日記 1
十月二十日(金) 雨
俺は黒光天斗、年齢は十八。黒髪は横と後ろを刈り上げていて、前髪は眉が出てないと教師がうるさいため、短めに切り揃えている。そして、この世界にまったく興味が無いんじゃないかと、自分でそんな感想を抱いてしまう程に細く、光が宿っていない目をしている。あまり動かない体には、筋肉はもちろんのこと、脂肪もあまりついていない。
そんなフードを被っただけで犯罪者だと言われそうな俺は、高校生である。学年は三年で、日々平凡な生活を送っていた。起きて、支度して、学校行って、授業受けて、帰ってきて、遊んで、寝る。ほとんどの学生が送っていそうな生活である。
その平凡な生活が、突然壊れてしまった日のことを、ここに書いておこうと思う。
「天斗、そろそろ起きないと遅刻するよ!」
まず最初に聞こえてくるのは、俺を起こそうとする大声である。その声は家中に響き渡り、俺の寝ている二階の部屋にまで聞こえてくる。俺にとって聞き慣れたこの声は、俺の母、黒崎優里が発したものである。毎日決まった時間にこのセリフを届けてくれるのだ。この声が聞こえてくると、反射的に体を起こして目を覚ます。
「...ふあぁ〜」
口に手を当てあくびを一つ。重たい瞼を擦り、ベッドから足を下ろして座る。その状態で数分ほど目を瞑る。そして数分後、ある程度眠気が消えた所で立ち上がる。
「よっ...と」
腕を上げて伸びを一つ。この動作を行った時点で、眠気はほぼ消えている。軽くストレッチをして体をほぐしながら、部屋の壁に貼られているポスターを見る。
俺の部屋には、様々なポスターやフィギュアが飾られている。ポスターのほとんどは、漫画などの限定版でついてきたものである。その様々な魅力のあるポスターを眺めていると、やる気が満ち溢れてくるのだ。一日の気力が湧いて出てくる様な、そんな感じである。
そうして一日の活力を得た俺は、部屋から出て二階のトイレに向かい、用を足した後に一階へ。階段を下りてリビングに入ると、台所で母が料理している。その姿を確認すると、俺は朝の挨拶をする。
「おはよ」
「はいおはよう、ご飯できてるよ」
挨拶を終えると、いつも食事をするテーブルを見る。その上には、ご飯と味噌汁、冷食の唐揚げと野菜炒めが置いてある。
(ぐううぅ)
それを見た俺は、腹から盛大に音を鳴らす。俺は椅子に座り手を合わせ、食べる前に挨拶をする。
「いただきます」
挨拶が終わると早速食べていく。もぐもぐ、もぐもぐと食べていき、あっという間に完食する。食べ終えた後も手を合わせ、挨拶をする。
「ごちそうさま」
挨拶を終えると立ち上がり、制服に着替えるべく和室へと向かう。外出用の衣類はこの部屋に置いてあり、制服も壁にハンガーで掛かっている。俺は寝間着を脱ぎ捨て、制服に着替える。着替え終わったら寝間着を回収し、洗面所へと向かう。そこにある洗濯機の前にカゴが置いてあるので、そこに寝間着を入れる。その後、洗面台で顔を洗い、歯を磨いて寝癖を直す。最後に鏡で確認した後、リビングに戻る。
戻ってくると、母がタイミングよく台所から弁当を持って出てくる。
「はい天斗の弁当、準備終わったの?」
「ありがと。終わったよ、そろそろ行くね」
弁当を受け取り、そろそろ家を出ることを伝える。そして受け取った弁当を、ソファに置いてある通学鞄に入れると、持ち手部分に手を通し、ランドセルのように背負う。最後にリビングで充電していたスマホをポケットにしまい、準備を完了する。
「じゃあいってくるね〜」
「いってらっしゃい、事故には気をつけてね」
家を出るため母に挨拶をする。返事が返ってきたのを確認し、玄関へと向かう。革靴を履いて爪先でトントンと地面を叩く。そしてドアを開けて外へと出る。
(ザアァァ)
その日は朝から雨が降っていた。俺は折畳傘を差して、雨を防ぎながら歩きだした。5分ほど歩いたところでバス停に到着し、バスを待つ。雨の影響で遅れたのか、予定より5分遅くバスが来た。
『こりゃあ学校遅刻しそうだな』
思わずそう口から漏らした。それからバスに乗ると、後ろの相席に誰も座ってない空席があったため、そこに座る。鞄を膝の上に置き、ポケットからスマホを取り出す。ここから学校に着くまでは、適当にスマホをいじって過ごす。
三十分が経過した頃、俺はスマホに集中していた。おそらく他の人に声をかけられても、鞄の中から物を取られても気づかないであろう。完全なリラックス状態、いや、無防備な状態である。
そして突如、日常を破壊する音が響き渡った。
(プァァーーー!!!)
唐突に爆音が鳴り響く。その音の影響で、思考が停止し、体が硬直した。頭の中にキィィンという音が駆け抜け、目は開いているはずなのに、モザイクがかかっている様な感じだ。俺は何が起こったのかも分からず、それどころか何、かが起こったことさえ認識していなかった。
そこに衝撃が走る。
(ドウンッ)
おそらく車がぶつかってきたのだろう。俺はその衝撃で吹っ飛び、どこかの壁に頭からぶつかった。その瞬間、頭の中に響いていた音が消え、モザイクがかかった視界は途切れた。
そうして俺は、即死した。
そして俺は、異世界に転生した。