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エルフ幼女の右レッグ、一本一万円

 

 俺の村は小さい。どのくらい小さいかというと、平屋みたいな家が100と二階建てっぽい戸建が50ほど、それに教会一つに村長の特別大きな家が一つ。多分小さな村だ。



 「あ〜こりゃ、お前さんこの脚切らなきゃ死ぬねぇ」



 そんな小さな村のたった一つの診療所に俺はリリィを連れてきていた。



 「う、嘘だろ」

 「いや、本当よ。もうばい菌入ってる。傷口も化膿してる。腐る寸前」

 「そ、そんな……」



 老いた医者の言葉に、自分の現実を目の当たりにしたリリィは愕然としていた。

静まり返る病室。悲しい。




 「っていうのは嘘〜〜」

 「は」



 はい、嘘です。老いたジジイの医者『ヤーブイーシャ』がそうバラした。



 「健康状態に問題なし。傷も浅い。薬塗って包帯巻いときゃ治る治る〜」

 「ちょ、ちょっと待てジジイ!! わ、私の脚を切る云々は何だったのだ! 何故あんな事を言った!」

 「だから、ただの嘘ゆーとるじゃろがい」

 「何故そんな嘘を!?」

 「だって……つまんないんだもん」

 「なに?」

 「昨今は魔法の発展とかで寿命以外じゃぜーんぜん死なねーし、骨折とかしても魔法でチョチョイのチョイじゃろ? ワシの長年勉強した医療技術を振舞うことも許されんのよ。この診療所にだって診察だけ受けに来て、治療は教会の魔法で治してもらう輩だっているんだからなぁ……もう暇で暇で……ジョークも言いたくなるだろがい」

 「子供にブラックなジョークかますな!」



 リリィが怒ってらっしゃる。まあ、子供は冗談通じないもんだから。まあ、宥めておくか。



 「おいリリガキ」

 「なんだクソ人間」

 「俺も何度もあのジョークに付き合わされてる。子供だけじゃないぞ」

 「そーゆー問題じゃない!」



 知ってるさ。からかっただけだ。



 「まあ、良かったじゃないか。切り落とすことにならなくて」

 「本当に思っとるのか、この大人どもは」

 「ヤーブイーシャさんは分からないけど、俺は良かったと思ってるぞ。 ……まあ、切り落としたら切り落としたで、闇市にでも持って行ってレア商品として売りに出しても良かったけどな」

 「死ね」



 マジ顔で言われた。キツイなぁ。





 結局何事もなく俺達は診療所を後にした。リリィの右足には薬が塗られ、包帯がグルグルと巻かれている。



 払うはずもない金を払い、俺の財布は冬の風が吹いていた。……リリィに払わせろ? このガキ財布も持ってねーの。日本じゃ子供でも財布は持ってるっつーのにな。



 とりあえず傷の手当ては終わったから村の出入り口まで送ってやる事にした。



 「じゃあなクソガキ。罠に引っかかっても、二度と俺の目の前に現れんなよ」

 「はー……クソ人間……どこまでもお前は優しくないな」

 「うっせぇ、俺は静かに暮らすって決めてんだ。無駄金使わせやがって……テメェに親がいれば今すぐに請求書を送ってやってるところだ」



 と、ぼやいたが、既にガキは姿をくらましていた。俺の悪態さえも聞かずに、礼も言わずに去りやがって

……



 「クソッタレェェェ!!!!」



 とりあえずモヤモヤしたから叫んどいた。






 今日は疲れた。隣人に依頼されていた物を納品し、金を受け取ると、小さい俺の安息の地へと舞い戻る。と言っても小さい平屋だけど。



 13の時に突然両親が蒸発し、一人残されたこの家。今はこの家ぐらいしか俺には残っちゃいない。あ、あと『安寧』スキルか。



 正直いつ死んでも悔いはない状態であるが、俺は生にしがみつく哀れな人間だった。惰性とも言える人生を終わらせる気はない。



 簡単な夕食と、湯を沸かしてバスタブに何度も入れて風呂を張り、遠方の街の方で購入した新発売の良い匂いの石鹸を使って楽しい入浴タイムを満喫した。



 テレビもスマホもネットも無いから、やることもないので潔くベッドに入る。前の世界ならここでスマホでYouTub◯でも開いて寝落ちするのが定番だったが、それも出来ないので早く寝ることにする。出来るだけ早く朝が来る事を願って。



 強い日差しと小鳥の鳴く声を目覚ましに、俺の目蓋は開かれた。



 朝か……



 今日も何か仕事を探して生きる日の始まりだ。



 ガツンッッ



 と思ったら俺の左肘が何かに当たる。あれ、このベッドこんなに壁が近かったか?



