされたセシリアさん可哀想じゃん。



 「こいつは勝手についてきただけだ。まだ一匹のミミズだった頃からな」

 「一匹?」

 「……まだまだ幼かった頃ってことだ。こいつみたいな種族は成長するにつれ増えていき、一個の集合体になっていくのさ」



 だから妖怪『大ミミズ団子』か……うう…またちょっと寒気がした。



 しかし……そうかセシリアさんはそんな小さな頃からグリムに仕えていたのか。しかもグリムの冥界統治の目的を聞いて。


 きっと生まれて間もない彼女からしてみれば、平和と秩序という夢のような話は憧れであり、それを達成したグリムはまさに神様の様な存在なのだろうなぁ……でもある日突然崇めていた方が、飽きてそれを止めるわと言い出したと……うーんそれは可哀想だよ。 俺も同じ立場でも『俺がじゃあ継ぎますよ!』と言ってしまいそうだ。



 「そんな幼い頃からグリムが夢ぇ見させてたんなら、それは無責任ってもんじゃない?」

 「な、なにぃ!? 俺が悪いって言うのか!」

 「悪いとは言ってないじゃん。無責任って言ってんの。お前の夢を聞いて幼かったセシリアさんは完全に同調……いや心酔しちまったわけだろ? そりゃ小さい子からしても夢物語の様な世界だったわけだ。聞けば地獄ってもんは、とんだ無法地帯みたいだからな、地獄に生まれ落ちたセシリアさんは幼い頃からその無法地帯の有様を見て育っていたわけで、そんなある日お前の様な世界を変える革命家に会ってみろよ……そして目の前で有言実行していく様を見せられてみろよ……そりゃあその人の築き上げたもんを、自分が守ってみたくもなるでしょ?」

 「……ならなくないか? そんなもんそいつの勝手にやったことだろ。俺には関係ない」

 「それはグリムが強い立場だからさ。弱者ってのは強いヤツに憧れ、その人に守られたりしたら、その人の為に何かしたくなるものなのよ」

 「……………」

 「それにグリムは勝手にやったと言ったけど、それこそ無責任ってもんでしょ。勝手に支配して、勝手に平和にして、勝手に法を作って……昔を知っている弱者からすれば、そんな甘い蜜を吸ってしまったら過去の凄惨な世界にはもう戻れないってなるのも当然だろ」

 「うーん……」

 「昔の冥界を知っているヤツならまだいいさ、平和になってから生まれた子供達はキツイぞー?」



 俺はショボくれたセシリアさんに目を向けた。……なんか年上のお姉さんっぽい人が意気消沈してる姿ってのも……なんか良いな。



 「なあ、セシリアさん……グリムが平和をもたらしてから、何年ぐらいはその平和は続いたの?」

 「あ……はい、200年くらいは……」

 「冥界に住んでいる者達って子供とか育むのかしら?」

 「ええ……まあ、地上界と同じようにそういった繁栄方法をとります。生き物全て」

 「そか、じゃあ当然その平和な世で生まれ落ちた子供達もいるわけだよね?」

 「ええ、勿論です! 皆平和な世で生き生きと成長しておりました。戦争を知らない子供達は皆好き好きに夢を語り合い、それは素晴らしい光景でありました」

 「おー……それは素晴らしいですね!」



 俺は再び自分の左腕に着いているグリムを見る。



 「ほれ見ろ、お前の所為で戦争を知らない子供が戦争に駆り出されるやも知れないんだぞ! 心が痛まないか!」

 「……いや、別に」



 あまりに冷徹なグリムの意見にズッコケそうになった。



 「なんで!? ここは心が揺り動かされるところではなくて!?」

 「だってそんなもの……俺が結局冥界を支配しなければ遅かれ早かれ、知るようになっていた事だろ。それに俺が一時的にでも冥界を統治しなければ、その子供らは産まれもしなかったかもしれない。産まれてこれただけでも俺に感謝してほしいね」



 な、なんて残忍な考えなんだ……しかし言っていることも一理ある! な、何も言い返せなくなってしまった!



 う、うぐぅ……俺じゃセシリアさんの力にはなれないってことか……く、悔しい…悲しい…





 「……まあ、しかし………」



 グリムが言葉を紡ぐ。

 なんだよ……お前が心無しってのは十分理解したよ……



 「……なんだ…その……ジョン…お前は……どう思うんだ?」

 「はあ……?」

 「その……冥界は…救った方が良いと思うか……?」



 な、なんですの、その歯切れの悪い言葉は……? 冥界を救った方がいいか?……そりゃ救ってあげた方がいいんじゃないでしょうかね。困る人はいないわけだし……セシリアさんは喜ぶ、子供達は笑える、何も悪い事はないですよ。



 「……救った方がカッコいいっすよ、グリムロードさん」

 「…………」



 しばらくの間があった。夜闇からフクロウの鳴き声が5回ほど響いた時だった。グリムが長〜い溜め息をついたのだ。






 「………ダチのお前が言うなら……少し考えてもいいかな……」





 ええええええ!!? ま、まじか!グリム! まさかのツンデレ発症ですか!!? お前そういうキャラだったっけぇ!?


 まさかの返答に俺は耳を疑った。



 「ま、まじかいなグリム!!」

 「か、考えるだけだ……お前の意見を少しくらい聞いてこそ友達と言えるだろうからな……」



 俺は歓喜の興奮交じりにセシリアさんを見た。彼女の沈んだ顔がみるみる明るくなっていった。



 「やったなセシリアさん! グリム考えてくれるってよ!」

 「はい! ありがとうございます……グリムロード様……」

 「まだ考えるだけだ!まだ帰るなんて一言も言っていないぞ!つけあがるなクローエル!」

 「はい!申し訳ありません! ありがたき幸せでございます!」

 「……ッチ!」



 でけぇ舌打ちをするグリムだが、悪くない答えに俺もセシリアさんも喜びを隠せなかった。本当にお前はいいやつだよグリム。


 俺の為なんて言っているけど、本当は俺の言葉を聞いて冥界の子供達が可哀想になったんじゃないかと俺は思ってる。お前はホントは優しい奴だって俺は知っているからな。



 「……それ以上キモい事を考えるなジョン」



 はいよ。ありがとなグリムロード。






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