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異世界転移・イン・クソゲー

作者: 一読者

 息抜きに書いた小説です。気軽に読んで楽しんでいただけると幸いです。

 俺の名は竹中絶斗たけなかぜっと。ごくごく普通の高校生だ。

 だが、今の状況は普通じゃない。何しろ、ここはどう見ても異世界なんだ。

 目の前には訳の分からない爺さんがいて、同じことばかり言ってくる。

「おい、今日は冒険に出かける日じゃろうが! いつまで寝ておる!」

 まずこの爺さんが誰なのか分からん。急に冒険に出かけるとか言われても、何のことだかわからない。

「あんたいったい何を言ってるんだ? 誰かと勘違いしていないか? そもそもここは何処なんだ?」

 個室にいるのだが、ファンタジー系のゲームにおける村人の部屋のような内装で、窓の外に広がる景色は見たこともない植物や動物でいっぱいの森だ。

「おい、今日は冒険に出かける日じゃろうが! いつまで寝ておる!」

 これだよ。同じことしか言わない。俺は一体どうしたらいいんだ? 冒険ってなんだ?

 俺はもう起きてるのに、いつまで寝ておるだって? 俺は自分の足で立って歩いてるじゃねーか。お前の目は何処についてるんだっての!

 部屋を出ようとするが、ドアはピクリとも動かない。鍵がかかってるんだろうか。

「そうだ、このじじいをぶん殴ってみるか。正気に戻るかもしれない」

 俺はイラつきすぎて暴力的なことを思いついた。そしてそれはすぐに実行された。

「食らいやがれ! このくそじじい!」

 拳を固く握りしめ、爺さんの頭に振り下ろす。

 直後にやめときゃよかったって後悔したよ。この爺さん、頭がめちゃくちゃ固かった。まるで石か何かを殴ったみたいに俺の手が痛くなった。

 俺は痛みにのたうち回った。そのうちに、最初に俺が目を覚ましたベッドの枕元がキラキラ光っていることに気が付いた。

 まさかと思って俺はその光に手を伸ばした。すると、それはメモに変わった。

《メニューと言いながら右手を動かすとメニュー画面が開く》

「メニュー……」

 右手を振りながらそう言ってみると、目から三十センチ程度離れた場所にA4サイズの印刷用紙が現れた。印刷用紙にはアイテム、スキル、ステータス、装備、所持金、パスワードなどと書かれていた。

 ここ、絶対にゲームの世界だ。

 俺は確信した。

 一番上に書かれていたアイテムの文字列を指で触ると、印刷用紙に書かれている内容が変わった。


《ポォオオオション×5 部屋の鍵 鉄の剣 皮の鎧》


 ツッコミどころはあるが、とりあえず『部屋の鍵』に指で触れる。すると単純なデザインの銀色の鍵が目の前に現れた。

 続いてポォオオオションに触れてみる。すると触れる前はポォオオオション×5だったのが、ポォオオオション×4になった。

 他の変化は特になかった。もう一度試してみたがポォオオオションが減っただけだった。

 ひとまずアイテム欄を閉じてスキルを開いた。


《なし》


 すぐに閉じてステータスを開いた。ある意味ではここが一番重要と言えるだろう。


《HP13/13 MP0/0 攻撃力13 防御力13 魔法力0 敏捷13 命中率50 回避率30 奇跡10》


 この能力値から何を察しろと言うのだろうか。高いのか低いのかも分からない。奇跡というのが何を表す数字なのかも分からない。

 装備はどうだ?


《武器:なし 盾:なし 頭:なし 体:普通の服 装飾品:なし》


 当たり前と言えば当たり前か。そうだ。剣と鎧を装備してみよう。無しと書かれている部分に触れ、武器ストックから剣を選ぶ。すると、右手に刀身の長さが70センチほどある諸刃の剣が現れた。同じ要領で皮の鎧を装備した時、それは起きた。

 それまで来ていた服が消え、上半身しか守っていない皮の鎧に変わったのだ。つまり、下半身は丸出しである。

「何だこりゃ!」

 普通の服に戻そうとしたが、どういう訳か普通の服は何処にもなかった。消えてしまったのである。

 どうやら、装備を変更すると前に装備していたものは消えてしまうらしい。なんだこのクソ仕様は? 爺さんは相変わらず、ベッドの方を見つめて突っ立っている。俺の変化にも気づいていないようだった。

 もはやどうにもならないので気を取り直して所持金を確認。


《1000G》


 これ、どのくらいの買い物ができるんだ?