 俺がそう思いながらその方を見てみると、そこには見覚えのあるやつが俺のベッドで横になっていやがった。そのデコを赤くしながら。



 「ううううぅぅ……」



 俺の肘が当たった事で目が覚めたのか、その両目に涙を溜めながら呻いている。



 「い、いじゃぃ……」



 いや痛いじゃないよ。



 「な、なにしてんだぁぁぁ!!」



 思わず朝っぱらから叫んでしまった。

 何故こいつがいる!分からない!別れたはずだろうに!



 それに……



 ブカブカなその羽織っている服は俺の寝巻きじゃねぇーか!勝手に着てやがる! しかも仄かに香る花と甘い香り……俺は念の為に鼻をスンスンする。



 やっぱり買ったばかりの新商品の石鹸の香りがするぅぅ!! ちくしょう!こいつ勝手に風呂まで入って全身綺麗にしやがった!たけー石鹸なのに!



 「うにゅうにゅ……」



 眠そうに呻いているリリィ。うにゅうにゅじゃねーぞ、まじぶち殺すぞ、このクソガキ。



 俺はそのご自慢の耳を引っ張ってやった。



 「や〜〜ん」

 「やーんじゃねぇんだよクソガキ!! 何でテメェがここにいるっ!!」



 ちゃんと聞こえるように耳を引っ張って叫んでやった。俺の怒りは収まらなんだ。



 そうすると彼女は俺の手をバシッと叩いてきやがった。



 「いてっ」



 思わぬ反撃に耳を離してしまう俺。俺は暴力に弱いのだ。



 俺が手を労っている隙にリリィはベッドの端へと逃げ、縮こまった。そうして潤んだ目と怯えた表情をこちらに向けるのだ。



 ……なんか俺の知ってる人と違うんですけど。



 視線を送り合い、しばしの間があった。



 俺は思う。もしかしてこれは別人なのではと。



 「……お、おい…リリィ?」

 「や」


 いや、嫌じゃなくてさ。



 「お前リリィだよな」

 「……だったらなに………」



 まじか。本人かよ。昨日とまるで違うじゃないか。昨日までのお前だったらここで殴り返してくるだろうに。



 「人間……昨日はお医者さんまで連れて行ってくれたのに……今日は暴力的……騙された……」

 「なにぃ?」

 「ここが私の安息の地だと思ったのに」



 勝手に思うなや。



 「私、久しぶりに人と話した。楽しかった。だから後をつけて、お前が寝静まった後忍び込んだ。私ここに残る」

 「は」



 なにを言ってるの。



 「それに……お前からは安心の『匂い』がする」

 「あ、安心の匂い?」



 なにそれキモい。



 「お前……何か特別なスキルを持ってるな……」



 ギクリとした。たしかに俺には安寧スキルがあるが……これを神様から貰った時に言われたのだ。このスキルは周りにも平穏を干渉させる効果の大きいスキル故、他の者にバラしてはいけないと。もしバレると効果が薄まるらしいです。それが今看破そうになっとるのです、そりゃドキリとするでしょうよー



 「な、なにを言っとるのでしょうかね」

 「とぼけちゃダメ。私には分かる。お前……途轍もないスキルを持ってるでしょ」



 ヤダヤダ怖い!俺の平穏に干渉してくるこのガキ! めちゃくちゃうざい!



 「私も恩恵にあずからせろ。私も平和に暮らしたい」

 「やだ! 絶対! それにお前は帰る場所があるでしょう!帰りなさい!」

 「ここに住む。帰る場所は捨てた。ここが今日から私の城」

 「ふざけろ、他の人を呼んでやる!」

 「呼んでもいいけど、私が泣き出したらお兄さんの方が不味いと思う。私が襲われたと証言すればあなたは村から追い出されるでしょうね」



 ……た、たしかにそうかも…このガキィィ!!



 「……あの…本気で住むおつもりで?」

 「うん。小さい小屋だけど我慢出来る。石鹸だけは良いもの使ってるみたいだし」



 小さい小屋て……小さい小屋て!



 「お願いします……帰ってくださいな」



 もうヤケクソだった。帰ってほしい一心で縋り付くように俺は乞う。

しかしリリィは悪戯っぽく笑うだけだった。



 「……やだ」




 こうして俺の住処に変な住居人が増えてしまった。




 え、まじで住むのこの人。嫌なんだけど。食費も重むし。



 とんでもないな……ああ、朝から頭が痛いよ……









 あ、ちなみになんかガキの調子が妙に弱々しかったのは、朝っぱらだったからだって。



 脅されて出した朝食を食ったらすっかり暴虐武人に振る舞い出しました。クソが。



 「ほれほれ〜早く私の服などを買いに行くぞクソ人間〜」



 はークソ、ホントクソ、これなら弱々しい方がまだ良かった。




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