異世界転生
「ーー〜〜〜」
...んぅ?何か聞こえたような気がする。人の声、だったと思うけど。聞き取れなかったな。なんて言ったんだろ?
「ーーじょうぶ?」
じょうぶ?何が言いたいんだろ。自慢じゃないけど俺は丈夫なことなんて1つもないぞ。体は貧弱、頭脳も貧弱、それが俺こと黒光天斗だ。貧弱貧弱な高校生だ。そんな俺が丈夫とかなんの冗談だろ。
「...だいじょうぶ?ガル?」
ああ、大丈夫か。心配してくれてたのね、ありがとうございます...って誰だよガルって。俺に話しかけてたわけじゃないのかよ。でもよく考えたら俺って心配されること何もやってないしなっうお!?ちょっ、いきなり抱き上げるとか何考えてんの?!
「聞こえてないの...?しっかりしてガル!ルガール!!」
うおっ!?上下に振るのをやめろ!あといきなりでかい声出すなよ!びっくりするだろ!ていうか何この状況、どういうこと?俺確かバスの中でゲームやってなかったっけ?それがどうして知らない人に抱き上げられて、振られて、知らない名前で呼ばれて、よくわからない心配されてるの?
「どうしましょう、こんな時はどうすればいいの...そうだ、バルド!バルドどこ、ルガールが大変なの!大部屋に来て!」
てかなんだろ。さっきから頭が重くて痛くてクラクラする。目は開かない。手と足は自由に動かせない。なんだか体が俺の言うことを聞いてくれない感じだ。どゆこと?何がどうなってるんだ?怪我した記憶はないし、こうなってる心当たりもない。
(ドタドタドタ)
「どうしたリーナ、何があった!...ってどうしたガル、血だらけじゃないか!?早く回復魔法で傷を塞げ!」
「はっ!そうだ、回復してあげないと!」
...え、今なんて言った?聞き間違えだと思うけど、魔法って言わなかった?そんなファンタジーな単語が自然と会話に使われていなかったか?魔法...まさかな。何かを察した気がするけどそんなことがあるわけない。きっと聞き間違えだ。
「えいっ!」
なんだその気の抜ける声は......頭の痛みが無くなった。頭に何かが流れ込んできた感覚があったあと、すぐに痛みが消えた。なんだ今の、何が起きたんだ?
「ガル!しっかりしてガル!」
「ガル!しっかりしろ、男だろ!」
さっきから一つも意味がわからないまま事が進んでいってる気がする。目は見えないし手足は動かないし...あれ、動くな。目もぼやけてるけど見える。どうして急に治った?さっきの頭痛が原因だったのか?でも頭痛が原因で手足の自由と視界奪われるとか相当な重症じゃね?いつの間にそんな大怪我負ってたんだ?...何も分からないな、くそ。って、ここで目が治ってきたか。やっとどこにいるのかわか........。
「...........ぅぁ?」
...........らない。知らない家だ。黄色がかった白い壁も、壁に取り付けられてる外側に開きそうな窓も、大きく太い白の板が何枚も敷かれている床も、真横に置いてある緑色のソファも、全て知らない。でも、それらはどうだっていい。そう思えるぐらいに、先程から必死に声をかけていた男性と女性に、目を奪われた。
「目を開いたぞ!大丈夫そうだ!」
そう言ってホッとした顔を見せた男性は、髪と眉共に茶色く、凛々しさを感じさせるつり目で、燃えるような赤い瞳をしていた。
「ああ、ガル!よかった...よかったぁ...」
そう言って抱きしめてきた女性は髪と眉共に白く、優しさを感じさせる丸い目で、明るく照らすような黄色い瞳をしていた。どちらの顔も整っていて、まるで人気絵師の描いた絵を見ているようだ。
...ああ、なんとなくわかった気がする。魔法って言葉が出てくるのと、目の前の人間離れした顔立ちを持つ二人。そして、夢ではないと教えるように、伝わってくる女性の体温。夢ではなく現実で、目の前の二人が超がつくほど美しく綺麗で、魔法という単語が自然と会話に使われていた。これぐらいしかわかった事はないけど、しかもこれだけで決めるのは自分でもどうかしてると思うけど。
ー俺は、異世界に来たんだな。