 パスワードは完全な白紙だった。戻ると決定以外の文字列はなく、訳が分からなかったのですぐに閉じた。

 改めて自分のステータスを確認した。装備によってどの程度変わったのかを確認するためである。


《LV1 HP13/13 MP0/0 攻撃力13 防御力13 魔法力0 敏捷13 命中率50 回避率30 奇跡10》


 何も変わっていない……だと?

 数字は全く同じ。新しく追加された項目もない。直後にスキルも確認したが、スキルも増えていなかった。何のための装備だ、これ?

 俺はただフリチンになっただけだった。右手の剣は手放すことができない。自由に使えるのは左手だけになってしまった。メニュー画面を消すと、変化が起きた。


 爺さんの首から下が床に埋まっていた。


「どうしたんだ、爺さん!?」

「おい、今日は冒険に出かける日じゃろうが! いつまで寝ておる!」

「駄目だこりゃ、変化がない」

 俺は爺さんとのコミュニケーションは早々に諦め、最初に実体化させた部屋の鍵をつかってドアを開けた。

 ドアの外はすぐに森が広がっていた。この家は俺の部屋以外に部屋がなかったらしい。

 家の周りをぐるりと回ってみたが、確かに部屋一つ分程度の大きさしかなかった。

 あまりにもチープだ。

 俺はいろいろ調べながら森を歩いた。どうやら、歩けそうに見える道はたくさんあっても、実際には一本道らしかった。特定のルートを外れると見えない壁に阻まれて進めなくなるのだ。無理に進もうとするとブブッ……と変な音が聞こえる。

 一本道を進んでいくと、百メートルほど歩いたあたりで、何の前触れもなく目の前にスライムが現れた。どろりとした半透明の液状生物であり、特に知性があるようにも思えない。

 スライムが俺に襲い掛かってきた。スーッとすべるように移動して、俺の足元にぶつかったのである。まったく痛みはないが、視界の端にちらつくHPバーがわずかに減少した。俺はダメージを受けたらしかった。

 俺は剣を振り下ろし、スライムに切りかかった。

 スカッ!

 完全に当ったようにしか見えないのに、何の感触もなかった。どうやら攻撃が外れたらしく、スライムがまたも俺の足元にぶつかった。今度はスライムの攻撃が外れたらしく、当たった感触はなかった。

 このようなやり取りを数回繰り返した結果、剣がスライムに命中し、スライムはビシューンという音とともに消えた。

 ぴろぴろりん♪ と電子的な音が聞こえ、ステータス欄が現れた。


《LV2 HP15/18 MP0 攻撃力15 防御力15 魔法力0 敏捷15 命中率 60 回避率40 奇跡10》


 とりあえず、レベルが上がったらしい。

 ステータス欄を消してまたしばらく歩くと、またスライムが現れ、これも倒すと、またレベルが上がりステータス欄が更新された。


《LV3 HP21/25 MP0 攻撃力21 防御力21 魔法力0 敏捷21 命中率70 回避率50 奇跡10》


 あいかわらず、この数字が高いのか低いのかわからないが、しばらくはレベル上げをすることにした。




 ひたすら森の中を歩き回り、スライムと戦うこと十五回。俺のステータスはこうなった。


《LV18 HP3823/3823 MP0/0 攻撃力3823 防御力3823 魔法力0 敏捷3823 命中率220 回避率200 奇跡10》


 スライムを一体倒すごとにレベルが上がり、気が付いたら最初は二桁だった能力値も四桁まで膨れ上がった。自分が強くなっているという実感は全くないが、攻撃を外さなくなったのは気分がよい。反対にスライムの攻撃は一切当たらなくなった。回避率が100を超えているのだから、当たるわけがないのだ。HPはレベルが5くらいの時にポォオオオションを使って回復した。攻撃力・防御力・敏捷は完全に現在のHPと連動しているらしかった。

戦闘に関しては完全に作業だが、それよりもかれこれ一キロ以上も歩いているが、森の道以外何も見当たらないのが問題だ。俺はいったいいつになったら他のものを見ることができるんだ? そろそろ他のイベントがあってもいいんじゃないのか?

そんな風に思って歩くことさらに二キロほど。ようやく村らしきものが見えてきた。村に近づくごとにスライムの登場頻度は減り、森の中で倒したスライムの総数は結局二十四体程度だった。つまりレベルは25になった。ステータスはこんな感じ。


《LV25 HP40289/40289 MP0/0 攻撃力40289 防御力40289 魔法力0 敏捷40289 命中率290 回避率270 奇跡10》


 ひどいインフレだ。俺はスライムと二十四回戦っただけだというのに、MP・魔法力・奇跡以外の能力値は最初とは比べ物にならないほどの値だ。

 とはいえ、敏捷が上がっても俺の移動速度は上がらないし、スライムは最初からずっと一撃で倒してきたから、この数字がどの程度すごいのかいまいち分からない。これはスライム意外だとどんな敵と戦える数字なんだ?

