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姫の微笑、侍女の苦笑

作者: 東山天音

初投稿です。お手柔らかにお願いします

ある日のヒルファティ国の城内。

平和で穏やかな時間が過ぎていく中、とある一室で悲鳴が上がった。

「さぁ、ルル、観念なさい!」

綺麗なドレスに身を包み、お仕着せを着た年上の侍女に詰め寄る少女。

「ひ、姫様!お止めください!!ご結婚の決まられた淑女のなさる事ではございません!!!」

詰め寄られている侍女は、普段は冷静な彼女にしては珍しく表情を引きつらせながら逃げ腰である。

「問答無用!おやりなさい!!!」

姫の号令に、姫の後ろに控えていた侍女仲間がワッと取り囲む。

「裏切り者ぉぉお!」

憐れ囲まれた侍女は成すすべなく生け贄となった。


詰め寄ってい少女はヒルファティ国王女オリヴィア・ミリー・ヒルファティ。予てから思い合っていた幼馴染のマヴィンカーヴ侯爵家長男のアルトゥーロとの結婚が決まった。今、城は姫の輿入れ準備で忙しいのだ。姫付きの侍女となれば、中心となり動かなければならない。そんな自分が何故こんな事に…と件の侍女ルリューシア・シェーンベルク伯爵令嬢は嘆いている。侍女仲間は嬉々として姫の命令に従い、ルルを着飾っていた。ブルーブラックのゆるく癖のある長い髪は綺麗に結い上げられ、清楚なデザインの水色のドレスを着せられていた。その姿は普段のお仕着せからは想像ができないものだった。


「さぁ、もうすぐ時間ね。ルル頑張ってきて!で、後で感想を教えてね♡」


ルルの姿を見て満足気なオリヴィアは「うん」と頷く。

なんの説明もなく、この状況に翻弄されたルルはジト目で姫を見る。

「姫、なんの説明もなく『頑張って』と仰られても、どうしたら良いのか分かりかねます。」

着飾らせていた侍女仲間は、いい仕事をしたと満足気な表情で互いの健闘を讃えあっていた。無論、誰も問いには答えない。



ドアをノックする音がして、オリヴィアが入室を許可すると侍女仲間がサッとドアを開ける。

「オリヴィア姫、この度は我が姪の為にご尽力賜り、誠にありがとうございます。…ルリューシアとても綺麗だよ。さぁ、行こうか」

「ルカ叔父様!?シェーンベルクもグルなのね!」

叔父の入室にルルは天を仰ぐ。

「そう言うものではないよ。ルル行くよ?」

ルカは手を差し出しルルをエスコートしてオリヴィア姫の部屋を出る。そこで自身のお見合いがセッティングされ、今日、しかも今から行われる事を知る。

「心の準備も出来てないわ、ヒドイ‼」

しかめっ面になるルルにルカは苦笑する。

「『姫のご婚礼が決まるまでは、私の結婚など考えられません』と並みいる求婚を断り続けた報いだよ。ルル、君も18だ。オリヴィア姫も心配されたんだよ。」

叔父の言葉にフイッと横を向く。そんなルルを眺めつつルカは話を続ける。

「お相手は姫も吟味された方で、兄上も認めた見合いだ。今日来れなかった事を残念がっていた。とりあえず会うだけ会ってみなさい。」

「この状況で逃げられる方がいらっしゃるならお目にかかりたいわ。」

ため息一つ着くとルルは上目遣いで叔父を見る。対するルカは自分の兄でルルの父親とよく似た顔に笑顔を見せる。

「さぁ、君の愛らしい笑顔を見せて。お相手に罪はないからね。」


そうして連れて来られた城内の一室。叔父がノックをすると中から入室を許可する声がかかりドアが開く。

エスコートをされ入室すると、息を飲む音がした。目を向けるとそこには長い髪をゆるく一つに結び、騎士団の礼服を着こなす美丈夫がいた。横にはよく似た年配男性がいる。

「今日は時間を割いていただき、ありがとうございます。ローレンツ侯爵。ルカ=アンリ・シェーンベルクでございます。当主シャルルが本日参る事ができず申し訳ございません。また改めて挨拶に伺わせていただきたく存じます。」

「こちらこそ、シェーンベルク伯と懇意になれて嬉しく思う。」

ルカは優雅に挨拶をする。ローレンツ侯爵と呼ばれた年配の男性も挨拶を返す。シャルルが来れない理由は、宰相をしている手前分かっているからか特に咎めはない。身分から言えば『伯爵』であるシェーンベルク家に利があっても『侯爵』であるローレンツ家に利があるようには思えない。シェーンベルクの特殊な事情をローレンツは知っていての発言だろう。

