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小さいコミュニティでは事件なんてすぐおきる

 

 昨晩も同じような事をしていたような気がする。いや、厳密には今日の真夜中?か?



 愛馬ビンタの上で揺られながらそんな事を思い出していた。攻略屋としての仕事をこなす為に20時間ほど前にもこんな風に揺られていたなと。



 別に夜の散歩ってわけじゃない。ちと気になる事があってこうして馬に担がれて移動しているってわけだ。



 ビンタの足であれば目的地までは歩かせるだけでも2時間ほどで到着するはずだ。



 え、どこに向かっているのかって?



 「情でもうつったか?」



 俺の胸の内からそんな声が聞こえてきた。比喩表現ではない。勿論ビンタが喋ったわけでもない。彼も俺の大切な仲間だが人語を解することは出来ないからね。ではなにかと言われれば……俺の『もう一人の相棒』の声だ。



 「珍しいな、そっちから声をかけてくるなんて」

 「まあな〜、戦いの臭いがしたから出てきてやった」

 「たしかに今回はお前の力を借りるかもしれないな、グリム」



 俺の声に体内から笑い声が響く。



 「借りるかもしれない……じゃねーだろ。借りる前提でエルフの里に向かっているくせに、カッコつけんなよ」



 グリムロード……それがこいつの名だ。こいつとは2年前にダンジョンを攻略している時に出会った仲だった。両腕と両脚、巨大な翼を持つ黄金の竜で、名前こそ色々とあれどその殆どが穏やかではない。冥竜、災厄、御伽の君……人々から畏怖と伝承で崇められてきた存在……超越生物の一種であり、しかもその階位はその中でも最上位である……と言うのが本人の談だ。では何故そんな存在が俺の体の中から発声しているのかと言うと、簡単に言えば、友達になった一環で俺の体に憑依したのだ。この自称伝説の竜様は。



 そして俺はその力を抑制セーブする役割を課せられている。



 なんでもこいつにはこの世界を一瞬で破滅させるほどの力があるらしいのだが、そのせいでいつからか全力で戦う事も、ご自慢の破壊光線ブレスを全力で放つことも出来なくなり、生きるのがアホくさくなっていたとのこと。



 そんな時、迷宮ダンジョン化に飲み込まれ、成り行きで奥地へと落とされ、脱出するのも億劫になってゴロゴロしていたところ、俺に出会ったという経緯だ。



 そして流石伝説の竜様。俺の安寧スキルを速攻看破し、これ幸いと体をエーテル化して、俺の体に憑依した。なんでも、俺の安寧スキルと低ステータスの相乗効果で世界を破壊する光線も、山を破壊する程度に抑えられるらしく、これ以上ない相性の良い体だそうだ。



 まあ、俺も伝説の竜様が友達兼、いざという時の攻撃手段になってくれるってんなら、この上ない護衛だと断る事もしなかった。



 だけど、その代償として安寧スキルの存在を知る者が一人増えてしまったわけで、恐らく効果は薄れてしまったと思われる。現にリリィなどというエルフに目をつけられてしまったしな……



 今になってグリムと知り合った事を少し後悔。



 ……ほんのちょっとね。



 「しかし……エルフの里を牛耳るドラゴンか。骨のあるやつならいいな、ジョン」

 「まだ戦うってことにはなってないだろ。エルフ達を虐げるようになった経緯も知らないし、もしかしたら、説得すれば向こうは退いてくれるかもしれないからな」

 「おいおいおい!! そりゃねーだろがジョン!! 何の為に俺が出てきたと思ってる!? 戦いだ! 争いだ! ドラゴンは戦ってこそ意味があるってんだ! そう、冷めるような事は言うんじゃない! お前の中で前世の記憶を読むのは楽しいが、流石に闘争の充実感には敵いはしないからな」



