1
寒かった。
箱の中から出られず、ただ震えていた。
いじめる手がたくさんあった。
手は、怖いもの。
そう覚えた。
箱の中には俺より小さい、だいだいがいる。
他には誰もいない。
だいだいは小さいんだから、俺が護らなきゃいけない。
そう思った。
だいだいを護る為、俺は必死で箱の中で耐えた。
たくさんたくさん怖い手と戦った。
ある日。
『行くぞ』
おっきな手が、いきなり俺とだいだいを抱き上げた。
必死で暴れた。
でもだいだいが、そのおっきな手に擦り寄った。
……裏切られたような、気がした。
痛い『ちゅうしゃ』や苦い『くすり』をたくさん飲んで、俺とだいだいは元気になった。
元気になった後、おっきな手は、俺達をおっきな場所に連れて行ってくれた。
そこの手は、誰も俺達をいじめなかった。
だいだいは、おっきな手や他の手と仲良くしだした。
そして。
おっきな手が連れてきたおっきな場所にいた、同じ猫のくれないや他の動物達とも仲良くなっていた。
俺はいつも庭の隅で、皆がおっきな手に懐くのを見ていた。
くれないは優しかった。
他の動物達も優しかった。
おっきな手も、他の手も、優しかった。
だいだいが懐いた理由が判った。
俺はまだおっきな手が怖かった。
でも、本当は、だいだいや、くれないにおっきな手がしているように。
俺も、おっきな手に撫でて貰いたかった。
でも、怖い。
おっきな手が優しいのは、だいだいとくれないにだけなんじゃないだろうか?
おっきな手は、俺も…受け入れてくれるんだろうか?
今日もだいだいとくれないがおっきな手に懐いているのを、木の影から見つめる。
傍に近づける勇気があれば。いつか、撫でて貰えるのだろうか?
おっきな手が、俺の事も手招きしている。
俺の事も、呼んでくれる。
でも近付くのは…怖くて。
「ここに置いておく」
みるくが、おかれた。
おっきな手がいなくなるのを見て、警戒しながら近付いて、食べた。
何故か、みるくは……しょっぱい気がした。