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S級冒険者

 

 「人間大丈夫?」



 会場に向かう中でもリリィはもう何度も聞いた言葉をまた俺にかけてきた。



 俺はまた答えてやる。



 「ああ、大丈夫だって」



 彼女の見る目が悲痛そうなのはこちらとしてもキツイものがある。俺自体は極めて元気なのだが、リリィには早く元気を取り戻してほしいところだった。



 式の始まる予定時刻の10分前には俺やリリィは席に着いた。大広場のテーブルの一つに割り当てられた席、カナリーの一家と同じテーブルであった。



 俺の隣に座っていたカナリーが俺に言った。



 「おい、国王様と皇帝様がここからでも見えるぞ」



 まじか。俺はカナリーの指の先に釣られてその方へと視線を飛ばす。確かに華やかに煌びやかに装飾された新郎新婦の席から、少し距離を置いた場所に五段程の広く浅い階段を設え、少々の高所を作り出し、特設された厳かで高尚な飾りがされた空間が存在した。そして横に並ぶ、力関係を示すかの様に大きさや装飾、造りの異なる椅子には既にその権力者たる2名の姿が既にあった。その背後には甲冑を纏った多くの騎士達が立っている。


 とは言っても俺達の席からは遠く、ハッキリとは見えないが確かにその身に纏う礼装や、シルエットぐらいは確認出来た。



 「すげー! 俺、国王様と皇帝様なんて初めて見た」

 「僕だってそうさ。というか大半の人間がそうだろうさ」



 確かに周りの人間達も国王様と皇帝様を一目見ようと席に座りながらも体を揺らしたり、少しずつ立ち上がってどうにか目に収めようと努めている。誰しもがこの世界の大陸を治める帝を拝見したいと思っているのだろう。



 「それに見ろよジョン。国王様達の前のテーブルだ。あいつらが今回皇帝様の特別な防人として雇われたS級冒険者の2人だ」



 S級冒険者!? そんなすげぇ奴が来てるのかよ!!



 俺は思わず席から中腰で立ち上がってしまう。確かに帝達のいる特設の空間から数段の階段を隔たった下、その空間へのたった一つの入り口である階段の、端と端に一人用のテーブルと椅子が設けられていた。そしてまるで門番の様にその席に各々座る二人の人間の姿がある。



 S級冒険者……この世において現在7名しか存在しない超弩級の冒険者である。普通の人間が生涯どう頑張ってもB級やA級止まりと言われる中、その7名はダンジョン内のみに拘らず、街や国を襲う災害クラスのモンスターを葬る事が可能と言われている猛者達である。勇者が持つ魔王殺しの護りを無しに言えば、彼らの実力は勇者以上らしい。



 そんなヤツらの内2人もこの場に招集されているとは……流石はみかど、自らの近衛騎士達だけではなく、S級冒険者にも守らせるとはこの式の成功に対する熱を感じるな。



 噂程度しか聞いたことがない俺も、是非とも見たいが、ここからではどうにもはっきりとはしない。しかしこの遠方から見ても1人はとてつもない巨体である。もう1人は……なんだか真っ黒でヒョロイな。



 「なんだかよく分かんねーな」

 「今回この式に呼ばれたのは『肥王ひおうプレス』と『黒鳥こくちょうジャジャンレッド』と言う奴ららしい」

 「詳しいじゃないか」

 「朝に隣の馬車に乗ってた人から聞いた」

 「そうなんだ……てか、ひおう? え、何、王様なの?」

 「違うよ、ただの二つ名ってやつだね。本名はプレス・ハードロケット。ここからも見えるあの巨体のやつだ。あの肥満体型から肥王なんて言われてるらしい。一説によればあの肥満体型は彼自らああなったらしくてね、愛用武器の斧『パールセル』を扱うための体躯なんだってさ」

 「ふーん……じゃああのヒョロイのが黒鳥ジャジャンレッドってやつか」

 「ああ、近くに行ってみれば分かるらしいけど、彼はカラスの仮面をしているそうで、その全身を包むコートにもカラスの羽を何百本と施しているからそう言われているらしい。本名はジャジャンレッド・カーバンクル。S級に相応しい優秀な呪術師らしい」



 なんだか説明を聞く限りヘンテコな2人だが、それは是非とも関わってみたいとも思ってしまうな。個人的な興味と攻略屋としての今後に活かせる情報としてのどちらの意味でも。



 「すげーな! あー……近くに行きたいなぁ……なあ、リリィもそう思うだろ?」

 「…………」



 俺は結構興奮して語り掛けたんだが、隣に座るリリィは俺を見つめてぼーっとしていた。



 「……おーい、リリィ……聞こえてます?」

 「……っえ? あ、あ、な、なに!? ごめん! 聞いてなかった」



 聞いてなかったんかい。



 「いや、大丈夫…大したことじゃないから」



 何度もしつこく言う事でもないしな。



 「ご、ごめんなさい……聞く、ちゃんと聞くから。もう一度言って」

 「いいって、超くだらない事だから……それより大丈夫か? ぼーっとしてたけど?」

 「う、うん……」

 「本当? 体調が悪いなら直ぐに言えよ? 」

 「平気、大丈夫……」

 「そうか? うん、じゃあ良いけど……」



 なーんかいつもと違う様に感じちまうな。何だろ……あのアリスから助けられた時から妙に余所余所しい……いや、そうじゃなくてこちらを注意深く見ている様な気がする。



 「……ねぇ人間……ホントに体大丈夫? さっきのアリスって女の人に何もされてないよね?」

 「大丈夫だって。首を絞められた事以外は何もされてないよ。心配性だなお前」



 やっぱまだ気にしてんのか。思わず笑っちゃったよ。



 「こんな俺の心配なんていらねーよ。それより、ほら式が始まるぞ」



 晴れないリリィの顔のままに、国王の式の始まりを告げる言葉が辺りに響いた。



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