 発言から分かる通りグリムロードは血の気が多い。こいつが俺の中で発言する時は大抵戦いがある時だけ。何が何でもこいつは破壊光線ブレスを撃ちたいのだ。



 あと補足するが、こいつはこの世界で唯一俺が転生者であることを知っている。体に憑依した際に驚かれたが、別に俺も公言されなければ困るわけでもないので、まあいいかとしておいた。こいつ自身異界の情報を俺の記憶から読むことは至極楽しいようで、その中でも音楽に対して大きな興味を示していた。この世界にも音楽はあるが、前世でいた地球程は当然発展しているわけもなく、多彩で変幻的な地球ミュージックに泡を吹く程興奮していた。ロックにクラシック、色んなジャンルを享受しているが、最近ではhip-hopがお気に入りらしい。



 「それにお前だって戦う気は満々だろ」



 たしかにそうだ。闘争心むき出しのグリムロードに言われ俺も自分を鑑みる。攻略屋として働く時の正装である、黒いローブに山犬の仮面をつけた俺は、ローブの内側に色々なアイテムを仕込ませていた。



 これを見た人間がいたとしたら、戦う気などさらさらないなどという言葉は通じないだろう。



 「もう一度聞くが、お前……まさかあの小さいエルフに同情しているんじゃねーだろうな」

 「してない」

 「本当かよ。正義感に突き動かされているのかと思ったがな。俺は」



 本当だ。俺は同情できるほど、彼女のように過酷な人生を送ってきた人間ではないからな。



 「ただ俺は、俺のしたいように動くってだけだ」

 「それがあのエルフを助ける行動に繋がるってか?」

 「ああ、あいつは口は悪いし、態度もでかいが悪い奴じゃない。あいつは自分より弱い者達の為に、逃げる事をやめて里に帰っていった。そんな奴が悪い奴なわけがない」

 「ふむ」

 「俺はあいつを助けてやりたい。そう思ったからこうして里に向かっているだけだ」

 「正義感ではないってか?」

 「そんなもん俺は持ってないよ。強いて言うならただのエゴかな」



 俺は好きなように動く。それがこの世界で前世の記憶を取り戻した俺の座右の銘であり、行動理念だ。周りの目も、倫理も関係はない。俺は俺が正しいと思った通りに、やりたいようにやる。安寧を手にする為ならな。



 「ジョン、安寧とは程遠いとは思うぞ」



 こいつ俺の心の中を勝手に……



 「そうでもないって。あいつが死んだら最後に見せたあの顔を生涯忘れる事なく、毎晩うなされそうだからな。安眠を確保出来てこその安寧だと俺は思います」



 そんなのは寝不足の要因になりかねん。そう言うところも含めて俺はリリィを助けることにしたのだ。



 そうグリムと会話を交えながら、俺達はエルフの里へと歩を進めた。



 里の存在は知っていたが、実際に目で見るのは初めてであった。深い渓谷の開けた大溝に彼らの住処はあった。この目で見た大体の推測であったが、村にある家々の数は100〜200ほど、地について建てているものもあれば、岩壁に張り付く形で空中に建設しているものもある。



 俺はそれを見下ろす形で渓谷を構成する切り立った大地の上から双眼鏡を用いながら見ていた。



 「小さい村だ」



 別に馬鹿にしているわけではなく、情報交換の感覚で俺はグリムロードに言った。



 「いや、お前の村とそう変わらんだろが」



 ははっ……確かにそうかも。



 「どうやって潜り込むか。旅行人……は人間自体があの村には入れないから不可能だとして……エルフのフリをするってのはどうやっても無理だし……」

 「そんなもの潜入に決まってるだろ。スニーキングだ、スニーキング」

 「たしかにそれしかないか。 ……てか、よくスニーキングなんて言葉知ってんな」

 「お前の記憶で読んだのだ」



 なるほどな。どんどんグリムが俺色に染まっていく。けっしてキモい意味じゃなく、俗的な意味で。



 たしかに今の時間は夜闇に紛れて乗り込むには丁度良い時刻ではある。こそこそと潜り込むにはチャンスだ。俺は持参していたロープをビンタの鞍から下ろすと、それを崖下に落としていった。相当に高い渓谷だが、なんとか長さは足りそうで安心した。



