仕事を始めよう
飯を食った後、帰宅するのを渋るかと思ったがアリスは案外すんなりと城下の街へと帰っていった。
彼女は言葉通り魔法によって一瞬にして空へ上空すると、街の方まですげぇ速さで飛んでいったのだ。なにあれ舞空◯じゃん……ずるいなぁ、かっこいいな……
アリスが帰った後、俺とリリィは久しぶりにグランマの街まで来た。陽は高くもう昼頃だったが、今日は用は1つしかないためすぐに村に戻れるはずだ。
「ねぇ人間……こんな場所まで来て何かあるの?」
「ちょっとな……」
黒いローブを纏う俺と、白いローブを纏うリリィ。俺は先導しながら答える。彼女の言葉も最もだった。俺達が今歩いているのはグランマの外れの路地である。人気が無く昼間でも陽が入りにくく陰湿な雰囲気を醸し出す。路地の石畳の上には食べかすやネズミの死骸やらが転がっていた。
「怖いか?」
「ううん、平気」
「そっか」
ローブのフードを深めに被ったリリィが笑顔を作ったのが分かった。彼女にはなんてことないようだ。
この路地にだって民家はある。しかしここらに住む人間は殆どが表舞台には出れないような素性を隠した者ばかりだ。昼間、人の目を避けて暮らし、夜になるとコソコソと自宅から出てくる。そんな話を聞いたことがあった。
並ぶ民家の大半のポストが口を開き、手紙やら封筒がギチギチに詰め込まれていた。集金や催促状の類ばかりなのだろう。入り切らない物は下に落ちて、石畳にまで散乱している。ほとんどの家がそんな状況だ。
俺はそんな並ぶポストの1つの前で止まる。他の家々よりも一段と手紙が溢れている一件だった。下に落ちた小さな山の様な手紙類は、雨風によって乾燥や腐敗を繰り返し、カスみたいになっている。俺はその山から顔を覗かせる一通の黒い封筒を目にすると、それを抜き取った。
山に対して黒い封筒は比較的綺麗だった。
「それが目当ての物?」
「そうだ。さぁ行こう」
二人ともフードを深く被り素顔や素性がバレないようにしているとはいっても、いつまでもこうしているのは怪しまれる。人の姿が見えなくともこの通りには誰かしらの視線は向けられているのさ。
路地を抜け、安心出来る場所まで移動すると俺達はカフェへと足を延ばす。ええ? 異世界でカフェがあるかよと思われるかもしれないが、あるのだ。茶を飲む店がな。
俺とリリィは紅茶を頼み、焼き菓子をつまむ。
さて、落ち着いたところで目的の物を確認するか。俺はあの黒い封筒を取り出した。縁起の悪い色だが、決して不幸の手紙の類いじゃない。
俺の攻略屋として、依頼主との仲介人の役割を担ってくれている、人探しのプロフェッショナル集団『黒ミミズク』からの『俺』に向けての手紙だ。
彼らは普段こんなサービスを仕事にしているわけではないが、俺は攻略屋を開業する際に独自で交渉し、仲介人の役割をしてもらっているのだ。勿論、本来の仕事でないのでその分高い料金は払っているが、彼らにしてみれば俺は良い上客だろう。
「さて、内容はどういったものかしらねぇ……」
封を切って俺は中の手紙を引き出す。白い紙には、依頼主の名と落ち会う場所しか記されてはいなかった。拍子抜けだ。
「セシリア・クローエル・クワァイエル……? なんか聞いたことねぇ珍しい苗字だな……」
「セシリア……女の人?」
「みたいだな……冒険者か……? 女のリーダーのパーティなのかな」
「…………」
リリィが何か言いたげな顔でクッキーを咥えてこちらを見ていた。……なんだよ。やましい意味じゃないぞ。
「えー……場所は……あれ?」
「どうしたの?」
「なんだすぐ近くだよ。 モリアンテの森のシンドロム滝だ。あまりその名で呼ばないからリリィは知らないかもしれないけど、俺達の村を囲む森は本来モリアンテって名前で呼ばれてんのさ。で、その滝ってのは厳密に言うなら西南西へずーっと行けば辿り着く、少し大きな滝のこと。28日の22時半……2日後か」
「ノーワークなんとかこんとかなんでしょ? 断るの?」
リリィのそんな問いに俺は唸る。確かに俺はノーワークウィーク宣言をしていた。休む気は満々であった。
でも村近辺の顔合わせだし……断るのはその内容を聞いてからでも良さそうな気がした。
「いや、話を聞くだけ聞いてくるかな。どうせ近いし」
「そっか、よかったね近くて」
「だけど……なんでわざわざあんな場所なんだろうなぁ……依頼を出したってことなら依頼者は街の中、もしくは付近にいるはずだろうに……わざわざ三時間以上かけて離れた場所に呼ぶなんて……」
「そこに目当てのダンジョンがあるのかな?」
「……それなら大半のヤツが手紙にその節を書く」
「…………」
まあ、リリィにそんな事を聞いてもしょうがないか。
「なんにしても警戒しておこう」
装備は多めに持って行くとしよう。
また短くてすみません!




