白の部屋
空虚な白壁の部屋。
調度品のひとつもないまっさらなこの部屋の片隅に、壁へ背中を預けて座り込む1人の女性がいた。
純白のワンピースから覗く四肢は、周りの壁よりも清らかに澄み切って存在感を放つ。
しかし、彼女は一切の動きを見せず、ただ顔を横にそむけて肢体を投げ出しぐったりとしている。
視線の先には、精緻な彫刻の施された銀縁の枠が目立つ大きな窓があった。
窓からは、夏を彩る生気満ち満ちた植物達と絶え間なく打ち寄せる深蒼の大海、それに呼応するように蒼みを増す青空がうず高く積もった入道雲を運んでいく姿が見渡せる。
それら、生命力溢れる光景を目の当たりにしても微動打にしない彼女の左手には、無機質な黒の携帯電話が握られている。
発光を続ける携帯電話。
しかし、それにさえ彼女は応えない。
ただそこに存在し続けることが意義であるかのように。
閉ざされた窓に、激しくぶつかる潮風がたてる振動音だけが唯一この部屋の現実を証明していた。
俯いた彼女の、なだらかな顎先から涙の雫が零れ落ちる。
その流れを辿り、源流にまで到達する頃合には彼女が涙する本当の理由に、多少なりとも辿り着けるのかもしれない────
次回からは軽めの狂気系です。
いや、狂気なのか…?
とりあえず、涙の理由はまだ出てきません。