 村に足を踏み入れると、これがまた奇妙だった。基本的に村人はランダムで時々動くだけ。店の店員はずっと動かずにいる。

 村人はフリチンの俺が歩いていても何も気にした様子もなく、ずっと同じことを喋っている。なんとも言えない気分のまま、アイテムを買うことにした。

「いらっしゃい。何を買う?」

 アイテムショップのおっさんは表情一つ変えず、そう言った。

「ポォオオオションを……」

「ポォオオオションなら、一つ2500000ゴールドだよ」

「はぁ!?」

 所持金を確認したが、所持金は1240Gだった。スライムを一体倒すごとに10G所持金が増えたのだが、そんな程度ではとても買えそうにない。

 俺は仕方なくアイテムをあきらめた。

 アイテムが駄目なら武器と防具だ。

「いらっしゃい。何を買う?」

 武器屋と防具屋は二人横に並んで商売をしていたが、どう見ても二人ともアイテムショップ店員と同じ顔だった。

 武器と防具のリストを見た俺は、武器と防具も諦めた。値段が高すぎて買えそうもなかったからである。一番安い武器ですら100000G以上。買えるわけがない。

 村をしばらく見たが、特に役立ちそうなものも情報もなく、俺は村を出ることにした。

 すると、突然あたりが暗くなり、夜になった。

 体が動かなくなったかと思えば、次の瞬間には宿屋にいた。宿屋の主人は「宿泊は一回100Gだよ」と言って、俺は何の意思決定もしていないのに所持金が勝手に減った。そして、視界が暗転し、次に視界が回復した時、俺はベッドに横になっていた。

 むくりと起き上り、俺は宿屋を出た。何のイベントもなくただ宿屋に泊らされたのだ。HPは最初から満タンだし、MPは最初からゼロ。急に暗くなる直前までは昼だったのだ。だというのにまったく意味のない宿泊イベント。

 若干不快になりながら、俺は今度こそ村を出た。ここまで何の出会いもない。

 村を出てから五分ほど歩いたところで、女の悲鳴が聞こえた。

 俺は悲鳴が聞こえたほうに走った。俺の意思ではない。足が勝手に動いてそちらに向かわされたのである。

 俺が立ち止った時、二十メートルほど前方には腰を抜かして尻餅をついている若い女と体長が五十メートルぐらいはありそうなドラゴンがいた。

 女がすがるような目でこちらを見て、

「助けて!」

 と叫んだので、俺は迷わずドラゴンに剣を振り下ろした。

 確かに切った感触はあったが、ドラゴンは体から血を流すこともなく、ただ吠えた。ドラゴンの顔の横に見えるHPバーは半分以下に減少した。

 やはり俺の能力は相当強くなっていたのだ。

 そう思って喜んだのもつかの間、ドラゴンが凄まじい炎を吐いた。

 俺の体を炎が焼いた。

 俺のHPがみるみる減っていく。HPは一気に三割ほどまで減ってしまった。だが、次の攻撃で倒せるはずだ。

 俺は剣を振りかぶり、ドラゴンの体を切った。だが、予想に反してドラゴンのHPは残った。そこで俺は自分の攻撃力が現在HPと連動していることを思い出した。俺のHPが三割まで減ったということは攻撃力も三割まで減ってしまったということなのだ。

 俺は逃げようとしたが、ドラゴンはすさまじい俊敏さで俺の進行方向に回り込んだ。そして、俺の視界がドラゴンの炎で埋め尽くされた。

 HPは一気にゼロになった。

 そして、目の前が真っ暗になり、脳裏にはGAME OVERの文字列が浮かんだ。そのまま俺は意識を失った。俺はフリチンのまま女を助けるためにドラゴンに挑み、敗れたのだ。あまりにもダサい。

 真っ暗な空間でコンティニューするか聞かれたが、俺はそんな気力もわかず、拒否した。

 次の瞬間、俺の意識が……



                         異世界転移・イン・クソゲー 終わり


 どんな内容であっても感想、評価など頂けると幸いです。


 現在連載中になっている『適当太郎の極めて平凡な日常』は今後、内容を一部変更して掲載しなおすか、あるいは打ち切りです。恐らくは続けてほしいという要望なんか来ないでしょうから、多分打ち切りです。

 多分近いうちに新しい連載を始めます。

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