「本人達は見知っているだろうが、ローレンツ家次男のクラウディオだ。」

クラウディオは父親に紹介され騎士の礼をとる。

「シェーンベルク家次女、ルリューシアです。」

叔父の紹介に貴婦人の礼をとる。


場を取りなし始めは4人で話していたが、その内後は若い2人で…と部屋から追い出される。仕方なく二人は庭に向かいだす。

「お相手はクラウディオ様でしたのね。」

ルルはクラウディオにエスコートされつつ苦笑を浮かべる

「はい。ルル殿はご存知なかったのですか?」

ルルの反応に今日会ってからの様子を思い出す。

「姫も家の者も何も。いろんな話をお断りしていたからだと、叔父に嗜められましたわ。」

ルルは肩を竦める。クラウディオはその様子にクスクス笑う。

「それは災難でしたね。お陰で私は前もって断られずにすみました。」

二人は庭に出る。綺麗に晴れ渡った空から光が差し、色鮮やかな植物が目を楽しませる。

「姫の使いでアルトゥーロを呼びにいらっしゃる貴女を、騎士達が慕っているのはご存じですか?」

「いえ……」

騎士団に所属している姫の婚約者アルトゥーロを呼びに、騎士団のところへは度々訪れていた。しかし義兄やアルトゥーロ自身が睨みを効かせていたのでアプローチを受けた事はない。城で醜聞に巻き込まれるのは御免と立ち振舞い、気づかないふりをしていた。

「…私もその一人ですよ。だから今回の話は驚きましたし嬉しくもありました。姫様に仕え陰日向なくいらっしゃる凛とした姿も、家族や友人と過ごされてる時の朗らかな貴女も好きです。」

クラウディオがそのように自分を見ていた事は知らなかった。気づかせないとは。第二騎士団の副隊長職も伊達ではない。

「え、あ…」

ルルの様子にクラウディオは微笑む。

「驚かれているルル殿を見るのは珍しい。」

クラウディオの言い様にルルは深く息をつく。自分の為にフォローをしてくれたことに感謝し乗る事にする。

「まぁ、その様な事を仰るなんてクラウディオ様もお人が悪い。グレン義兄様や姉様といる時にお会いした事を仰ってるの?」

「グレンとは幼なじみですし、彼から貴女やグレンの奥方である貴女の姉の話も聞きますよ。」

主に惚気ですけどね、と肩を竦める。二人でクスクスと笑いあう。

「クラウディオ様、本当に私でよろしいのですか?」

首をかしげ尋ねる。

「ルル殿、貴女がいいのです。貴女以外はいらない。」

真剣な眼差しにニッコリと笑顔になる。

「こんなに想われて…しかもクラウディオ様の様な方に。私は幸せ者ですわね。まだ騎士としての貴方しか存じあげませんが、互いを知る時間はたっぷりありますもの。よろしくお願い致します。」

クラウディオは満面の笑みを浮かべ、ルルを抱き締めた。



「私はアルトゥーロもルルも大事なの。二人とも幼い頃から一緒にいてくれた。結婚して私達に子どもが出来たら、私みたいにルルの子どもと友人になって欲しいの。だから、ルルには結婚してもらわなきゃ!勿論幸せである事が前提よ」

オリヴィアは自分の応接室で婚約者のアルトゥーロとお茶をしている。オリヴィアの言い様にアルトゥーロは苦笑した。

「オリヴィアのワガママで、ルルは今お見合いしてるのか」

オリヴィアはプクゥと頬を膨らます。

「そんな言い方ないじゃない。『姫のご婚礼が決まるまでは、私の結婚は考えられません』なんて理由でどれだけ断ったか。今まで言われ続けたのだから意趣返しよ。アルトゥーロから見てもローレンツ侯のクラウディオはいい男なんでしょう?」

「ああ、間違いなくね。ルルを大事に想っているし、ルルの好みじゃないかな?」

クラウディオはチャンスを逃さない。ルルは捕まえられるだろう。シェーンベルク伯も認めたし、願ってもこんな話はそうそうないだろう。

「それよりも、ルルが帰ってきたら小言では済まないよ。覚悟しておいた方がいいんじゃない?」

それは僕もだけどと苦笑しつつオリヴィアを諌めるアルトゥーロだった。


…オリヴィアは、いつものお仕着せに着替えたルルに、結婚前提でお付き合いが決まった(ほぼ結婚が決まったということだが)報告を受けた。その後にみっちり小言があった事は言うまでもない。

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