 俺は渓谷のエルフの里の端の方に降りた。時刻は22時半過ぎ、この世界の人間であれば……更に言うなら俺の村の人間ならば、大半が眠りについている時間だが、エルフ達は起きていたりするのだろうか? たしかにこうして見える範囲で里を見渡してみると、所々に松明が焚かれているが……



 色々と考えがグルグルするが、とりあえずは行動しなくては。俺は人気のありそうな方へと隠密行動を開始した。そうすると俺の耳に人の話声が微々たるものだが、聞こえてきた。



 なんだろうと思う俺は釣られてその方へと向かう。そこには周りの住居より数倍近く長い平屋があった。声はその中から聞こえてくるようで、窓と思わしき所からは光が漏れている。



 俺は体制を低くし、その平屋の周りを回ってみることにした。どこかに中の様子を窺える場所がないか探す為だ。俺の思惑はすぐに叶う。裏の方へ回ると窓が開放されているではないか。そこからははっきりと話し声が漏れてきていた。



 「リリィのやつも手を掛けさせやがってな。まったく」

 「本当だよ、一時はどうなることかと肝が冷えたが……これでモルティア様に無事献上できそうだ」



 俺はこっそりと覗き込む。どうやらこの長屋は儀式用の道具の保管庫の様だ。エルフ達の生活は知らないが、普段の生活では使うことなどあまりなさそうな飾り道具や、駕籠かご(あの時代劇とかでお殿様が業者に担がせて中に乗るやつね)が置かれている。そして話をしていたのは床に座り込み、様々な材料を広げて作業をしている三人の男エルフ達だった。口振りからするに、儀式用の道具の製作にあたっているようだ。



 「これで今年も安心して暮らせそうだ」

 「だが……また村から我らの種族が減ってしまう……これでは俺達は衰退の一途を辿るのみだぞ……」

 「仕方がないだろう。モルティア様を怒らせれば我らは皆殺し。それにモルティア様がいなければこの村を守ってくれる存在がいなくなる……どちらにしたって絶滅は免れん」

 「モルティア様なぁ……最近は食料の要求も多くなってきてるし……生活が圧迫される一方だ」

 「それもこれも、あのはぐれドラゴン共のせいだ……あんなヤツらが攻めてくるせいで我らの平穏も、安定した食料供給も過去のものになってしまったなぁ」

 「それでもモルティア様がいる限りはヤツらは攻めてはこれん。献上する食料は痛いが、命の数ならば一度に大勢死ぬか、一年に一度確実に一人死ぬかの違いだ。それならば後者の方がまだ良かろうて」



 なるほどな。これはタイミングが良かった。彼らの世間話を聞けたことにより大体の事情は分かった。要は、そのはぐれドラゴン共の脅威から守ってもらう為にモルティアと言う名の竜に守護してもらっていると言うわけだ。その対価が、日々の食料と一年に一度の生け贄の献上ってわけだ。


 

 「それに今年はリリィなだけまだマシだ」



 ……どういうことだ。どう聞いても悪いようにしか捉えられない物言いに俺の顔がひそまった。



 「たしかにそれは言えてるな、あんな里の汚点はいるだけでエルフの誇りが穢れるってもんよ」

 「母親も大概だが……なんてったってアイツには血が流れているからな。その度合いが違いすぎる」

 「まったくだよ、なんでよりにもよって『人間』との混血ハーフなんだか……理解に苦しむね」



 混血? リリィが? 人間との? そんな事アイツは一言も言わなかったぞ。



 「穢れた血はこれで一人もいなくなる。良いことはそれぐらいかもな」



 あのガキ……



 これでリリィにまた会わなくちゃいけない理由も増えたな。







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