プロローグ
【プロローグ】
暗黒に包まれている古の城。その城内には二つの人影があった。
一つの人影は黒曜石のように輝く黒髪と綺麗な紅のマントを揺らす青年、もう一方は眩しいくらいの金髪の青年で両手にはその体には大きすぎる大剣が握られていた。
先ほどまでの死闘でかなりの力を消費してしまったらしく、お互いに相手の出方を窺いつつ双方は肩で息をしていた。
「この我輩、魔王マレードをここまで追い込むとはなかなかのものよのぅ」
自身をマレードと言った黒髪の青年はそう言いながら、掌に何やら黒い物体を作り出していた。
「勇者だからな。やる時はやるんだぜ。この俺、リオゼットはな」
リオゼットはそう言って口の中に溜まっていた血反吐を吐いた。と、同時に持っていた大剣を両手で強く握ると、大剣に稲光が走った。
「しかし、これで終わらせようじゃないか、勇者よ」
マレードは掌の黒い球をさらに大きくする。
「へっ、初めて考えが一致したんじゃないか、魔王よ。もちろん、お前を倒して終わりにしてくれる!」
リオゼットは大きく息を整えて、さらに大剣に力を込めた。それに比例するかの如く、大剣の光はさらに強くなる。
『コレで終わりだ!』
魔王と勇者両名は一斉に駆け出し、相手と対峙する。
「ルーファ・ラレスト!」
「イラト・デンジョーズ!」
己の最大限を、魔王を黒き球として、勇者は稲光を纏った大剣としてぶつけた。
すると互いの力が凄まじいほどの力となって両者を包み込み、収束した頃には両者の姿は消えていた。
「ここは……」
真っ白で何も無い空間の中で、魔王マレードはゆっくり瞼を開く。ふと、自分の体をみると、少しずつではあるが塵と化して消えていくのが分かった。
「我輩はここで……消えるのか?」
そんな事を考えていた魔王の正面には薄っすらではあるが、光が見えていた。
それが見えた魔王は、必死に手を伸ばし、その光を掴もうとしていた。
***
「……ちゃん、お兄ちゃんってば。おーきーなーよー。遅刻しちゃうよ?」
篠草和之は、妹に体を力任せに揺らされて目が覚めた。
和之はゆっくりと起き上がり、まだ開ききらない瞳で目覚まし時計を見る。時間は午前七時、そろそろ学校に行く準備をしなければいけない時間だ。
「おはよ、ミチカ」
「うん。おはよ、お兄ちゃん」
すでに高校の制服に身を包んでいた妹の篠草ミチカは、天使のような笑顔で兄の和之にあいさつを返す。
「それにしても、ミチカに起こされるまで変な夢を見ていたような気がするんだけどなぁ」
和之はベッドから降りて、自分のクローゼットから制服を取り出し、袖を通す。
その際、先ほどまでの夢の内容をボーっと考えていたのだが、不思議なことに全く思い出すことが出来ない。
特徴的な夢だったことは覚えているのだが、すべてが何かしらのフィルターにかかっているかのように、脳内が思い出すのを拒んでいる様子だった。
「ほらぁ、お兄ちゃんってば、ボーっとせずに早く着替えなよ。ご飯冷めちゃうし、とっとと顔を洗ってきなって、ホラ」
ミチカはそういって、和之の着替えを手伝い、兄を洗面所に誘導させるべく、ぐいぐいと背中を押して部屋から追い出した。
ミチカは兄を追い出した後、ゆっくりと扉を閉めて、その扉にもたれかかる。
「ふぅ、危ないところだった。そろそろ事を急がないと駄目そうだな。なんとしても、アレを思い出さないようにしてもらわないと」
ミチカが呟くその口調は、女の子らしさは全く感じられなかった。
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