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最近たるんでると言われたい。

 

 「最近の俺はアグレッシブすぎた」



 春の雨がもう3日も降っていた。日本の梅雨を連想してしまうほどに雨続きの日々。今日も倉庫の屋根を叩く音で、ノスタルジックな気持ちになりながら目が覚めた。



 「突然なんなの」



 起きるのが遅い俺に見かねて、朝から温かいクリームスープを作ってくれたリリィの目はスープとは対照的に寒々しい。



 ほんの二週間ほど前に勇者様の結婚式を終えて、それからこれといってイベントもなく過ごしてきた俺とリリィ。リリィは家事をこなしながら、最近は村の人間とも交流を始めていた。恥ずかしがり屋である彼女だったが、結婚式を機に村の主婦層に認知され、その子供らとも交流をする様になっていた。



 と、言うよりも結婚式の時にいつまでもアリスと同じテーブルに俺が居たくなくて、結婚式という村の人間が一度に会するチャンスを利用し、リリィを村の人間達のテーブルに連れ回したのだ。



 その結果彼女はその愛らしさで一躍有名少女に早変わり、買い物に行けばサービスはしてもらえるわ、無駄に可愛がられるわで、大変チヤホヤとされているわけです。……俺が買い物に行ったってサービスなんてされた記憶ねーぞ。



 でも彼女は、それでも他人と最低限関わろうとはしないタチのようで、俺が「同い年の子と遊びにでも行けばいいだろ」と言っても、「家にいる方が良い」と一蹴されることが大半だった。たしかに俺はリリィが普段家事以外で何をしているかと聞かれれば、本を読んでいるところぐらいしか見たことが無い。俺が街に行くかと言えば喜んでついてくるところを考えると、インドアってわけでもない気がするんだがなぁ……



 で、俺はと言いますと、何故か分からないがここ一週間で攻略屋の仕事が連発して入った為に、体の奥底が悲鳴をあげているのです。仕事の内容自体はそこまでハードではないが、仕事の時間が深夜帯ということと、1日に二現場、多ければ三現場なんて事も相まってすごく疲労が溜まっとるのです。しかも帰ってきても眠りにつけるのは倉庫の床に敷かれた薄い毛布か、寝る体勢の限られるソファーの上しかなく、二現場三現場分の疲労を完全に取るには実力不足なのです!彼らのポテンシャルではねぇ!



 ですから俺は今ここに宣言します! ジョン・ウィッチ、ノーワークウィーク宣言をね!



 「色々と要約すると仕事を頑張り過ぎたと言っているのです」

 「はぁ……?」

 「なので今週一週間はわたくしは仕事も家事も致しませんので! リリィさん家事、頑張ってね!」



 俺は口に入ったスープを飲みこみ、できる限りの笑顔でリリィにガッツポーズだ!



 リリィの冷たい顔は変わらなかった。



 「仕事はしないってのは別に良いけど……家事ぐらいはしてよ」



 まじですかリリィさん、貴女は鬼の子ですか?



 こいつだって俺の攻略屋としての仕事は、共に過ごす生活の中で大まかな説明もしてやったし、大体は知っているはずだ。そ、それなのに……



 「リ、リリィ……良いじゃないか……最近の俺ってば結構稼いだのよ? 一現場あたり平均40万位取ってるからさ、昨日までの一週間でなんと280万以上は稼いだんですよ? 色々と仲介料だの差し引いても230万は堅い! ……これぐらいの休息はあっても許されるでしょうに」

 「別に私は休むなとは言ってないもん。何かしら家事はやって欲しいなって言ってるだけ」

 「何かって何よ! 風呂掃除とかトイレ掃除なんて君が魔法でチャチャっと出来るし、洗濯なんてこの雨じゃ風の魔法が使えるやつじゃないと、まともに部屋干しで乾かないし、料理だって最近は俺よりもリリィの方が上手いじゃないか! 俺立場ないもん!」

 「そんなこと言っても、魔法だけじゃお風呂掃除でも細かい所までは難しかったりするもん」

 「俺の今の健康状態じゃ細かい所の掃除なんてしちゃ、途中でやりながら寝ちまうわボケ!」

 「えぇ……嘘でしょ?」



 いえ、本当です。見なさい俺の目の下のクマを。アイブラックみたいなクマを。



 「へーそれがクマって言うやつなんだ。初めて見た〜」

 「え、エルフってクマできないの?」

 「知らないけど、里の人はそんなの出来てるの見たことなーい」

 「ふぅん、きっとエルフって健康的なんだなぁ」

 「そうかもね……えへへへ」

 「あはは……って違ぇよ! 今は俺が休みたいって話だろ! 何がエルフクマ出来ないだよ! 知るか!」

 「人間が話逸らしたんじゃん」

 「もうどうでもいい! 兎に角俺は休むから! とりあえず何もしません今日は! 」

 「もう……そんなんなるなら仕事減らせばいいじゃん」

 「それはダメ! 豊かな人生を歩みたいならば働けるうちに金を稼ぎ、疲労もたまりやすくなって、思うように動かなくなってからジャンジャン使うのさ!」

 「思うように動かないなら、あんまり楽しめそうになさそうだけど」

 「…………」



 ……たしかにそれは……すこし思うけど…



 「と、とにかく今日は休みますから……」

 「あ〜……絶対今、私の言葉も一理あるなって思った〜」



 うるさい、黙れ。



 そんなこんなで、今日は仕事休みます。



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