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呼ぶヤツがあるかよ!

 

 グランマを出る頃、太陽は高く昇り、空には雲ひとつ無かった。



 ビンタの背には買った荷物、俺とリリィが跨っていたが、彼の足取りは依然変わらずに俺達をしっかりと運んでいた。



 俺の前に座るリリィは、朝食も食べて満たされていた為か、上機嫌に歌なんか歌っていた。



 「パージャマっとセッケン〜パージャマっとセッケン〜」



 どんな歌だとツッコミを入れたくなるが、俺はそんな野暮な真似をする男じゃないのだ。それにこの調子なら村まで駄々をこねる事なく、到着出来そうだしな。好きなようにさせた方が良い方に転びそうだ。



 「な〜にんげーん……暇だぁ〜……」



 前言撤回、こいつ街を出てから15分も経たずにそんな事を言い始めやがった。フリじゃなかったのにな……



 「何か面白い話してくれ」

 「何かって……なんだよ」

 「最近あったことでもいいし、私が来るまでの人間の人生とか……うん、それがいい!人間が今まで何してきたのか聞きたい!」

 「何してきたのかって言われてもな……普通にあの村で生まれてあの村で育ってテキトーに仕事してきましたよ。終わり」



 俺には人様に話して面白いネタがない。それに話を面白く構成するのも得意じゃないしな。



 「むぅ〜……絶対今テキトーに答えてた! 攻略屋なんて仕事してるんだから面白い話も1つぐらいあるでしょ?」

 「あ、そっち系の話な、それならあるかも」

 「ほら!聞かせて聞かせて」

 「え〜と……なんだったかな……結構良い話があったと思うんだよ」

 「うんうん!」

 「……ちょっとごめん、今思い出せないわ。思い出したら話すな」

 「えぇ……なにそれ、じゃあ別の話でいいよ!」

 「それは嫌だ。他の話はこれよりも面白い自信がない。だから頑張って思い出すから少し黙ってて」

 「変なこだわり!」



 結構昔の事だったと思うんだけどな! 確実に笑いを取れるんだよ! くそ、全然思い出せない! 確かダンジョンで拾ったアイテムが……うんたらこんたら……みたいな体験だったと思うんだけど……



 「待ってろよ……お前を爆笑させてやるから……」

 「もういいよ」



 なんで呆れ気味なんだよ。勝手に人の評価を下げるんじゃない。



 「私は木の実を数える遊びに戻るね」



 なんだその寂しい遊びは。楽しいのか。



 しょうがない、こうなれば場をつなぐために多少質は落ちるが、何か小話を広げなくては。その上で俺は爆笑必須の話を思い出せばいいのだ!



 「わかったわかった、ベクトルは違うけどもクスリと笑える話をしてやるから、興味を無くすな」

 「ほんと! なになに?」



 リリィはよほど楽しみなのか、前を向いて座っていたのを、器用にこちら向きに座り直した。そうだな……質は落ちていいなら話はいくらでもあるのだが、今度は選択肢が多くて迷ってしまうな。ダンジョンであった系。カナリーとのくだらない話。グリムロードが家で初めてお風呂に入った話。村長のカツラを村総出で捜索した話でもするか? ……いや、それはあまりにもくだらないしな……



 「あ!」

 「なに?」

 「そこそこ面白い話があった」

 「聞かせて!」

 「俺、実はさ……」

 「うん!」

 「お前と出会う前に、婚約破棄されてんのよね」



 お、こちらを見るリリィの顔に衝撃が走ってるじゃないか! 興味深々ってか!?



 「まあ、婚約破棄って言うほど固い話じゃないんだけど、あのー……勇者パーティーにアリスって魔法使いがいただろ? エルフの方でも有名かな?」

 「……うん」

 「あの子と俺、結婚の約束をしてたのよね。で、魔王を倒して村に戻ってきたらさ、いきなり私勇者様と結婚しますーって言われて約束なんてなかったことにされたよね。 うん、まぁ……3年間遠距離恋愛していて続く人の方が少ないから、これもよくある話なんだけどな」

 「…………」

 「で、俺も彼女にその話をされた時、素直におめでとうって言ったんだけど、そしたら逆ギレされたんだよね。なんでも、もっと固執しろって。いや、そんなこと言われても無理じゃん。言っても自分を捨てた女だぜ? 俺からすればすぐに次に行きたいっての。固執する時間がもったいないよ。子供のお前でも分かるだろ?」

 「……どうだろ」

 「あー……まだわからんかリリィには。まあ、それだけの話なんだけど……どうよ? なかなか面白い話だったろ?」



 方向性は違うけど、男女の拗れた話は東西南北、老若男女問わず人気があるってのを俺は知っている。リリィだって女の子なんだから少しぐらい楽しめたはずだと思うぞ。



 「人間」

 「なんだ?」

 「元気出してね」

 「なんでだ!」



 何故に俺は慰められたし!



 あんまりリリィには面白さが伝わらなかったようだが、結局俺は村に着くまで傑作話を思い出す事は出来ずじまいだった。悲しい。



 しかし今思えばそれは壮大なフリだったのだろう。



 俺は自宅の手紙受けを開けて中を確認すると、そこに一通の手紙が入っていたのだ。俺に手紙が届くこと自体珍しいのだが、俺は差出人を確認すると、衝撃が走った。



 「アリス・ローモチベーション……」



 今は懐かしき元婚約者の名前と、知らない男性名の記された封筒。俺は変な確信めいた気持ちを抱きながらもその封筒を開ける。



 いや、まさかな……いくらなんでもそんな馬鹿な……



 そこには招待状と結婚式の節が書かれた手紙が入っていた!



 「俺を呼ぶ馬鹿がいるか!」



 噂をすればなんとやら。俺は自分の元婚約者に対し、コイツ最低か馬鹿かどちらかなのだろうなと確信した。



 愚かなアリス。君は一生俺の心から消える事はないでしょう。俺の人生のおもしろ要員として。




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