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王国への準備

 

 俺はこんなに焦りながら朝食を作ったのは久しぶりだった。招待状は手に入れた。あとは準備をするだけ、しかしその準備が終わっていない!



 明朝の郵便配達員に参加不参加の返事は渡して、参加の手配は済んでいるが、式へ来ていく礼服は? 参加者として持ち寄る祝福の品は? 何もないのだ! 結婚式なんて今世では両親がいた幼き頃に一度出たっきりだったから、それ以降に礼服を新調した事もなかった。 それにリリィにも服を用意してやらなきゃならんのだ! カナリーの店には礼服はなかったはずだから、また街まで行かなきゃならないし、そこで贈り物も吟味しなくてはならない!



 あと一週間程度猶予はある、ではないのだ。あと一週間程度しかないのだ! 服は買ったとしても裾上げとかするかもしれないし、買った当日には受け取れない可能性もある。贈り物だって大きい物や壊れやすい物であれば、ビンタの上に乗せて持って帰ってくる事は不可能だ。 ……じゃあ小さいのにしろって? 俺はこだわる人間だから、そんな妥協はしたくない。



 「……おはよ、人間」



 最近になって早起きが習慣付いたリリィが寝室から出てきた。その目はまだトロンとしているが、朝食の匂いに誘われてダイニングテーブルの椅子へと腰掛けていた。



 俺はそんな彼女の前に、目玉焼きと焼きたてのベーコンの乗った皿を置いてやった。



 「ちゃっちゃと食っちまいな、今日は街に行くぞ」

 「んー? なんでー?」

 「色々買うものがあるんだよ。服とかお祝いの品とか」

 「へー、何かあるんだー」



 ナイフとフォークを使って朝食を食べるリリィ。最近彼女はナイフとフォークの正しい持ち方に挑戦している。グランマでの食事の時に教えた時はすんなり出来たが、まだ馴染まないようで彼女は熱心に身につけようとしていた。そんな彼女に俺はまだ昨晩貰った招待状の事は告げていない。朝のこのタイミングで驚かせてやりたかったからだ。



 「何かあるんだーじゃないよ、他人事じゃないぞ? お前も一緒に選んでもらうんだからな、お祝いの品は。それにお前に服も見繕わなきゃならん」

 「え! 服買ってくれるの!?」

 「そりゃな」

 「どうして? 私なんかしたっけ」

 「フッ……お前も俺も結婚式に行くからに決まってんだろ」



 俺はピッと顔の前で招待状を二枚構えてやった。



 リリィは何を言われているか分からないと、一瞬の静寂に固まった。



 「えええええ!!! うっそーー!! いいの!? 人間! 結婚式出てもいいのー!?」



 フッ……決まったな。 このリリィの驚きよう、計画通りだ。俺の評価も鰻登りってか。



 「そう言っているだろ」

 「わーい! やったー!! さいこーーう!! 人間大好きーー!!」



 照れるぜ。出来る男はサプライズの仕方も上手いのだ。出来る男=俺。 普段冴えない俺が今は滅茶苦茶輝いている実感がある。ありがとう神様、カナリー様。



 「だから街へ行って今日は必要なものを揃えるのだ!」

 「わかったのだ!」

 「ではとっとと食え」

 「はーい! えへへへ……」



 ニヘラニヘラと笑みを零すリリィ。こいつ今日ばかりは笑顔も一丁前に子供らしくて可愛いじゃねーか。あ、俺の心が楽しさで小躍りしているからそう見えるのか。 ……なんかいつもの俺って心が死んでるみたいな気がしてきたな。



 グランマについて早々に俺達は服屋に赴いた。



 俺の服はサイズが合うものがあり、在庫の新品の物を買う事が出来たのだが……



 「私はこのフリフリのやつがいい!!」



 リリィが気に入った品があったのだが、それがフリフリのフリルを沢山あしらった物であり、俺はそれはどうかと異を唱えた。



 「それは派手すぎる。あくまで俺達は参列者だぞ? もうちっと控え目なものにしてくれや」

 「ダメだ! これでなくては」

 「ええ〜……」



 どうにも俺には派手に見えて参列者としては不相応だと思えてしまうが……リリィは子供だし、少し派手でも気にされないだろうか……



 店員に相談してみても、買わせることしか頭にないヤツだった為に役に立たないし……



 まあ、これでいいか……



 「しゃーねぇ……買うか」

 「やったー」



 せっかくだしな……せっかくだし……





 買った服を紙袋に入れて持ち、俺達は次の目的である御祝品を探す事にしたのだが……



 置物ではデカいし、重いし、それに好きじゃない人にとっては邪魔にしかならない。食べ物ってのも3万円以上の物を用意しても……勇者様やアリスの好みが分からねーしな……食器とかもあるが、贈るとしても割れる可能性が怖い。持ち運びしたくない。本とかは……これこそ嫌いな人間もいるし……ああああ!! 何も思い浮かばない!!



 俺は結局、遅めの昼食を摂ろうとレストランに赴いた時も、スパゲティをフォークでクルクル巻き上げながら、ずーっと何を贈るか考えていた。



 「人間、ブツブツ独り言しながらご飯食べるなら私と会話しようよ〜」

 「そうは言うがねリリィさん、俺は今とてつもなく悩んでいるのです。パンクしそうな頭を抱えたくなるのを必死に我慢し、粗末な脳みそをフル回転させているのですよ」

 「贈り物なんてテキトーでいいと思うけどなぁ……大事なのは気持ちでしょ?」



 まあ、そうはそうなんだけど……



 「俺は、あって嬉しい使って楽しいをコンセプトにしたいと思っているのさ。気持ちだけ高尚でも……使う相手からすれば残念な品は贈りたくないの」

 「でも結婚する人達は色んな人から、そういった贈り物を貰うんでしょ? だったら1つぐらいハズレの品があっても変じゃないでしょ」



 真実を穿ったことを言うなリリィ。俺はその考えのままお前が大人になったら嫌だよ。確かにそれは度々起こり得る事柄だと言えるだろうが、人に贈り物をする際、俺はそういった事を考えたくはない。



 とにかくリリィがどう言おうと、俺は俺でこだわるのだ!




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