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トカゲもドラゴンも一緒だろ

 

 翌日の事である。里全体は明朝から重々しい空気が充満しているのが俺が遠方から監視していても伝わってきた。



 エルフ達がぞろぞろと忙しなく行き交い、儀式の準備に取り掛かっていた。



 「ご苦労なこった」



 俺の視界を通してグリムにもその様子は伝わっているのだが、彼はそう言う。



 昨晩と同じく渓谷の上から見下ろす俺達は、その時が来るまでジッと監視するしかなかった。まあ他にはしりとりとかして時間を潰した。



 「お、リリィだ」

 「ほう、よくおめかししてるじゃねーか」

 「馬子にも衣装ってな」

 「素直じゃないねぇ、この男は」



 うるさい。しかし確かに儀式装束に身を包んだ彼女の格好は愛らしくも、清楚で美麗だ。白を基調とした多くのレースをあしらったワンピースを着た彼女に、あと十〜十五年後の姿を嫌が応にも妄想してしまった。



 「キモいぞジョン」

 「言うなよ……分かってら」



 体は18でも、精神年齢は38のおっさんだ。俺の好みとする異性の年齢にリリィの未来を当てはめてしまった事を自己嫌悪と共に猛省した。グリムロードにはバレたがこの汚点は誰にも打ち明けず墓場まで持って行こう。



 そんなくだらない事を考えていると、昨晩長屋で観た駕籠に、リリィが乗り込んでいくのが見えた。小さい扉が閉められると左右の棒を二人の男エルフが担ぎ、駕籠が浮かんだ。



 そうして恐らく族長だろか、年老いた女エルフとその御付きの者が先導し、駕籠は運ばれ出す。それを見送る里の者達からは、激励も別れの言葉もあがることは無かった。



 「グリム、行くぞ」

 「おうとも」



 渓谷を進んでいくエルフ一行を見下ろし、追跡する俺達。時刻は夕方を過ぎた18時半頃。一応目立たぬようにビンタは置いてきて徒歩で追跡していたが、この薄闇なら馬でもバレなかったかもな。



 歩みだしてから30分ほどだろうか、エルフ達の里と同じように円形に開けた場所へと一行は辿り着く。神殿でも昔はあったのだろう。瓦礫の原が広がる中で、一ヶ所だけ開けた祭壇のような場所があった。うーん……テニスコート一つ分くらいの広さはあるだろうな。



 「ここが目的地か?」



 グリムの疑問に俺も唸った。確かにここは出入りする道が一つしかないが、何者の姿も見受けられない。



 ……いやまて。微かにだが一行が歩んできた道とは対称に、洞窟の入り口のようなものが見える。もしかしたらそこがモルティアとかいうドラゴンの住処なのではないだろうか。



 俺がそう予測した時だった。



 洞窟から地鳴りが聞こえてきたかと思うと、巨大な何かがヌッと這い出してきた。



 「あれがモルティア……」



 洞窟から出てきたヤツは、その大翼を広げる。まるで人間が伸びの動きをしているような動きだった。



 全身を包む赤い鱗。その体を支える太い二本の脚。巨大な翼。先端がまるで棘の生えた棍棒のようになった長い尻尾。そしてそのトカゲのような頭の上には、王冠の様に無数のツノが生えていた。



 「ガアアァァァァッッッ──────!!!!」



 ドラゴンがまるで存在を誇示するように吠えた。小さい渓谷は一瞬でヤツ色に染まった気がした。



 流石ドラゴン。この遠くから観ても力強さが伝わってくる。あんなものに里を守ってもらえれば頼りになる反面、確かに逆らう事なんて考えたくはないだろうな。



 「なんか出てきたなジョン」



 ああ、恐らくアイツがモルティアだろうな。



 「いや、違うな。あれはワイバーンだ、ドラゴンとは違う。リリィはドラゴンと言っていたし、あのエルフの里を襲っていた輩もはぐれドラゴンと呼ばれていたではないか。ワイバーンじゃドラゴンは殺せない。恐らくヤツはモルティアの側近か何かだろう」



 じゃあ、あれより更に上がいるってか。それは怖い話だな。



 俺達が話している内にエルフ達の族長が前に出ていた。



 「モルティア様!! 今年も巫女を連れてきました!! どうぞお納め下さい!!」



 その老体に鞭を打ったような強い言葉はこの場によく響いた。事情を知っているとまるで怒りや悲しみを向けているようにも聞こえた。



 「出てくるぞ」



 グリムロードがワクワクした口調でそう言う。さぁ、どんな奴が出てくるのか……緊張の一瞬だ。










 「ふん……おおそうか、よくやった。褒めてつかわす。このモルティアの労い、受け取るがよいわ」



 そう返事を『赤いワイバーン』が返した。



 いや、お前かいモルティア。



 グリムロードが可笑しな深読みをするから、てっきりまだ恐ろしいものがやってくるとばかり……おい! グリム! お前変なこと言うなよな!



 ……グリム?



 あ、これは呆気にとられてんな。



 「ふ、ふざけるな!!」



 戻ってきた。



 「あ、あ、ああ、あれがドラゴンだと!!?  あれはどうみてもワイバーンだろが!!  たしかにお前ら人間や他種族からすれば似た容姿をしているように見えるかもしれん……しかしだな、あれは羽の生えた、ただのトカゲだ! 断じて高位なる存在の我々とは違う!」

 「え、そうなの?」

 「そうだ! 我々は祖先に神々を持つ。 しかしヤツらは祖先はトカゲ、爬虫類! 流れる血潮の味も違うわ!!」

 「まあ、似たようなもんでしょ」

 「馬鹿ッ!! 馬鹿馬鹿!! ぜーんぜん違う!! まだ貴様ら人間と猿の関係性の方が、我々とワイバーンに比べれば近い親戚だ!!」

 「ひど! 人間を猿呼ばわりかよ」

 「酷くない!! お前が言ってるのは俺が人間と蛆虫が似ているって言っているようなもんなんだよ!!それに比べれば可愛いもんだろが」



 相当に失望したのか、グリムロードは落胆し、グルルと唸っている。



 しかし、ワイバーンでも関係はないだろう。奴が倒すべき相手であることには変わりはないんだからな。



 「元気出してくれよ」

 「……あの赤トカゲに期待は出来んな」



 ぶつくさと文句は言うがグリムロードは帰ろうなどとは言わなかった。こいつの良いところはこういうところなのだと俺は再認識した。




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